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米国を離れる中国人研究者

対立の深まり

米国の最大の貿易パートナーとしての地位を中国が失ったと最近報道されました。

両国の対立が影響を与えているのは貿易だけではなさそうです。

米国には多くの中国人研究者がいますが、彼らが環境の悪化を理由に米国を離れる動きが加速している様です。

この点について米誌Foreign Policyが「Chinese Scientists Are Leaving the United States」(米国を離れる中国人研究者たち)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要約

困難さを増す研究環境に直面し、海外での職を求めて米国を離れる中国人科学者が増えています。

これは米中関係の悪化が学術協力をいかに困難にし、米国の技術分野の発展を妨げる可能性がある事を示しています。

米国に住む中国人科学者は、数十年にわたり、先端技術と科学の発展に貢献してきました。

しかし、地政学的関係の悪化により中国の研究者に対する厳しい監視が強まり、中国政府が人材の採用に向けた取り組みを強化しているため、彼らの多くは現在、米国外での仕事を探している様です。

2010年から2021年にかけて米国を離れる中国人科学者の数は着実に増加しています。

この傾向が続けば、長期的には頭脳流出が米国の研究努力に大きな打撃を与える可能性があると専門家は警告しています。

 

「これは本当に壊滅的だ」とCato Instituteのデビッド・ビア氏は語りました。

「先端技術分野で米国が依存している研究者の非常に多くは中国出身か留学生であり、この現象は間違いなく今後の米国企業と米国の研究に悪影響を与えるだろう。」

 

半導体チップから人工知能に至るまで、テクノロジーは米中競争の最前線にあり、米中両国は相手を締め付けようと画策しています。 

米国を離れて他国に渡った中国系科学者の数は2010年の900人から2021年の2,621人に急増し、特に2018年から2021年にかけて科学者は急速に国を去ったと言われます。

中国に移住する中国人科学者の割合は年々増加しています。

この数字は米国にいる中国人科学者のほんの一部に過ぎませんが、この増加は、緊迫した地政学的情勢の中で研究者らの懸念の高まりと広範な懸念を反映しています。

報告書は1,304人の中国系アメリカ人の研究者を対象に調査を行った結果、回答者の89パーセントが米国の科学技術のリーダーシップに貢献したいと考えていることが判明しました。

しかし、72%は米国で研究者として危険を感じているとも報告しており、61%は以前から国外に機会を求めることを検討していると回答しています。

報告書は、「米国にいる中国系科学者は現在、米国を離れる動機が高まり、連邦補助金を申請する動機が低下している」と述べました。

退職の動機は 2 つあります。

中国政府は研究開発プログラムを強化しており、長年にわたり、世界中から科学者を採用しようとしてきました。

その取り組みの 1 つである「千人計画」では、北京市は世界中で少なくとも 600 か所の採用ステーションを利用して、新しい人材を獲得しました。

「中国は長い間、科学者を呼び戻そうと真剣に取り組んできた」と『中国のミレニアル世代』の著者エリック・フィッシュは言います。

 

この最近の中国科学者の流出は、2018年に加速しました。

トランプ大統領は、知財盗難に対抗することを目的とした物議を醸すプログラム「チャイナ・イニシアチブ」を発表し、中国系研究者や中国機関との協力に冷や水を浴びせました。

2020年には中国の軍と関係を持つ大学に所属する大学院生や研究者のビザ発給を拒否する声明も出しました。

 

バイデン政権は中国イニシアチブを閉鎖しましたが、その影は依然として中国の科学者たちに迫っていると専門家は警告しています。

在米中国人研究者に対する調査では回答者の3分の1以上が米国では歓迎されていないと感じていると回答し、3分の2近くが中国との研究協力について懸念を表明しました。

アリゾナ大学高等教育研究センター教授のジェニー・リー氏は、「中国との協力には偏見があり、我々は今も両国の協力関係が萎縮している事を目の当たりにしている」と述べました。

この問題は、特に一部の州の議員が中国側との関係を断つよう圧力をかけている中で、米中関係の破綻がいかに大学を地政学的対立に巻き込んでいるかを象徴しています。

米国側では、北京語の学習や中国留学への関心はここ数年で急落していますが、これは主に関係悪化、中国政府の弾圧強化、新型コロナウイルスのパンデミックの影響によるものです。

現在、アメリカには約30万人の中国人留学生がいますが、昨年中国に留学したアメリカ人はわずか350人です。

中国に対する関心が後退し続ければ、中国政府に対する米国の理解を妨げる危険性があると専門家らは警告しています。

米国を出国する中国人科学者の数が増加すると同時に、学生ビザの拒否と滞留件数が記録的な高水準に達し、新規学生はより高い入国障壁に直面しているようです。

Cato Institute によると、学生ビザの拒否率は 2022 年に約 35% に達し、過去 20 年間で最高の率を記録しました。

 

一部の中国人科学者が海外に目を向けているのと同じように、こうした課題により、ますます多くの留学生が学業の機会を求めて他国に目を向けるようになっている。

カナダ、オーストラリア、日本、英国などの国へ向かう学生が増えており、いずれも高度なスキルを持った労働者や研究者に門戸を開いています。

より多くの人材を呼び込むため、英国は「グローバル・タレント」ビザと「ハイ・ポテンシャル・個人」ビザを発行しており、一流大学の学者はそれぞれ2~3年間、1~5年間働くことができます。

大学は「地政学的な緊張の影響を受けており、米国の大学が優秀な人材を引き付ける能力を確実に阻害している」とリー氏は述べました。

中国通がいない米国

筆者がこの論文を読んで一番驚いたことは、中国人研究者の米国離脱の動きではありません。中国に留学する米国人の数がたった350人という数字です。

米国は冷戦時代最大のライバルであったソ連の専門家の育成に注力しました。

「冷戦」という言葉を作ったジョージ.・F・ケナンを始めとして、米国の外交を牽引したブレジンスキー、オルブライト、コンドリーザ・ライス氏などは皆ロシア専門家でした。

最大のライバルを徹底的に研究・分析したからこそ、冷戦は米国の勝利に終わった訳ですが、現在の米国の中国通育成に対する関心のなさには驚かされます。

中国に対抗するには中国通を作るところから始めるべきではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。