キューバやイランも自国産のワクチンを承認
世界中で新型コロナとの戦いが続いています。
先進国ではワクチン接種が進み、今年の夏はマスクが不要となる地域もある様です。
しかし、発展途上国はワクチン接種が遅れた上に、南米やインドではウイルスの変異株が広がり、多くの死者を出すに至っています。
この様な状況の中で、中国やロシアは、自国産のワクチンを発展途上国に配布し、影響力を強めようとしています。
いわゆる「ワクチン外交」ですが、これらのワクチンの効力、特に変異株に対する有効性に警鐘を鳴らす専門家も少ない様です。
仏紙Les Echosが「Covid : les vaccins non occidentaux peinent toujours à convaincre de leur efficacité」(非西洋ワクチンの有効性に大きな疑問符が)と題する記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Les Echos記事要約
キューバ、イラン、ロシア、中国は、西側に外交的、政治的に対抗する事を目的に、独自のワクチンを開発し、世界的ワクチン接種キャンペーンに乗り出しました。
キューバは、医療の面で確固たる評判を持ち、ラテンアメリカで初めて新型コロナワクチンを開発した事に誇りを持っており、92%の有効性を持つと宣伝する「アブダラ」は、近々、一般的なワクチン接種が開始される予定です。
イランは、自国産ワクチン「バラカット」に緊急使用許可を与えました。
ベトナム、カザフスタン、トルコ、インドネシア、バングラデシュ、マレーシア、インドは、それぞれワクチンを開発中で第三フェーズ(最終段階)の治験段階に入っています。
他の中所得国の中で、チリ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、タイは第一或いは第二フェーズの治験段階にあり、国の名誉をかけた世界的な競争に入ろうとしています。
「ワクチンによるソフトパワー」の一環として貧しい国々にワクチンを寄付しているロシアと中国(中国は一帯一路にあるすべての国を含む80か国にワクチンを提供しています)は最近、西側でもそのワクチンが承認される様ロビー活動を強化しています。
先週自らもこれらワクチンを承認した世界保健機関(WHO)は西側諸国に、ロシアのスプートニクVワクチンと、中国のSinovacとSinopharmを承認するよう求めました。
「WHOと各国の承認当局との間に信頼関係はありません。したがって、各国は、別の機関によって実行された評価を繰り返して、時間を無駄にしています。」と、国際戦略関係研究所の医学研究者であるAnne Sénéquierは嘆きます。
WHOは、独自のチェックを実行せずに、各国当局から提供されたデータに依存しています。
また、逆に、ファイザー、モデナ、アストラゼネカ、ジョンソンの4つの西側のワクチンがロシアでも中国でも承認されていないことも明記されていません。
ワクチン承認の世界地図は確かに一種の文明的対立によって特徴づけられているようです。
ロシアのワクチンは中国と西側を除いて世界中で承認されています、
中国のワクチンは西側とロシアを除く国で承認されています。
そしてロシアと中国を除くすべての場所で西側のワクチンは承認されています。
重要なのは、テストデータの不透明性とその有効性に対する失望のために、科学者だけでなく、非西洋ワクチンについて懐疑的な見方があることです。
したがって、キューバが自国の医学に誇りを持っているとしても、そのワクチンはベネズエラとイランでのテストでしか使用されません。
イランのワクチンは世界のどこでも受け入れられていません。
そしてスプートニクVはロシア人自身の間で不信感を呼び起こし、15%の国民だけが接種に同意しました。
ロシア政府は、2020年7月に世界初のワクチンの国家承認を行うために、テストの第二フェーズと第三フェーズをスキップしたツケを払わされています。
調査によると、ロシア人の3分の2は「明確で透明な情報」が欠けていると不満を漏らしています。
中国のワクチンについては、中国疾病管理予防センターの高福所長が4月にその有効性が「低い」と認めました。
ブラジルとチリでの結果では、その有効性は50.6%から56%に達しましたが、これは疫学者がワクチンとしてほとんど効果が無いと評価する50%のレベルをわずかに上回るだけです。
中国のソーシャルメディアにおける何千もの批判的または皮肉なコメントはすぐに検閲され削除されました。
高福所長は、中国製ワクチンの有効性に関する中国政府の主張を否定しただけでなく、中国当局が非難する西側のメッセンジャーRNAワクチンを国家プログラムに含めるべきだと述べました。
中国製のワクチンSinovacを大量に接種したチリ、バーレーン、モンゴルでは、死亡者が増加しています。
中国のワクチンは、不活性化ウイルスに基づくいわゆる古典的なデザインであり、インフルエンザでも90%の効率に達しないのは事実です。
しかし、ファイザーやモデルナなどメッセンジャーRNAより優れている点が一つだけあります。それは値段です。
中国の感染症対策責任者の勇気ある発言
この記事において注目すべき点が二つあると思います。
一つは、西側のメッセンジャーRNAワクチンが有効性において他のワクチンに対して優位にある事、特に変異株に対して一定の効果がある事がどうやら証明されつつある事です。
南米のチリは一時イスラエルを上回る高いワクチンの接種率を誇り、感染者も減少していましたが、中国製のSinovacを主に使用したため、変異株の出現と共に死亡者が増加に転じた様です。
英国ではデルタ株によって、感染者が増加しましたが、死者は増えていません。
もう一つ注目すべき点は、中国の公衆衛生の責任者が中国製のワクチンの有効性が低い事を認め、西側のRNAワクチンを導入する必要性を訴えている点です。
中国製ワクチンは有効だと宣伝してワクチン外交を展開している中国政府の方針と矛盾する彼の発言には正直驚きました。
やはり科学者の良心が真実を述べさせたのでしょうか。
しかしこの様な正論がもしまかり通るのであれば、中国の社会は西側が思うほど腐っていないのかも知れません。
これは彼が更迭されなければですが、今後の彼の去就に注目したいと思いましす。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。