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ウクライナ戦争に関する大きな誤解

ロシアと西側の大きな乖離

ウクライナ戦争についての日本での報道は欧米のメディアとほぼ同じ内容です。

ロシアはウクライナ軍の思わぬ反撃を受け、甚大な人的損害を受け、軍の士気も上がらず、西側の経済制裁の効果もあり、いずれは内部から崩壊していくのではとの報道がなされています。

しかし、ロシア側の見方は上記の様な西側の見方とは大きく異なる様です。

この点について米国の外交誌Foreign Policyが「What The West (Still) Gets Wrong About Putin」(西側がプーチンについて未だに誤解している事)と題した論文を掲載しました。

著者はワシントンに本部を置くシンクタンクであるカーネギー国際平和基金の研究員であるTatiana Stanovayaさんです。

その驚くべき内容をかいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

ロシアの意図を理解する事やウクライナ戦争で何が危機に瀕しているのかを理解するのが非常に難しいのは、物事の見方にロシア政府と外国政府の間で大きな違いがあるからです。

ロシアが軍事的勝利を収めることができないと一部の人は確信していますが、モスクワではまったく異なって認識されています。

事実、ウクライナが戦場で勝利するのを助ける方法、キーウに譲歩を強制させる方法、或いはプーチン大統領のメンツを立てる方法など今日の議論のほとんどは現実と乖離しています。

 

ここでは、プーチンがこの戦争をどのように見ているかについて、西側で信じられている5つの誤解を取り上げたいと思います。

西側諸国が、問題解決を目指し、軍事エスカレーションのリスクを減らしたいのであれば、別の見方をする必要があります。

 

誤解1:プーチンは彼が負けていると自覚している。

これは、ロシアの主な目標がウクライナの大部分の支配権を握ることであるという誤った考えに起因しています。

ロシア軍が前進に失敗すれば、西側ではロシアが失敗していると理解されます。

しかし、この戦争におけるプーチンの主な目標は、領土を取得することではありません。

むしろ、彼は「反ロシア」プロジェクトに取り込まれたウクライナを破壊し、西側がウクライナの領土を反ロシアの橋頭堡として使用するのを阻止したいと考えています。

彼らの目的がそうであれば、ロシアは自分たちが失敗しているとは考えていません。

ウクライナは、「ロシア化」(ロシアのプロパガンダで言えば「非ナチ化」)と「非NATO化」(ロシアのプロパガンダ用語では「非軍事化」)に対するロシアの要求を考慮せずに、ウクライナはNATOに参加することも平和に存在することもできません。

ウクライナがNATOと一切の軍事協力を行わない様に、ロシアはウクライナの領土での軍事的プレゼンスを維持し、ウクライナのインフラを攻撃し続けるでしょう。

領土を大幅に拡大したり、ウクライナの首都であるキーウを占領したりする必要はありません(彼が最初にそれを夢見ていたとしても)。

ロシア政府が時間の問題と見なしているルハンシクとドネツク地域の併合でさえ、過去20年間にウクライナに誤った親欧米の地政学的選択をさせた代償を払わせるという、二次的な目標です。

プーチンからすれば、彼はこの戦争に負けていません。

逆に彼は自分が勝っていると信じている可能性があります。

そして、ウクライナがロシアが永遠にそこにいることを認めるまで、彼は喜んで待ちます。

 

誤解2:西側は、プーチンのメンツを立てる方法を見つけるべきであり、それにより、核へのエスカレーションのリスクを減らす事ができる。

ウクライナがロシアの要求のほとんどを受け入れる状況を想像してみてください。

クリミアをロシア領、ドンバスを独立国として認識し、軍備の削減とNATOに決して参加しないことを約束します。

それで紛争は終わりますか?

多くの人にとって、その答えは「はい」であるように見えますが、正しくありません。

ロシアはウクライナとの戦いを行っている様に見えますが、地政学的には、ロシアはウクライナの領土で西側との戦争を行っているのです。

ロシア政府は、ウクライナは西側の手にある反ロシア兵器と見なされており、それを破壊したところで、西側との地政学的ゲームでロシアが勝利することを意味しません。

プーチンにとって、この戦争はロシアとウクライナの間のものではありません。

ウクライナは独立したアクターではなく、中立化されなければならない西側の手先なのです。

 

