想定外の手を打ったプーチン大統領
プーチン大統領は昨日テレビを通して演説を行い、ドネツクとルガンスクの2つの共和国の独立を認める事を発表しました。
ミンスク合意においては、現状維持を約束していたロシアですが、この合意を破った事になります。
もちろんロシア側の言い分はミンスク合意ではウクライナ政府も現状維持を約束したのに、NATO加盟の意向を表明するなど合意に違反していると言う事になりますので、ロシア側が一方的に悪いわけではないかも知れません。
いずれにせよウクライナの状況は大きく変化し、緊張度を高めています。
プーチン氏の打った一手は筆者も予測していませんでしたが、欧米のメディアにとっても驚きの一手だった様で、今日の一面はこの話題で持ちきりです。
そんな中で、今回はロシアとの緊張緩和に奔走したマクロン大統領の母国フランスの経済紙Les Echosの「Ukraine : en reconnaissant le Donbass, Poutine défie l'Ouest」(ドンバス独立を認めた事で西側に挑戦状を叩きつけたプーチン)と題する記事をご紹介したいと思います
Les Echos記事要約
月曜日の朝、プーチン大統領はバイデンとの首脳会談の申し出を受け入れ、外交を通じて西側と和平を追求する選択肢を持っていました。
しかし彼は、夕方、交渉の扉を閉め、欧州に挑戦状を叩きつけました。
「必要な決定だ」としてプーチン大統領は、カメラの前でドンバス共和国の独立を承認する大統領令に署名しました。
マクロン仏大統領は、クレムリンで5時間にも及ぶプーチン大統領との交渉を行った末に、ドンバス共和国の独立を支持しないとの約束を取り付けたばかりでした。
この決定により、プーチン大統領は、フランスとドイツの調停の下で署名されたミンスク合意(これらの領土をウクライナ政府の支配下に戻すことを規定している)を否定し、和平プロセスを事実上終わらせました。
しかし何よりも、マクロン大統領とドイツのショルツ首相によってここ2週間展開された外交シナリオに残酷な終焉をもたらしました。
今日、ドンバスでの戦争の脅威は、西側との対立のターニングポイントになる可能性があります。
公式に独立を認めたところで、それはドネツクとルガンスクを併合している事にはなりません。
これら2つのロシア語を話すウクライナの地域は、軍事支援、社会援助、ロシアパスポートの配布により、2014年からすでにロシアの実行的支配下にあり、ロシアに軍事的防御を求めるために「独立」を利用できるようになります。
ロシアがドンバスをその領土に併合しない場合、ある主権国家が別の主権国家を支援するように、そこに軍隊を派遣することができます。
具体的には、ロシア軍はウクライナ軍に対して最前線に立つことになります。
プーチン大統領は、隣人に、分離主義者を支援する軍事作戦を直ちに中止するか、「継続的な流血に対する責任」を引き受けるよう求めました。
ウクライナ政府と西側に送られたメッセージは明白です。
プーチン氏の計算
プーチン氏の意外な一手は西側を驚かせました。
彼はウクライナへの単純な侵攻ではなく、ドンバス共和国の独立を承認する事により、独立国の要請を受けた平和維持軍としてドンバス地域へのロシア軍の侵入を正当化しました。
これに対してバイデン 政権はどの様に対応したかといえば、「ドンバス地域を実質的に支配下に収めているロシアは2014年以降ロシア軍を駐留させていた。」として新たなウクライナ侵攻と認めませんでした。
新たなウクライナ侵攻と認められなければ、ロシアに対する経済制裁は限定的なものとなります。
プーチン大統領が放った一手は、西側の反応を値踏みする上で、結果的に効果的な一手となりました。
ロシアの諜報組織の実力を侮ってはいけないと思います。
フランスのマクロン大統領は4月の大統領選において、ロシアに好意的な右翼の圧力に悩まされています。
従って、ロシアに強硬手段で望むわけには行きません。
ドイツのショルツ首相もロシアと事を荒立てたくありません。
プーチン大統領は米国と独仏の間に吹く隙間風を計算に入れて、厳しい一手を打ってきました。
これに対して西側はどの様な手を打つのでしょう。
次の一手は欧州の今後の安全保障を大きく左右する一手となりそうです。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。