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ウクライナのNATO加盟は可能か

NATO首脳会談の行方

現在NATO首脳会議がリトアニアの首都ビルニュスで行われています。

この会議での最も重要な議題はウクライナのNATO加盟問題です。

この点について米誌Foreign Affairsが「Don’t Let Ukraine Join NATO」(ウクライナをNATOに加盟させてはならない)と題された論文を掲載しました。

著者は米国のシンクタンクCato InstituteのJastin Logan氏です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

今週ビリニュスで開催されるNATO首脳会議では、ウクライナの加盟が中心議題となる予定で、ウクライナは、ザゴロドニュク元国防相が最近『フォーリン・アフェアーズ』誌に書いたように、同盟によって「歓迎され、受け入れられるべき」と主張しています。

 

NATO の加盟には、同盟国がお互いのために戦い、死ぬという誓約が含まれます。

まさにこの理由から、加盟国は冷戦終結後の時代を通じて、短期的に攻撃されるリスクに直面する国々への同盟拡大を避けるよう努めてきました。

NATO指導者らはまた、ウクライナの承認にはロシアとの戦争(核戦争を含む)の極めて現実的な可能性が伴うことを長い間理解していました。

しかし現在、ウクライナに同盟への道を約束し、将来のために戦うと約束することに多くの人が賛成しています。

 

ウクライナはNATOに歓迎されるべきではなく、これはバイデン大統領が明確にすべきことです。

ロシアの侵略に対するウクライナの抵抗は英雄的でしたが、 ウクライナ加盟が米国にもたらす安全保障上の利益は、ウクライナを同盟に加えるリスクに比べれば微々たるものです。

ウクライナをNATOに加盟させることは、ロシアと戦争してそれに伴う壊滅的な結果を招くか、尻込みして同盟全体にわたるNATOの安全保障の信頼度を下げるかの厳しい選択を迫られる可能性があります。

ビリニュス首脳会談以降、NATO指導者らはこうした事実を認め、ウクライナへの扉を閉ざすのが賢明でしょう。

 

2008年にルーマニアで開催されたNATO首脳会議で、ジョージ・W・ブッシュ大統領はジョージアとウクライナが同盟に加わるようロビー活動を行い、皆を驚かせました。

当時ブッシュ大統領は自分の功績を歴史に記すことを望んでいたそうです。

ドイツやフランスを含む多くの欧州加盟国は、避けられないロシアの反応や同盟への影響を懸念し、この案に二の足を踏みました。

NATOはこれら諸国がいつか加盟すると宣言したが、具体的な時期は示さないという妥協案をもたらしました。

しかし、この妥協さえも、プーチン大統領を刺激し、彼はブカレストで次のように語りました。

 

「我々は、我が国の国境に強力な軍事ブロックが出現する事を、我が国の安全に対する直接の脅威とみなしている。 このプロセスはロシアに向けられたものではないという主張だけでは十分ではない。 国家安全保障は約束に基づくものではない。」

 

4か月後、ロシアはグルジアに侵攻し、今日に至るまでその領土の一部を占領しています。

ロシアが国家安全保障の核心的とみなす地域へのNATOのさらなる拡大は、ロシアとの戦争を望む事を意味します。

 

これまでのところ、米国とNATOのウクライナ戦争へのさらなる関与を主張する人々は、危機に瀕している米国の戦略的利益を明確にすることができていません。

バイデン政権は、大統領自身が述べたように、「独裁者が侵略の代償を支払わない場合、さらなる混乱を引き起こし、さらなる侵略を行う」ことを歴史が示していると主張しました。

しかし、ロシアはすでにその侵略に対して莫大な代償を払っています。

ロシアが軍を再建し、プーチン大統領が戦争を始めたときのようなみすぼらしい状態にまで戻すにも数十年かかるでしょう。

米国は、10万人以上のロシア戦闘員が死傷したと推定しています。

 

欧州の安定と安全のためにはウクライナが同盟に加わることが必要だという見方もあります。

この論理によれば、プーチン大統領がウクライナで阻止されなければ、彼は目的を拡大し、NATO加盟国を攻撃するとのものです。

2番目の論拠はウクライナそのものに焦点を当てており、NATO加盟がロシアからウクライナを守る唯一の方法であると主張しています。

最後に、ウクライナはロシアと戦い、弱体化させることでNATOへの加盟権を「獲得した」というものです。 

 

これらの主張は間違っています。

まず、ウクライナの抵抗は崇高ですが、崇高な行動が無制限の安全保障上のコミットメントという高いリスクを負うことを正当化するものではありません。 

100年以上にわたり、米国の欧州における目標は反覇権主義でした。

第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして再び冷戦において、米国は一国による欧州大陸の支配を阻止するために高い代償を払いました。

しかし、今日、そんな国はありません。

もしロシアが発砲せずにウクライナ全土を併合していたら、GDPは10パーセント成長し、かろうじてイタリアより大きくなっただけです。

「プーチン大統領のウクライナ征服」が「アメリカの安全保障に直接的な影響」を与えることはあり得ないのです。

ロシアがポーランド、ましてやフランスやドイツにとって深刻な脅威となる可能性があるという考えは突飛です。

ウクライナをNATOに加盟させることで米国政府が得られる利益は限られていることがわかります。

 

クレバ外務大臣が主張したように、ウクライナが「NATOの東側面全体を守る」としても、米国がこれらの利益を得るためになぜウクライナを同盟に参加させなければならないのかは不明です。