したがって、ウクライナが(政治的に現実的であるかどうかにかかわらず)どんな譲歩をすることができても、プーチンは、西側がいわゆるロシア問題へのアプローチを変更し、今回の侵略が30年間ロシアの地政学的懸念を米国が無視した結果である事を認めない限り、プーチンは戦争をやめません。

これは長い間プーチンが目指す目的の中心にあり、変わっていません。

キーウによって拒否された非現実的なロシアの要求は、ロシアが西側の団結をテストした可能性があります。

西側は今日、間違った見方をしています。

プーチンが西側の脅威へ強迫観念を抱いている事とこの問題に関する交渉を西側に強制するために彼が戦争を拡大する用意がある事を西側は見落としています。

ウクライナは人質に過ぎません。

 

誤解3:プーチンは軍事的にだけでなく国内でも敗北しており、ロシアの政治情勢はプーチンがすぐにクーデターに直面する可能性がある。

少なくとも当面は、逆のことが当てはまります。

ロシアのエリートは、政治的安定が失われる事を心配しているため、混乱を防ぐことができる唯一のリーダーとしてプーチンの周りに集まっています。

エリートは、政治的に無力で、怖がり、脆弱です。

今日プーチンに反対する動きをすることは、プーチンが(物理的または精神的に)支配する能力を失い始めない限り、自殺行為に等しいのです。

体制は堅固です。

エリートの目覚めは多くの人々が予想するよりもはるかに長い時間がかかるプロセスです。 

 

誤解4:プーチンはロシア国内の反戦抗議を恐れている。

真実は、プーチンは好戦論者の国民の声をより恐れています。

たとえそれがロシア政府自身の宣伝の結果であったとしても、国民の気分は戦争拡大を支持し、プーチンをよりタカ派になるよう促しています。

プーチンは、彼がますます依存している暗いナショナリズムを目覚めさせました。

プーチンに何が起こっても、世界は、ロシアの反西側、反自由主義的な世論に対処しなければならないでしょう。

 

誤解5:プーチンは彼の側近に深く失望し、高官の刑事訴追を認めた。

これも西側で良く取り上げられる問題です。

おそらく、プーチンの元副首席補佐官スルコフ氏の逮捕についての憶測から生じています。

これらの噂はすべて、懐疑的に見られるべきです。

第一に、それらのいずれも確認されていません。

 

これらはすべて、プーチンが負ける過程にあるのでウクライナへの支持を強化すべきか、或いはプーチンが絶望的で危険であるためにプーチンをなだめる必要があるのではという西側が持つジレンマが根本的に誤った方向に進んでいることを意味します。

考えられる結果は2つだけです。

西側がロシアへのアプローチを変えて、この戦争につながったロシアの懸念を真剣に受け止め始めるか、プーチン政権が崩壊し、ロシアが地政学的野心を修正するかのどちらかです。

 

今のところ、ロシアと西側の両方が、時は彼らの側にあると信じているようです。

プーチンは、西側が政治的混乱に苦しんでいることを夢見ているのに対し、西側は、プーチンが苦しんでいると噂されている多くの病気の1つから、プーチン政権が転覆したり、彼自身が死んだりすることを夢見ています。

どちらも正しくありません。

結局のところ、ロシアとウクライナの合意は、ロシアと西側の間の合意の延長として、またはプーチン政権の崩壊の結果としてのみ可能です。

そして、それはこの戦争が何年も続く可能性を意味します。

西側はどう対処すべきか

この論文に書かれている事が正しいかどうかは筆者も判断がつきません。

しかし、上記論文が唱える通り、西側がプーチン氏の真意を誤解すれば、今回の戦争への対処を大きく誤る事になるでしょう。

この論文が主張する通り、プーチン氏の目的が、ウクライナの領土奪取などではなく、西側の手先と彼らがみなすウクライナの麻痺であると仮定した場合、ロシアはその目的を着々と達成している様にも見えます。

国土が戦場となったウクライナは経済的には既に麻痺状態です。

主要な外貨獲得手段であった穀物や金属資源の輸出もままなりません。

欧米の経済援助も今後ロシアが持久戦に持ち込んだ場合、どれだけ続くか見通せません。

ロシアに対する経済制裁も参加している国は40カ国ほどに限られ、BRICSを含む多くの国が参加していませんので、尻抜け状態となっています。

ロシアが国際的なエネルギー危機や穀物供給不足を引き起こしているとすれば、西側はこれに効果的に対処する事ができるでしょうか。

プーチン氏の狙いを正確に理解せずに、西側はこの戦争を終わらせる事は出来ない様に思われます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。