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メルケル首相が残した宿題 -ドイツが抱える問題 

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与党破れる

ドイツで総選挙が行われました。

この選挙は16年間にわたって首相を務めたメルケル首相が引退を表明した後だけに注目を集めました。

結果はメルケル首相が所属する与党キリスト教民主同盟が大きく得票率を減らし、代わりに社会民主党(SPD, 中道左派)が第一党の座を得ました。

16年にもわたるメルケル首相の治世はどの様に評価されるのでしょうか。

英誌EconomistThe mess Merkel leaves behind - The successor to Germany’s much-admired chancellor will face big unresolved problems(​​メルケル首相が残した混乱 - 高く評価されている独首相の後継者は、大きな未解決の問題に直面する)と題した記事を掲載しました。

(注:この記事は総選挙の前に発表された記事です。)

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

ビスマルクヘルムート コールだけが、メルケルよりも長くドイツの宰相を務めました。

ビスマルクは帝国を築き、ヨーロッパ初の公的年金および医療制度を誕生させました。

コールは東西ドイツの再統一を成し遂げ、最愛のドイツマルクをユーロに置き換えることに同意しました。

メルケル夫人の業績はずっと控えめです。

首相官邸での16年間で、彼女は経済からパンデミックまで、一連の危機を乗り越えてきました。

コンセンサスを作り上げる彼女の能力は、彼女の国とヨーロッパによく役立っています。

しかし、彼女の政府は、国内的にも国際的にも、あまりにも多くのことを怠ってきました。

今のところ、ドイツは繁栄し、安定しています。

しかし、問題は拡大しています。 

無視された問題は多岐にわたります。

ドイツは一見、快調な高級車のように見えます。

しかし、ボンネットを開けると、怠慢の兆候がはっきりと見てとれます。

公共部門に適切に投資することができず、インフラストラクチャ、特にデジタル分野において他国に遅れをとっています。

それは政府の効率も低下させます。

倹約財政も問題です。

2009年、ドイツはほんの僅かな赤字さえ違法にする法律改正を行いました。

金利が非常に低いので、赤字を恐れる事なく、投資のために政府は借入を増やすべきでした。

 

ドイツの最も深刻な国内問題は、年金制度改革の失敗です。

ドイツ人は急速に高齢化しており、団塊の世代が引退するにつれて、この10年の後半に予算にさらに重い負担をかけるでしょう。

気候変動に関しては、ドイツも苦労しており、メルケル夫人による原子力産業の閉鎖もあり、EUにおいてどの国よりも一人当たりの炭素排出量が多いのです。

ドイツの影響力が最も大きいEUで、メルケル首相がその力を行使することを躊躇した事は特に残念でした。

EUは、債務を負っている南部のメンバーの脆弱さに十分に取り組んでいません。

パンデミックの間だけ、EUが共同で保証する債務を発行しました。

しかし、これは1回限りの処置です。

さらに悪いことに、国々を緊縮財政に戻す「安定性」ルールは、復活する可能性が高いです。 

 

EUの外交政策においては、ドイツは、新しい世界秩序へのより迅速な調整を行うべきでした。

中国はますます挑戦的な経済的および戦略的ライバルであり、ロシアは予測不可能な脅威であり、アメリカは気まぐれな同盟国です。

ドイツは防衛に費やす金額が少なすぎます。

それはより良い取引条件を期待して中国に寄り添います。

ロシアのプーチン大統領が推進する新しいノルドストリーム2ガスパイプラインを支援することにより、ヨーロッパのエネルギー供給において絞め殺しの権利を与えています。

ヨーロッパが主張することは、主にフランスのマクロン大統領に委ねられました。

 

しかし、どの首相候補者がメルケル夫人よりもうまくやれるでしょうか?

世論調査は、ドイツが一党、あるいは二党でさえ政府を形成することができないことを示唆しています。

代わりに、ある種のイデオロギー的に一貫性のない三者連立の可能性があります。

それは、大きな政府目指す緑の党と産業界に近い自由民主党を組み合わせる事になれば、重要なことについて合意するのに苦労するかもしれません。

 

これは、メルケル支持者の自己満足のもう1つの症状です。

快適な生活に慣れ、用心深いドイツ人は、将来についての真剣な議論に興味がないようです。

候補者には、自国の迫り来る問題を強調するインセンティブがありません。

 

総選挙について考えられる結果のうち、2つが最も可能性が高いようです。

1つは、メルケル夫人の党、キリスト教民主同盟、およびラシェットが率いるバイエルンの姉妹党(CDU/CSU)が率いる連立です。

もう1つは、ドイツの財務大臣である社会民主党(SPD)のオラフ ショルツが率いる連立です。

どちらの場合でも、連合は緑の党と産業界に近い自由民主党が参加するでしょう。

どちらの連立にも深刻な欠点がありますが、エコノミストは後者、つまりショルツ氏が率いる連立をわずかに好みます。

 

世界は、連立交渉が数ヶ月続くことを覚悟すべきであり、その間、ヨーロッパの政治を混乱させます。

そして結局のところ、ドイツ政府は多くのことを成し遂げることができなくなる可能性があります。

それはメルケル夫人が残した混乱です。

メルケル首相の残した宿題

メルケル首相は自国でもEUでも人気の政治家であり、彼女のリーダーシップがドイツにもEUにも安定感を与えていたという説が多いだけに、上記のEconomistの記事はかなり辛口に見えます。

国が安定した状態であれば、現状に安住してしまうのが人間の心理であり、これはドイツに限らず歴史上どこでも見られる現象です。

メルケル首相時代のドイツに変革の機運が盛り上がらなかったのはそれだけドイツが安定し、経済も好調だった事の裏返しかも知れません。

しかし、ドイツが今後も安泰かと言えば、そうではありません。

対外的には中国、ロシアに今後どう向き合うのか。欧州離れを起こしかけている米国とどう付き合うのか。EU内でも南北問題をどうするか、フランスが提唱しているEUの戦略的自治にどう対処するか等問題は山積です。

メルケル首相の残した宿題は遺産よりも大きいかも知れません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。