総選挙の勝者は
週末の総選挙の勝者は議席を減らしたと言えども、絶対過半数を獲得した自民党でした。
しかし自民党が国民に支持されたと言うよりも、野党第一党の立憲民主党が共産党と共闘したのを国民が嫌い、自民党への批判票の受け皿になれなかったと言うのが現実かと思います。
今後、日本の政治は誰がキャスティングボードを握るのでしょうか。
この観点から米誌Foreign Policyが「The Small Pacifist Party That Could Shape Japan’s Future - The Komeito party will be a key player in the new government.」(日本の未来を牛耳る平和志向の小党 - 公明党は新政権の鍵を握る)と題した論文を掲載しました。
著者は日本政治の研究家として有名なTobias Harris氏です。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy論文要約
日曜日の総選挙で、自民党(LDP)とその連立パートナーである公明党は、465議席の衆議院で293議席の絶対過半数を獲得しました。
公明党は見落としがちな存在です。
実際、彼らの国会での議席はわずかです。
自民党は261議席を持ち、衆議院を単独で支配することができます。
しかし、自民党との20年以上の連携を経て、公明党は日本政府にとって不可欠なプレーヤーになりました。
岸田政権が国防費を増やし、地域危機における日本の役割を拡大し、軍隊が海外の標的を攻撃できるようにするかどうかを検討する中、世界平和を推進するプラットフォーム上に設立され、何十年にもわたって中国政府と緊密な関係を築いてきた公明党は、その数が示唆するよりもはるかに大きな役割を果たすでしょう。
公明党は宗教団体と提携しており、他の日本の政党とは一線を画しています。
1964年に、第二次世界大戦後の数十年間で数千人から数百万人の信者へと成長した創価学会によって作成され、日本の急速に成長する都市に流れこんだ地方出身者からの改宗者を引き付けました。
この宗教は強引な信者集め、排他主義、そしてその指導者池田大作への畏敬の念で有名になりました。
公明党は当初、政教分離に関する戦後の規範に違反したとして批判を集めましたが、主婦、店主、その他の重要な創価学会の構成員の経済的利益を代表する、より一般的な党に発展しました。
最初は左側の政党と連携しましたが、1999年に自民党と連立を組んだ後、政府において永続的な地位を確保しました。
自民党と公明党のパートナーシップはありそうもないものであり、それが存続すると予測した人はほとんどいなかったでしょう。
つまるところ、両党間にはほとんどポリシーの重複はありません。
公明党は、その主要な構成員である創価学会の既婚女性にアピールする政策に焦点を当てています。
これらには、食料に対する消費税率の引き下げの維持、学費の引き下げおよび児童手当の提供が含まれています。
これらは必ずしも自民党の政策目標と矛盾するわけではありませんが、公明党はその構成員に利益を提供することに重点を置いているため、両党間の交渉の重要テーマとなっています。
両者の最も重要な違いは、安全保障政策です。
公明党は創設当初、絶対的な平和主義に取り組んでおり、その初期には、日本の自衛隊と日米安全保障条約の合憲性を否定していました。
党が政権当事者に変身するにつれて、国家安全保障政策に関する反対を和らげました。
公明党は自民党と連立してから、自民党の安全保障方針に従う傾向を見せています。
アフガニスタンとイラクに軍隊を派遣することを決議し、2015年の治安法に賛成し、2014年の憲法の再解釈に続いて、自衛隊が「集団的自衛権」の権利を行使できるようにしました。
しかし、公明党は自民党の単なるゴム印ではありませんでした。
党の指導者たちは、連立における彼らの役割を、自民党のよりタカ派に対する「ブレーキ」と呼ぶことがよくあります。
たとえば、公明党は安倍政権に、限られた状況でのみ集団的自衛権が許可されることを受け入れるように強制しました。
それはまた、戦後憲法の有名な「平和条項」である第9条を修正しようという自民党の保守派による試みを阻止しました。
自民党は、ますます支配的になっている自民党内保守派の野心に抵抗する党との連立に固執したのは何故でしょうか。
最終的に、彼らは日本の2層選挙制度に特によく適合した政治的共生を達成しました。
