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英国が描く世界戦略

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将来の設計図を発表した英国

ブレグジットを選択した英国の将来を憂える人は少なくありません。

最大の市場であり、サプライチェーンでもあったEUを離脱するという決断は、当然負の影響を英国に与えるでしょう。

しかし、一方で英国はギリシャの負債問題にしろ、難民問題にしろこれまでEUの足かせに悩まされてきました。

EUを離脱した今、彼らはフリーハンドを得て自由に将来の設計図を描く事ができます。

先日発表された英国政府の統合レビューである「Global Britain of Competitive Age」(大競争時代における世界に開けた英国)は彼らの将来図を示しています。

英国の役割について米誌Foreign Policyが「The U.K. Still Knows How to Punch Above Its Weight」(英国は体の割にパンチを加える方法を知っている)と題した論文を掲載しました。

著者は米陸軍大学教授のAzeem Ibrahim氏です。かいつまんでご紹介したいと思います

Foreign Policy論文要約

英国の安全保障、防衛、開発、外交政策の統合レビューが最近発表されましたが、帝国を失った国がついに役割を見つけたかもしれません。

超大国ではありませんが、英国は地政学的なチェス盤において重要なプレーヤーであり続けており、世界の方向性を変える可能性のある中長期的な能力を維持しています。

 

第二次世界大戦後、英国は帝国の地位を失いゆっくりとした衰退の道を歩みました。

それは、ソビエト連邦の潜在的な野心から身を守り、米国の信頼できる副官になるため努力してきました。

その結果、過去半世紀にわたる国の防衛態勢は、主にヨーロッパでの大規模な陸上戦闘を想定してきました。

今日、この防衛態勢は、時代遅れになっています。

他国との今日の抗争は、技術的優位性、電子情報インフラのセキュリティ、政治制度の正当性とそれを支える道徳的基盤、サプライチェーンのセキュリティ、難民問題などに関連しています。

そして、多くの場合、非国家主体もこれらの戦いに関与しています。

 

今回の統合レビューは、これらの実際の脅威と、宇宙などの新たな紛争地域についての英国初の真剣な検討結果です。

そして、その「統合された」性質は重要です。

英国の軍事力は、絶対的には成長しているものの、米国、特に中国に比べて減少し続けています。

一方、インターネット、宇宙、人工知能(AI)、バイオテクノロジーなどのハイテク分野で、世界的な地位を民間の領域に保持しています。

統合レビューの基本的な目的は、これらの機能の一部(主にサイバー、宇宙、AI)をある程度国家調整の下に持ち込み、これらの分野における英国の民間企業の利益を守るのを支援するだけでなく、国が国際的に権力を行使するのを支援することです。 

 

この戦略変更は、英米の協力関係の文脈でよく理解できるでしょう。

NATOの下での米国の安全保障がなければ、常備軍の10%以上の縮小と装甲車両の削減は無謀です。

英国は長い間専門化を進めてきており、米国とNATOのパートナーにとって非常に有用な軍事能力を提供してきました。

英国は世界で最も有能な特殊部隊のいくつかを持っています。

これは、世界中の米国の作戦にとって有用ですが、一方で、近年、比較的小さい海軍を維持しています。 

地政学的な現実を考えると、英国が専門化することは賢明です。

これにより英国は、限られたリソースではるかに多くの力を発揮することができます。

英国はすでにサイバー分野で世界的に重要なプレーヤーです。

また、英国は、ワクチンの成功によって十分に実証されているように、科学的専門化において成功例を持っています。



英米連携の枠組みの中で、英国の専門能力は効果的に機能します。

軍事超大国である米国と中国は、互いの攻撃能力を一致させようとする、伝統的な防御姿勢をとる傾向があります。

その防御的な軍拡競争の間で、英国、フランス、ロシア、日本、インドなどの中規模の大国は、いずれかの超大国に軸足を置きます。

英国と他国との違いは、他国は自国の防御を維持することを余儀なくされていることです。

フランスと日本は米国が安全保障を引き受けることを期待していますが、国内の政治的理由と、トランプ政権が同盟国の信頼を損ねた結果として、彼らは防衛を完全に米国に委ねることに不安を感じています。

日本政府は昨年、史上最大の防衛予算を計上しました。

 

英国は、この点で有利な立場にあります。

それは、隣国からの脅威を心配する必要がないためです。

英国に最も近い敵対国はロシアであり、英国との間にNATO加盟国が多く存在します。

これにより、英国は、特殊作戦、インターネット、宇宙などの専門分野にリソースを割り当てることができます。

 

これがパズルの最後のピースが当てはまるところです。

英国の地域戦略の焦点がヨーロッパからインド太平洋に移ったことです。

英国は、自国の防衛のために米国とNATOの安全保障にほぼ完全に依存しているので、彼らの新しい攻撃能力は、大西洋横断同盟に敵対する勢力に割く事が可能です。

言い換えれば、米国政府は、その能力をこれらの分野で効果的に2倍にすることを無料で検討できるのです。

中国の台頭を封じ込める可能性が高いとすれば、この力の乗数効果を、英国が主導し、他の国々がそれに追随するケースかもしれません。

簡単には覇権を手放さないアングロサクソン

ヨーロッパの大平原を戦車が対峙するなどといった戦争のやり方はもはや時代遅れの様です。

先日アルメニアとアゼルバイジャンの間で行われた戦争は新しい時代の戦いがどのようなものかを示してくれました。

そこでは無人のドローンが主役を務め、電子戦が繰り広げられました。

サイバー攻撃を受け、味方と交信ができなくなった部隊はもはや敵とは戦えません。

英国は老大国のイメージがあり、ジャガーやランドローバーなどが外資に買収されたことから、技術面で劣っている様な印象を与えますが、今も最先端の技術は存在します。

以前英国の友人に「日本車がF1で勝てない理由を知っていますか」と聞かれた事がありました。

私は「ホンダが勝っているじゃないですか」と反論したのですが、彼は「ホンダはエンジンを供給してるだけです。車体は英国の小さなエンジニアリング会社が作っています。」と答えました。

確かにホンダは英国の車体メーカーマクラーレンなどと組んでF1で勝利を挙げました。

彼は「F1で勝つには一回のレースしか持たない様な華奢な車体を作る必要がありますが、日本メーカーは十回以上走れる様な頑丈な車体を作ってしまう。これでは勝てないのです。」と解説しました。

確かに英国は今でも、様々な分野で世界最先端の技術を有しています。

ソフトバンクが買収した半導体設計会社のARMはその一つですが、英国政府は最先端の人材を確保するため、Global Talent Visaという研究者向けのビザ制度を設けて、世界中から人材を集めています。

今週、日米の外相がロンドンで会談を行なったと報じられました。

間違いなく英国がこの会談をお膳立てしたものと思われます。

英国はTPPへの参画を表明しましたが、これはインド太平洋戦略に英国が本格的に参入する証です。

老いたりとはいえども英国の底力を侮ってはいけません。

むしろ我が国に似たこの島国に学ぶ必要があるのではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございます。