MIYOSHIN海外ニュース

世界の役立つ情報をわかりやすくお伝えします。

テクノロジー覇権をめぐる争いの結末は

米中間の緊張高まる

米中の関係は、ウクライナ危機を通じて緊張感を高めていますが、米中の関係が悪化する基本的な理由は、中国が米国の覇権を脅かすのではないかとの不安が米国にあるからだと思います。

特にテクノロジー面で中国の躍進は著しく、米国は相当神経質になっている様です。

この米中の競争はどちらが勝つのでしょうか。

英誌Economistが「China and the West are in a race to foster innovation」(イノベーション覇権をめぐって争う中国と西側)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

「中国政府は、将来のAI競争に勝利し、未来を勝ち取ることを狙っている。」と、7月に米国上院議員であるトッド・ヤングは警告しました。

西側諸国と中国との技術競争において「自由な社会、開かれた市場、民主的な政府、そして強制ではなく自由に根ざした世界秩序の将来は危機に瀕している」と米国側は主張しています。

今週、英国の諜報機関の長官がこれに共鳴し、中国の成長に対抗するために新技術への「大規模な投資」を促しました。

 

不安になるのはよくわかります。

2008 年時、中国は研究開発 (R&D) において米国の 3 分の 1、ヨーロッパの半分(購買力調整後)に過ぎませんでしたが、 2014年にヨーロッパを上回り、 2020 年にその支出は米国の 85% に上りました。

 

この投資の成果が明らかになりつつあります。

日本の研究機関は 8 月に、中国は今やアメリカよりも世界で最も引用回数の多い学術研究を生み出していると発表しました。

2015年以降、米国よりも多くの特許が中国で発行されています。

したがって、西側諸国が技術的優位性を維持または回復するために必死の努力を始めているのは不思議ではありません。

10 月 7 日、アメリカは、高度な半導体および関連機器の中国への輸出に対して、新たに厳しい制限を課しました。

アメリカ政府は、外国へのテクノロジーの流出を食い止めようとするだけでなく、イノベーションへの投資を増やしています。

8 月に議会は、研究のための多額の資金を含む、グリーン エネルギーへの 3,700 億ドルの支出を承認しました。

7月、半導体産業に 5 年間で 520 億ドルを提供する Chips and Science Act が可決され、その一部は民間の研究開発にインセンティブを与えます。

この法律はまた、国立科学財団 (NSF) を改革して、応用科学と技術をより重視し、その資金を倍増させる可能性があります。

同盟国のドイツ、日本、韓国は、半導体に数十億ドルの投資を行っています。

 

これらすべての結果として、イノベーションへの投資が世界的にブームになっています。

2020 年、世界の研究開発費は 2.1 兆ドルを超え、世界の GDP の 2.5% を超えました。

今回の投資ブームの特徴として、資本市場に投資を任せるのではなく、代わりに政府が研究開発に資金を提供している点が挙げられます。

中国も西側諸国も、そのような支出を地政学的な競争に明示的に関連付けています。

 

しかし、中国と西側のアプローチには大きな違いが残っています。

最も顕著なのは、中国がイノベーションを有利な産業に向けるという点で、政府がはるかに強力な役割を果たしていることです。

対照的に、西側諸国は、優先順位を設定する自由度が高く、大学、非営利団体、および民間企業のより広範なネットワークに依存しています。

中国のシステムが一部の既存技術で西側諸国に追いつくのに役立ったことに疑いの余地はありませんが、アナリストはそれが将来のブレークスルーを生み出すのに優れているかどうか疑問に思っています。

 

米中両国ででイノベーションに費やされた金額を適切に比較できるようにするために、弊紙(Economist)が分析した結果によれば、アメリカの2020 年の支出額は約 8,000 億ドル、中国は約 6,600 億ドルとなります。 

中国の支出は西側諸国よりもはるかに急速に伸びていますが、中国における資金は非効率に使われる可能性があります。

というのも国が生産性の低い国有企業を支援することが多いからです。

しかし、中国もシステムの欠陥の一部を修復しようとしています。

より多くの画期的な発見を促進するために、昨年は基礎研究への資金提供を 16% 増やしました。

また、中央集権化の削減にも取り組んでいます。

科学者を適切に評価するために西側の査読システムに移行し始めている様です。

 

中国は最近習近平氏がテクノロジー産業を管理下に置くという決定を下したことで、2019 年の最初の 3 四半期から 2022 年の同時期にかけて、ベンチャー キャピタル(VC)への投資が 11% 減少しました。