ロシアの支配に屈しない限り、ウクライナの地理は、NATO加盟に関係なく、ロシアに対する防波堤としての役割を担います。

2022年2月以降の出来事は、米国とその同盟国がロシアの侵略に効果的に抵抗するためにウクライナがNATOに加盟する必要がないことを示しています。



NATO条約第 5 条は極めて明確です。

一国に対する攻撃は全員に対する攻撃です。 

 これが、ウクライナがNATO加盟が将来のロシアの侵略から自国を守るのに役立つと信じている理由です。

 

このような保証をウクライナに拡大することには2つの問題があります。

第一に、第5条の保証は米国をロシアとの直接の紛争に引き込む可能性がある。

最近同盟に加わった他の国とは異なり、ウクライナは今後も国境内でロシアとの未解決の紛争を抱え続ける可能性が高く、もしウクライナがNATOに加盟していれば、米国は軍隊を派遣し、さらにはウクライナのために核兵器を使用すると脅すことで、ウクライナを守るよう促される可能性があります。

米国の政策立案者らは、ウクライナのNATO加盟への道を作ることで、将来のロシアのウクライナ侵略を阻止したいと考えているかもしれませんが、そうすることで、バイデン氏が言うところの「第三次世界大戦」シナリオに米国を引き込む現実的な可能性が生まれます。

第5条の保護をウクライナにも拡大することは、米国の信頼を損なう可能性もあります。

過去16か月間、バイデン政権は、ウクライナをめぐる紛争でロシアと直接戦う価値はないと考えていることを明らかにしてきました。

トランプ元大統領を含む多くの影響力のある共和党政治家は、ウクライナのためにアメリカ人の命を危険にさらすことに更に消極的です。

一方、プーチン大統領以下のロシアの政策立案者らは、たとえ多大な犠牲を払ってでも、ウクライナのために戦う価値があると感じていることを明らかにしました。

 

こうした状況下では、ウクライナのために戦うという米国の決意には疑いの余地があるでしょう。

ロシアがその決意を試す誘惑に駆られ、将来の危機につながる可能性は十分にあります。

もし戦闘を要請されれば、米国がその保証を反故にし、ウクライナを窮地に陥れる可能性は十分に考えられます。

そして、ウクライナが攻撃を受けているときに米国がウクライナから撤退すれば、 NATOにとって真の信頼性の危機が生じる可能性があります。

 

ウクライナ防衛には費用の問題もあります。

ウクライナ戦争は、通常兵器を使用した現代の戦争が信じられないほどの量の資源を消費することを明らかにしました。

ウクライナをNATOに招待することは、既に国内とアジアの両方で深刻な資源需要に直面している米国政府に更なる問題を生じさせる事になります。

最後に、ウクライナにNATOへの道を提供することがロシアに現在の戦争を継続させるインセンティブを与える為、西側のコストは膨らむ可能性があります。

悲劇的なことに、ウクライナにNATO加盟への道を提供することは、NATO加盟を実現させる事を妨害する為、ロシアにできるだけ長くウクライナとの戦争を続ける理由を与える可能性が高いのです。

一方で、もし現在の戦争が沈静化し、ウクライナが加盟プロセスを開始しても、ロシアはプロセスが完了する事を阻止するために再び激しく攻撃する可能性が高いのです。

 

ウクライナがNATOに加盟したいという願望は理解できます。

より強力な隣国からいじめられ、侵略された国が外部勢力の保護を求めるのは完全に理にかなっています。

それでも、戦略とは選択が重要であり、今日米国の置かれる状況は厳しいです。

冷戦後のほとんどの期間、米国は比較的低いコストとリスクで国際的なコミットメントを拡大することができました。

そうした状況はもう存在しません。

国内の財政圧力、アジアにおける米国の権益に対する中国の挑戦を踏まえ、大きな危険をもたらすが見返りがほとんどないようなコミットメントをする代わりに、米国はウクライナに対するNATOの扉を閉じる時期が来たことを受け入れるべきです。

ウクライナは戦争を続けるべきか

筆者も上記論文の指摘する通り、ウクライナをNATOに加盟させるのは無理があると考えます。

その主因はウクライナの為に戦うことにロシア側が躊躇が無いのに対して、米国はそこまでの覚悟が無いと思われるからです。

となればロシア側は米国の出方を試したくなる誘惑に駆られ、ウクライナ侵略を試みる可能性があります。

ウクライナがNATOに加盟していれば、その場合米国とロシアの直接対決が避けられません。

 

トルコのエルドアン大統領が今週ゼリンスキー大統領と会談し、ウクライナのNATO加盟を支持すると発言しました。

この発言には正直驚きました。

ウクライナのNATO加盟に真っ先に反対するのはトルコではないかと思っていたからです。

しかしエルドアン大統領の発言の裏には「米国がウクライナをNATOに加盟させるだけの覚悟はないだろう。フランスなども同じだ。そうであればゼリンスキー大統領に一つ貸しを作っておくのも良いだろう。」といった思惑があったのではと推測します。

 

ウクライナ戦争は残念ながら相当長く続くと思います。

なぜなら米国がロシアの弱体化を目標としている以上、早期に戦争を終決させようと思っていないからです。

個人的には領土の問題で譲歩しても、一刻も早く停戦する事がウクライナにとって最善の策ではないかと思います。

停戦すれば膨大な復興資金が西側から供与され、ウクライナとロシアの経済格差が顕著になっていくのではないかと思います。

経済力で優れた西独が東独を併合した様に、将来ウクライナが占領された地域を奪い返す事も可能かもしれません。

西側から武器を供与されて代理戦争をやらされるより、その方が遥かにましな選択肢ではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。