そのシステムの下で、有権者は小選挙区の候補者に1票、11の地域比例代表ブロックの政党に1票を投じます。両党は、小選挙区で候補者を互いに争わないことに同意しました。
この取り決めの秘訣は、創価学会の投票力です。
公明党の議席数は依然として控えめですが、村議会から国会まで、選挙のたびに宗教的支持者を動員することで、公明党はその重みを上回っています。
党はまた、日本の国民の間で全体的な投票率が低いことから恩恵を受けています。
有権者の半数強しか投票所に向かわない時、創価学会支持者の信頼できる動員力が大きな影響力を行使します。
公明党は、自民党候補の投票を確保することと引き換えに、政府における地位を維持しています。
しかし、選挙が終わった今、自民党と公明党の関係は緊張を孕んでいます。
日本の中国との関係をどうするかという事以上に緊急な政治課題はありません。
「中国の脅威」への恐れは、過去に日本では表面化していませんでしたが、香港での中国の取り締まり、新疆ウイグル自治区での人権侵害、そして台湾海峡の軍事バランスの悪化は、中国へのより厳しい路線の支持者を大胆にしました。
公明党ほど熱心な関与政策の支持者はほとんどいません。
すべての政党の中で、公明党は中国との最も強力で最も安定した関係を享受しています。
日中の外交正常化は、1972年9月に両国が署名した正式な合意の基礎となった周恩来首相と交渉した公明党の政治家竹入義勝の努力に大きく依存しました。
両党間の中国に対する意見の違いは、総選挙におけるマニフェストで明らかに示されています。
公明党は、中国政府の人権と市民の自由の侵害を公然と説明するように中国に呼びかけましたが、それは慎重に表現されました。
対照的に、自民党はマニフェストで、中国は現状を無理矢理変えようとする急成長中の軍事力であると同時に「経済的安全保障」に関する脅威でもあると表現しています。
要するに、公明党は外交と人と人との交流をできるだけ早く回復したいのに対し、自民党の保守派は、中国の進歩は国防の徹底的かつ迅速な改善を必要としていると見ています。
したがって、岸田首相は自民党、特に保守派と公明党のバランスをとらなければなりません。
しかし、それは必ずしも連立が崩壊する危険にさらされていることを意味しません。
おそらく、彼らの20年間の協力関係からの主な教訓は、両当事者が妥協することを約束するということです。
自民党と公明党の連立は永遠に続くとは限りません。
創価学会の創設者である池田氏が亡くなると(1月に94歳になる)、公明党が依然として宗教団体のの利益に貢献しているかどうか、創価学会に再考させる可能性があります。
一方、自民党の保守派は、地域の安全保障環境が悪化するにつれて、党の平和主義的パートナーに対する寛容性が低下し、代替パートナーを探したり、連立パートナーなしのシナリオを検討する可能性があります。
それにもかかわらず、自民党は、自民党の候補者が議席を維持するのに役立つ限り、公明党を連立内にとどめようとする可能性が高い。
そして、公明党が自民党主導の政府に含まれ、与党のより野心的な政策にブレーキをかけている限り、自民党の保守派のより挑発的な発言よりも、両党の指導者の発言に注意を払うことが重要かもしれません。
結局公明党との連立に頼るであろう自民党
今回の総選挙の結果は公明党にとっては諸手を挙げて喜べない結果だったと思います。
議席数は3議席伸ばしましたが、維新の党が躍進し、第3党というポジションを奪われました。
維新の党は保守系で憲法改正にも前向きです。
自民党が憲法改正に動いた時、自民党は維新の党との連携を模索するかもしれません。
自民党が絶対多数を押さえた事も含めて、公明党は自民党に対するグリップをかなり失ったのが今回の総選挙の結果だと思います。
しかし、自民党が公明党から維新の党に乗り換えられるかと言えば、そう簡単ではありません。
今回多くの小選挙区で自民党候補が接戦をモノにできたのは、公明党の8百万人とも言われる動員力が物を言った為です。
これがなければ、総選挙の結果は全く違ったものになった筈です。
おそらく選挙対策上、自民党は公明党との縁を切れないでしょう。
そういう意味で、上記論文が指摘する様に、少数党ではありますが、日本の政治を実質的に左右していくのは公明党かもしれません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。