アメリカでは、VC への投資は同時期に 70% 増加しました。

一方、中国の頑固なコロナゼロ政策は、外国資本と人材を国外に追い出しています。

ドイツ商工会議所が5月に実施した調査によると、外国人労働者の約3分の1が退職を計画していることがわかりました。

そのような才能は競争力にとって不可欠です。

過去に、中国は海外からの投資と、海外で働いたり勉強したりして戻ってくる学生や研究者である「ウミガメ」の両方から恩恵を受けていました。

海外で勉強し、最終的に帰国した中国人学生の割合は、2004 年の 25% から 2019 年には 65% に上昇しました。

また、雑誌ネイチャーに依れば、2015 年から 2019 年にかけて、アメリカと中国の研究者間の協力を含む学術論文の数は 10% 以上増加しました。

しかし、2020 年には、両国間の学術協力のこのような成長は突然失速しました。

2022年上半期に留学ビザを取得した中国人は、2019年上半期と比べて半分以下です。

これは世界にとって悪い事ですが、中国が被る痛手はより大きいかもしれません。

中国は西側ほど多様な研究者集団を抱えていません。

世界最高の AI 研究者の 60% がアメリカで働いていますが、その 3 分の 2 以上は外国人 (そして 4 分の 1 以上は中国人) です。

対照的に、中国は国内の優秀な人材を主に利用しています。

最高の AI 研究者のほとんどは中国人であり、その 70% は中国でしか研究していません。

 

アメリカは外国の専門知識に対して開かれているだけでなく、他の技術先進国との同盟関係の大規模なネットワークからも恩恵を受けています。

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、韓国を合わせると、研究開発費は中国の 2 倍以上になります。

対照的に、中国には同盟国がほとんどなく、研究とイノベーションの原動力となる国もありません。

 

しかし、アメリカの政治家は、自国の開放性がもたらす利点を理解していないようです。

半導体法案の原案には、熟練した移民を後押しする条項が含まれていましたが、共和党の支持を確保するためには削除せざるを得ませんでした。 

しかし、米国の開放性の限界が何であれ、中国の孤立の拡大は、自主的に課した物でもあり、米国の技術輸出制限によって生じたものでもありますが、はるかに深刻です。

その技術的進歩は数年前には止められないように見えましたが、その見通しは突然明確ではなくなりました。

米国は中国の躍進を止められるか

技術覇権をめぐる米中両国の戦い、結末はどうなるのでしょうか。

米英の論者の中には、自由民主主義とテクノロジー優位性を関連づける人がいます。

以前バイデン氏も議員時代に「自由のない国に技術的なブレークスルーは生じない。」と語ったとされますが、筆者はこの意見には賛成しません。

確かに旧ソ連は冷戦時代に米国に技術面で遅れをとりました。

しかしそれは旧ソ連に自由がなかったからではなく、市場経済が導入されていなかったからだと思います。

要するに素晴らしい技術を生み出しても億万長者になれるというチャンスがソ連にはなかったのです。

一方、現在の中国は市場経済の国です。

億万長者もたくさんいます。

彼らのモチベーションは非常に高いので、新しい技術がどんどん生まれる可能性を持っています。

海亀と言われる中国人留学生の多くが米国に留まるより母国に帰国する事を選ぶ様になっていますが、これは、貴重な人材を失うという意味で米国にとってより痛手ではないかと思います。

そういう意味で、米中の技術競争は必ずしも米国の勝利に終わるとは限らないと思います。

 

先日、中国の大学受験競争を描いたNHKドキュメンタリーを観ました。

年に一回しかない全国統一テストの席次で人生が決まる為、親が職場を離れて子供の高校に近い場所に、受験前数年間一緒に寝泊まりするなど、日本を上回る凄まじい受験熱を感じました。

さすが科挙の国です。

この教育熱はこの国の成長を約束する物だと思います。

歴史を翻れば、中国が世界一の強国の座を欧米に譲ったのは、アヘン戦争以後の僅か二百年足らずの間です。

長い歴史を考えればほんの僅かな期間です。

中国人はもうすぐ自分達の定位置に戻ると確信しているのではないでしょうか。

 

そんな中国もアキレス腱がないわけではありません。

少子高齢化の急速な進展はその一つですが、もう一つはやはり独裁の度合いが高まり、指導者の周りにイエスマンばかりが集まるようになった時は危ういと思います。

当面米中が火花を散らす事は間違いありませんが、その結末は我が国にも大きな影響を与えます。

しっかりその行く末を見守る必要があるでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。