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トルコが提案するウクライナ和平案を評価する米国識者

出口はあるのか

ウクライナ戦争は100日を超え、未だに出口が見えません。

この戦争を終わらせるためには、戦後のウクライナに十分な安全保障を提供できるかという難問に解を与える必要があります。

先日トルコ政府が示したイスタンブール コミュニケと呼ばれる安全保障スキームはロシア、ウクライナ両国が関心を示したにも拘らず、その後戦闘が激化したため、交渉が進んでいない様です。

しかし識者の中にはこのプランを評価する人もいる様で、米誌Foreign Affairsが「Ukraine’s Best Chance for Peace 」(ウクライナに平和をもたらす最高のチャンス)と題した論文を掲載しました。

著者は米国のシンクタンクRand Corporationの上級研究員であるSamuel Charap氏です。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

ロシアがドンバスでの攻撃を強化し、その残虐行為が暴露されるにつれ、和平の見通しは遠のいた様です。

今日、双方は事実上外交努力を中断しています。

 

暗闇の中、交渉担当者が成し遂げた成果を人々は忘れがちです。

3月下旬、ウクライナの外交官は、戦争から抜け出す可能性のある革新的な枠組みを紹介しました。

そして3月29日のイスタンブールでの会談に続いてマスコミに漏らされた提案は、すでに双方から少なくとも一定の支持を受けています。

この提案の核心部分は、ウクライナが西側のパートナーとロシアの両方から安全保障を受ける見返りに、NATOに加盟するという野心を放棄し、恒久的な中立を受け入れるという事です。

 

おそらくその目新しさのために、イスタンブールの提案の重要性は、安全保障が同盟条約と同義となっている多くの西側の政府にはまだ正しく認識されていません。

潜在的な敵に対して、集団的防衛でパートナーを団結させる同盟とは異なり、今回の提案は、ウクライナの長期的な安全を地政学的なライバルたちに共同で保証する事を要求します。

直感に反するものの、ウクライナの安全を保証するのは、ロシア自体をウクライナの安全保障の利害関係者として包含するメカニズムとなるでしょう。

NATOではなく中立

ウクライナ戦争において、当局者とアナリストは、安全保障をNATOの基本条約の第5条と同一視する傾向があります。

これは、1つの同盟国に対する「武力攻撃」をすべての同盟国に対する攻撃として扱い、各同盟国に対応するよう求める条項です。

確かに、ウクライナは、この集団的防衛規定のためにNATOに参加することを熱望しました。

そして、米国とそのNATOの同盟国は、第5条の義務と、その結果としてのロシアとの直接の紛争を避けたいがために、ウクライナにメンバーシップを提供することを躊躇してきました。

 

イスタンブールの提案は、ウクライナの安全を確保するための全く異なるメカニズムを想定しています。

マスコミにリークされたコミュニケによると、提案はウクライナを恒久的に中立国として確立し、その非核的かつ非同盟的な地位の国際的な法的保証を提供します。

条約の保証人には、国連安全保障理事会の常任理事国である中国、フランス、ロシア、英国、米国、およびカナダ、ドイツ、イスラエル、イタリア、ポーランド、トルコが含まれます。

ウクライナへの攻撃が発生した場合、これらの保証人は、キーウから公式の要請を受け、緊急の協議を行った後、必要に応じて、「回復、維持することを目的とした軍隊の使用を含む、ウクライナへの支援を提供します。」

提案によると、保証はロシアが占領しているウクライナの一部には適用されません(ただし、ウクライナは国際的に認められた領土全体に対する法的請求権は放棄しません)。

ウクライナは、いかなる軍事同盟に参加したり、その領土に外国の軍事基地や軍隊を受け入れないことを約束します。

ウクライナでの多国籍軍事演習は、すべての保証人の同意がある場合にのみ可能です。

そして最後に、保証人は、ウクライナのEUへの加盟を促進する意図を確認します。

 

イスタンブールでの協議の直後、ロシアがこの提案を拒否するのではとの憶測がありましたが、ロシアの首席交渉官メジンスキーは非常に前向きな評価をしました。

そしてプーチン自身が、4月下旬のグテーレス国連事務総長との会談で、この提案を「真の突破口」と呼びました。

 

実際、イスタンブール コミュニケは少なくとも概念的には画期的なものと言えるかもしれません。

イスタンブール会議の直後に英国がウクライナの保証人になる準備ができているかどうか尋ねられたとき、英国の副首相であるドミニク・ラーブは、「ウクライナはNATO加盟国ではない」と指摘しました。

彼は、ウクライナをめぐって「ロシアを直接軍事対立に巻き込むつもりはない」と付け加えました。

言い換えれば、NATOの同盟国が、ロシアとの戦争に巻き込まれる可能性を憂慮して、ウクライナに第5条の保護を与えることを望まないのに、なぜウクライナに異なる形で同じコミットメントを与える必要があるのかと彼は言いたいのでしょう。

 

