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一帯一路の要衝、中央アジアでグレートゲーム再燃か

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中央アジアにおける覇権争い

中央アジアという地域は日本の方にはあまり馴染みがない地域ですが、19世紀の始め頃に、インドを自国の植民地としていた英国と南下政策を企てるロシアが覇権争いを繰り広げたいわゆる「グレートゲーム」の舞台です。

中央アジアはウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、キルギスタンなどで構成されており、人口は72百万人ほどです。

これらの国々は1991年にソ連が崩壊した際に、独立を果たした国々です。

住民の殆どはトルコ語系民族で、イスラム教の信者が多数派です。

 

そんな中央アジアで、今変化が起ころうとしています。

中央アジアの国々ではコロナ感染が急拡大し、特にカザフスタンやウズベキスタンでは、多くの死者が報告されています。

そんな中央アジアで、いち早くコロナ外交を展開しているのが中国です。

医療機器や医療スタッフを送り、中央アジアを援助している中国はこの地域を非常に重視しています。

その訳は、彼らが推進している一帯一路のまさに要衝にあたるのが中央アジアだからです。

 

中国の一帯一路の進展を横目で見ながら、内心穏やかでないのがロシアです。

もともと中央アジアの国はソ連から独立した国々ですので、ロシアにすれば弟分の国々です。

そこに中国が土足でずかずかと上がってくるのは面白くありません。

しかし、中国は急速に中央アジアの国々との経済関係を強化しており、ロシアは打つ手が限られています。

こんな状況下、米紙「Foreign Policy」「COVID-19 Heats Up New Great Game in Central Asia - Washington has a golden opportunity to counter China’s gain 」(コロナにより中央アジアで新しいグレートゲームが始まる 米国にとって中国の進出に対抗する又とない機会が生まれている)と題して、中央アジアにおける米国戦略について興味深い記事を掲載しましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要旨

カザフスタン、ウズベキスタンなど中央アジア諸国はコロナの感染拡大に苦しんでいます。

 この地域は歴史的にロシアの強い影響力にあり、経済的には中国に強く依存しています。

国境を直接接するこの両国に比べ、米国の関与はこれまで非常に小さかったのが現実です。

  

一帯一路は中国が関与を強める地域を広げていっています。

米国も新しい地域で関与を深めるべきです。中央アジアは戦略的に非常に重要です。

エネルギー、イスラム過激主義、アフガニスタンでの紛争、イラン、南アジアでの核対立、アヘンの国際貿易、ロシアの旧ソ連各国への覇権、新疆ウイグル自治区の問題、中国の一帯一路等、これだけ多くの観点において、地政学的重要性を有している地域は他にありません。

  

中央アジアは、ロシアと中国に任せておけば良いとの議論が米国内にありますが、最近状況が変わりました。

コロナの感染拡大はロシアの脆弱さを浮き彫りにしましたし、石油価格の低迷はロシアの国力を弱めました。

中露二国間の不信は根強くありますが、ロシアは現状中国との協力関係を保ち、積極的に中央アジアへの影響力を強めようとしていません。

 

ロシアと米国の消極姿勢を見た中国は中央アジアに積極的に関与しようとしています。

中国はコロナ対策の成功体験をウズベキスタンと共有し、早期の経済回復がカザフスタンからの原油購入を可能にしました。

キルギスタンやウズベキスタンは中国が主導するアジアインフラ開発銀行等から数十億ドル規模の融資を交渉中と伝えられます。

これに対して、米国はなんと430万ドルの医療機器しか提供していません。

 

米国のこの地域への関心の低さは、1991年に旧ソ連から中央アジア諸国が独立した時から続いています。

米国は旧ソ連が保有していた核兵器の不拡散と一部の国の石油資源にしか興味を示しませんでした。その後、米国の関心はテロリズム対策に移行して今に至っています。

 

しかし、コロナの感染拡大、中国の覇権拡大、新しい統治者の誕生がウズベキスタン、カザフスタンにおいて、米国にチャンスを生もうとしています。

両国の新しいリーダーたちは真の民主主義や自由市場を目指そうとしている訳ではありませんが、少なくとも以前より民主的なアプローチをとろうとしています。

米国はこれらの国々と、先ずは、彼らの国家主権を守り、他の覇権国の影響を排除する事を目標にパートナーシップを構築すべきです。そして米国企業が投資する条件を整備すべきです。

 

中国にアキレス腱がない訳ではありません。彼らの融資外交(高金利で金を貸し、債務が払えなかった国からインフラの所有権を得る)に対する警戒感は高まりを見せています。

米国は公共投資プログラムと官民パートナーシップを通じて、中国の一帯一路政策に対抗する事ができるはずです。

米国は本当に中央アジアに関与できるか

以上がForeign Policyの記事要旨です。同記事は触れていませんでしたが、中国のアキレス腱はもう一つあると思います。

それは新疆ウイグル自治区における中国のウイグル族に対する弾圧です。

ウイグル族は実はトルコ語系民族であり、イスラム教信者でもあることから、中央アジアの人たちにとってみると兄弟の様な存在です。

彼らが強制収容所に入れられているというニュースは、中央アジア諸国の公共放送では検閲の対象になっているかも知れませんが、人づてで民衆の耳には入っていると思います。

これは中国を敬遠する大きな理由になります。

 

この観点から言えば、中央アジアにおける日本の役割は引き続き重要と思います。

日本は中央アジア諸国にとってみれば、中国、ロシア、米国などと違って覇権を及ぼす危険性がない付き合いやすい国です。

その上、彼らが必要とするインフラに必要な資金を提供してくれるという意味で重要です。

 

米国は余程慎重にアプローチしないと失敗する可能性があります。

彼らのアプローチはどうしても軍事力を背景にした強引なやり方になりがちです。

中央アジアの国々はこういうやり方に敏感に反発します。

Foreign Policyの指摘する通り、「彼らの国家主権を守り、他の覇権国からの影響を排除する」という姿勢が非常に重要と思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。