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世界を震撼させたベイルートの大爆発ー本当の原因は何か

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突然の爆発

8月4日のベイルートの爆発事故、動画で皆さんもご覧になったと思いますが、衝撃的でした。

2回目の爆発では原爆の様なキノコ雲が生じました。

200キロ以上離れたキプロス島でもその爆発音が聞こえたと言われますので、驚くべき大爆発だった事が窺えます。

レバノン政府は港の倉庫に保管されていた硝酸二トリウムが爆発したと発表しましたが、その量が半端ではありません。

2,750トンもあったそうです。

以前、1995年にオクラホマシティの爆弾テロ事件で同じ硝酸二トリウムが使われましたが、その際は2トンしか使っていません(死者168名)。

如何に今回の爆発が大規模だったかお分かり頂けるでしょう。

ではこの爆発は何故起きたのでしょう。真の原因は何だったのでしょうか。欧米各国のメディアから今回の事件の真相に迫ってみたいと思います。

ベイルートはどんな街か

中東のパリと謳われたベイルート

ベイルートはレバノンの首都ですが、この街は古くから中東の貿易港として栄えました。

中東のビジネスの中心は現在はドバイに移っていますが、1975年頃まではベイルートだったのです。

日本の大手企業も、中東の最重要拠点としてベイルートに大きな支店を構えていました。

最盛期はベイルートに3千人もの日本人が在留していたそうです。

ベイルートは背後に三千メートル級の切り立った山を持つ港町ですので、季節によれば同じ日にスキーと水泳が楽しめるという風光明媚な街です。

以前は中東のパリと呼ばれ、華やかな貿易都市として栄えました。

美食の街としても有名で、味にうるさいフランス人も一目置く存在です。

レバノン人は貿易の民フェニキア人を祖先とし、商売に通じた人たちです。

私が会社に入った頃は、レバシリ(レバノン人とシリア人を指す)と商売ができる様になれば一人前と言われました。

それだけ彼らの交渉術は巧みで、少しでも油断を見せれば騙されてしまう人たちなのです。

これは決して彼らを中傷する言葉ではありません。

ビジネスは非情なものです。脇が甘い方が負けるという事を教えてくれたのがレバノン人でした。

内戦の勃発

ベイルートの運命が暗転したのは、この国で内戦が始まってからでした。レバノンではイスラム教徒のスンニ派、シーア派、そしれキリスト教の三つのグループが共存しています。

この三派の微妙なバランスの上に、ベイルートは成り立っていたのですが、パレスチナ難民が大量に流入してきてから、宗派感のバランスが崩れました。

これが20年近く続く内戦を引き起こした原因となりました。

内戦が一応の終息を見せた1990年頃にはベイルートは見る影もなく荒れ果てました。

 

その後、ベイルートは再復興計画に着手するのですが、モザイク国家としての本質は変わりません。

集落、学校、軍隊までも宗派別に組織されているという訳で、国家への国民の帰属意識は低いのが現状です。

元を正せば、旧宗主国であったフランスが、第一次世界大戦後にオスマン帝国からシリアの支配権を奪った際に、レバノンの国境をシリア領内にまで拡大した事が、今の問題の遠因になったとの説もあります。

ベイルートの市民はレバノンへの帰属意識が比較的高いですが、それ以外の地域ではシリアへの帰属意識が高く、これがシリアのレバノンへの介入に繋がったと言われています。

今回の爆発の原因 

欧米のメディアの一部にテロの可能性を論ずる向きもありましたが、殆どは、歴代の政権の腐敗、無責任体制が今回の事件を引き起こしたと分析しています。

 

そもそも2013年にロシアの船舶から押収したこれだけ大量の危険物質を市内中央にある倉庫に保管していた事自体が理解不能です。

米紙「Foreign Policy」は「ベイルートの爆発はレバノンにおけるチェルノブイリである。」と断罪しています。

この記事の中で、筆者は次の様にレバノンの窮状及び問題の本質を説明しています。

  • ベイルート市長は今回の爆発を広島、長崎の原爆に例えましたが、原子力に関していえば、もっと適当な例えがあります。それはチェルノブイリの原発事故です。
  • 数日前に辞任したヒッティ外相は「レバノンはもはや機能しない国家となろうとしている。」と語っています。
  • 今回爆発した硝酸アンモニウムは6年間も放置され、処分のためオークションを待っていたと伝えられます。
  • 政権は港湾の責任者に責任を押し付けようとしていますが、彼らは犯人ではありません。そもそも港湾長はこの危険な物質を、早く他の場所に写す様に以前から政府に進言していました。真の犯人は、この国の腐敗した統治者たちです。
  • チェルノブイリの事故は原発の単純な事故ではありません。全体主義的政府の腐敗、怠慢、無責任といった体制に起因する様々な問題から生じた大事故でした。今回のベイルートの事故も同様です。

今後、ベイルートはどうなるのか 

今回の大爆発は、ただでさえ困窮しているレバノンの国民生活を更に悪化させる事は明らかです。

今年3月、レバノンは国債の償還を断念し、史上初めてデフォルトを引き起こしました。

レバノンというのは中東のスイスとも言われて、金融ハブとして機能してきた国ですので、デフォルトは致命的です。

内戦が集結した後、私もベイルートを訪れた事がありますが、内戦の爪痕が至る所に残る市街を案内してくれたレバノンの知人より「レバノンは15年の激しい内戦中も、対外債務は全て期日通りに支払った。」と言われて驚いた事を覚えています。

そんな国がデフォルトを起こしたのですから、事態はかなり深刻である事が推測されます。

現地通貨は対ドル公定レートの8割引で闇市場で取引されています。

IMFを中心とした国際的な緊急支援が必須の状態と思いますが、これを阻む原因が一つあります。

それはイランに近いヒズボッラー(シーア派系の武装集団)の存在です。

アウン大統領はキリスト教徒ですが、ヒズボッラーに近いと言われています。

米国の影響力の近いIMFはこの点を問題視し、交渉が暗礁に乗り上げている様です。

 

こんな状況を見て、漁夫の利を得ようと動き出しているのが中国です。

先に述べた様に、ベイルートは紀元前3千年の昔から存在する国際港です。

一帯一路を目指す中国にとってみれば、願ってもない戦略的な拠点の獲得になります。

既に中国、レバノン間の交渉が始まっている様に聞きますが、今後が注目されます。

 

最後まで読んで頂き、有難うございました。