しかし、イスタンブール コミュニケで概説されている安全保障は第5条とは大きく異なります。

最も重要なのは、NATO条約とは異なり、提案された協定にはロシアが関与国として含まれることです。

それは保証人として地政学的なライバルを含むので、NATOのような同盟条約ではなく、多国間安全保障です。

ベルギーの教訓

多国間安全保障は、同盟とは根本的に異なる目的を果たします。

NATOのような同盟は、共通の敵に対する集団的防衛を維持することを目的としていますが、多国間安全保障は、保証された国家に関する保証人間の友好を確保し、ひいてはその国家の安全を強化するように設計されています。

この意味で、イスタンブールの提案は、1831年と1839年にベルギーの恒久的な中立を保証した条約と形式が似ています。

この条約以前は、ベルギーは存在していませんでした。

地理的条件のために、その領土はローマ時代からヨーロッパの大国の間で千以上の争いの舞台でした。

ベルギー人が当時の統治者であるオランダに反抗したとき、1830年に、ヨーロッパの大国(オーストリア、プロイセン、イギリス、フランス、ロシア)は長期にわたる交渉を開始し、 最終的に、彼らはベルギーをオランダから分離する広範な条約について合意に達し、「ベルギーを独立した永続的な中立国とし、…他のすべての国はそのような中立国を守る義務がある」ことに同意しました。

条約は、署名した5つの大国の「保証の下に置かれました」。

この取り決めが可能だったのは、ヨーロッパのすべての主要国が、ベルギーの独立、安全、中立を大陸全体の安全に不可欠であると見なしていたためです。

ベルギーは、その領土に障害物がないため、一方が他方に侵入するための直接的な経路となり、隣接する大国のライバルであるフランスとドイツにとって特に重要でした。

しかし、保証人とともに、ベルギーも恩恵を受けました。

ベルギーは独立を獲得し、75年間の平和を享受しました。

 

もちろん、1914年、ドイツはフランスを攻撃するため、ベルギーを侵略して占領し、1839年の条約に違反しました。

したがって、ベルギーの中立性は、失敗した実験と見なされることがあります。

しかし、イギリスはその保証を尊重し、ドイツとの戦争に参加しました。

さらに、ベルギーはこの時点で、条約の下で4分の3世紀の平和を享受していました。

これは、2014年のロシアの最初の攻撃の前にソビエト後のウクライナが享受した平和の時代のほぼ3倍の長さでした。

 

ウクライナの地理は、ベルギーと同様に、国境を接する地政学的なライバルにとって、ウクライナを安全保障上の中心的な関心事にしています。

そして、19世紀から20世紀初頭のベルギーの安全保障と同様に、ウクライナの安全保障は現在、大陸全体の平和と安定の中心と見なされています。

そして、ベルギーの条約のように、イスタンブール コミュニケは、保証された国と保証人の両方に利益を提供します。

ウクライナは、現在のロシアの暴力に終止符を打ち、将来の侵略の可能性に対する強力な保証を得るでしょう。

それはまた、EU加盟への道を大目に見るというロシアの約束を得るでしょう。

一方、ロシアはウクライナの中立性を獲得し、米国、その同盟国、およびウクライナによって法的に保証された協定で、NATO加盟の可能性を絶つ事ができます。

また、ロシアの同意なしにウクライナに外国の基地やそこで運動する外国の軍隊が存在しないという保証も受けます。

そして西側にとって、クレムリンがウクライナのEU加盟への異議を放棄することは、ウクライナがロシアの勢力圏から最終的に離脱することを意味します。

それは可能か

ロシアはイスタンブール計画の恩恵を受けるでしょうが、多くのオブザーバーはモスクワが最終的にそれを承認することを疑っています。

しかし、ウクライナが恒久的な中立を受け入れるならば、ロシアはそれを攻撃することに興味を失うでしょう。

言い換えれば、ウクライナの中立性が確保され、外国の軍隊をその領土から遠ざける法的拘束力のある取引のインセンティブは、将来の侵略から得られるであろう利益を上回ります。

ロシアがその侵略を繰り返すとすれば、それは米国との直接の対決とウクライナの中立性の終焉というリスクを冒すことになるでしょう。

 

2月24日以降、ロシア軍とウクライナ軍を分ける線はほぼ毎日変化しており、どの境界線で停戦するかという難しい課題は残りますが、モスクワとキーウが交渉テーブルに戻った場合、イスタンブール コミュニケは、中間国家としてのウクライナの地位のジレンマの解決への道を示し、地政学的な争いを長期的な安全保障への相互のコミットメントに変えることが可能です。

このフレームワークが成功すれば、モルドバやジョージアなど同じ様な問題を抱える他の国家にも新しいヨーロッパの安全保障モデルを提供することもできます。

 

イスタンブール コミュニケはその合意に困難が予想されます。

ロシアの戦争犯罪、そして進行中の戦闘は、それを達成するための大きな障害となっています。

しかし、これまでのところ、それはウクライナの持続可能な平和を実現する最も妥当な経路と思われます。

ウクライナに永久の平和をもたらすために

ウクライナは筆者も何度か訪れましたが、真っ平らな平原が続く国です。

そのため他国により何度も蹂躙されてきました。

そういう意味では確かに、大国に囲まれたベルギーとよく似た条件が備わっていると思います。

この国に平和をもたらすためには、このイスタンブール コミュニケの様な関連国による安全保障の仕組みが不可欠です。

イスタンブール コミュニケが具体化され、早期にウクライナに平和が戻る事を祈ります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。