MIYOSHIN海外ニュース

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大国の都合に左右される小国の悲哀

長期化する戦争

ウクライナ戦争は一年を超えました。

今年に入り、東部戦線で激しい攻防が続いている様です。

バイデン大統領がキエフ入りするなど、欧米はウクライナ支援を強化している様ですが、実情はどうなっているのでしょうか。

米紙ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)が「NATO’s Biggest European Members Float Defense Pact With Ukraine」(独仏英がウクライナにNATO防衛協定を提案)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

独仏英は、「NATOとウクライナの関係強化には、ロシアがウクライナの一部領土を占拠している現状でも、ウクライナがロシアとの和平交渉を開始するよう促す狙いがある。」と述べました。

英国のスナク首相は先週、ウクライナが戦争終結後に自国を防衛するための高度な軍事装備、武器、弾薬を入手できる様、青写真を提示しました。

彼は、この構想を7月のNATOの年次総会の議題に入れるべきだと述べました。

フランス、ドイツもこの構想を支持しており、この構想がウクライナの自信を高め、ロシアとの交渉を開始するインセンティブとなると見なしていると述べています。

当局者は、和平交渉がいつ、どのような条件で開始されるかについての決定は完全にウクライナに委ねられると慎重に述べましたが、金曜日、スナク氏は、西側諸国は戦闘機を含む戦場でウクライナに「決定的な優位」を与える兵器を供与すべきだと述べました。

 

しかし、3カ国の当局者によれば、表向きの発言とは裏腹に、ウクライナが2014年以来ロシアが支配してきたウクライナ東部とクリミア半島からロシアを追放できないとの疑念が英独仏の政治家の間で高まっている様です。

特に紛争が膠着状態に陥った場合は、ウクライナへの軍事支援をいつまでも継続できないとの見方があります。

「私たちはロシアが勝ってはならないことを繰り返していますが、それはどういう意味ですか? これほどの激しさで戦争が長引けば、ウクライナの損失は耐え難いものになるだろう。」とフランスの高官は語りました。

そして「クリミアを取り戻すことができると信じている人は皆無だ。」と話しました。

このような論調は、バイデン大統領やその他の西側諸国の指導者による公のコメントとは著しく異なります。

 

米当局者は、英独仏によって提案されたウクライナとNATOの安全保障協定についてコメントすることを拒否しました。

米政府は、将来のロシアの攻撃を抑止するために、戦後にウクライナが十分に武装することを望んでいると述べました.

ドイツ政府もコメントを控えました。

英仏両政府も現時点で返答はありません。

 

フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は、ゼレンスキー大統領に対し、今月初めにパリで会談した際、ロシアとの和平交渉を検討する様促したと報道されています。

マクロン氏は、フランスやドイツのような旧敵でさえ、第二次世界大戦後に和解したとゼレンスキー氏に伝えた様です.

マクロン氏はゼレンスキー氏について偉大な戦争の指導者だが、最終的には難しい決断を下さなければならなくなるだろうと語った様です。

マクロン氏は、先週末のミュンヘンでの安全保障会議の後、西側諸国の指導者として初めて、ウクライナとロシアのどちらかが戦場での目標を達成できるかどうかを公に疑問視し、どちらの側も軍事的に勝つことはできないと述べました。

英国当局者は、NATO とウクライナの関係強化のもう 1 つの目標は、ロシア政府の想定を変更させることであると述べました。

西側がウクライナへの軍事支援を長期的に拡大する準備ができていることをロシアに伝えれば、軍事目標を達成できないとロシアを説得するのに役立つ可能性があります。

 

チェコ共和国の次期大統領で元 NATO 司令官のパベル将軍は、ミュンヘン会議で次のように述べています。

「更に大きな犠牲者を生むより、ウクライナの領土の一部を割譲した方が良いとウクライナ人が考え始める時が来るかもしれません。」

中東欧のほとんどの政府は、ウクライナに和平交渉を促すことは、ロシアを元気づける可能性があると恐れていますが、ウクライナをNATOの完全なメンバーにする事についてはおしなべて消極的です。

戦局の実情は

実際のところ、戦局はどちらに有利に傾いているのでしょうか。

日本のメディアを読む限り、ロシア軍の損害はウクライナのそれを大きく上回り、欧米の近代的装備の支援もあって、ウクライナがロシア軍に奪われた国土を回復するのは時間の問題と見做されている様ですが、上記WSJの記事から推察するに、必ずしもそうではない様な気がします。

ロシア軍の損耗率がウクライナ軍を上回っているのは確かな様ですが、ロシア軍は犠牲をものともせず物量作戦で強引に攻勢に出ていて、ウクライナ側はこれを食い止めるのに苦労しているというのが現状ではないでしょうか。

欧米から戦車を含む攻撃的な武器の供与が打ち出されましたが、これらがないと逆に劣勢に立たされると西側が危機感を募らせているのかもしれません。

欧米の姿勢の変化も、ウクライナで戦火が拡大するにつれて、ウクライナへの支援額が膨大となり耐えられなくなってきたという台所の事情がある様に思われます。

米国にRand Corporationという米国国防総省と関係の深いシンクタンクがあるのですが、彼らは今年になって「Avoiding a Long War」という論文を発表しました。

この論文は、「ウクライナ戦争の長期化は米国の国益にそぐわない、ロシアではなく中国との対決に集中すべきだ。」と明確に述べています。

欧米の都合で和平を促されるウクライナは今後厳しい交渉を余儀なくされそうです。

NATOにも入れず中立国として安全を確保するのは、欧米の支援があったとしてもかなり難しいと言わざるをえません。

 

最後まで読んで頂き、有難うございました。