アメリカの二大政党に関する大きな誤解
米国の二大政党である共和党と民主党の成り立ちについて少し調べてみたのですが、基本的なところで大きな誤解をしていた事に気付きました。
まず南北戦争で有名なリンカーン大統領は共和党、民主党どちらの所属だったでしょうか。
奴隷解放を唱えたリンカーン大統領は当然、民主党所属と思っていましたが、大きな勘違いでした。彼は共和党員として初めて当選した大統領だそうです。
そもそも当時は、北部が共和党の地盤、南部が民主党の地盤だった様です。
ウィキペディアによれば、「発足当初は共和党が、北部を中心とした近代産業の振興の立場を取るのに対して、民主党は南部を中心とした勢力を支持基盤に持ち、南部の農業主等の権益の擁護を中心としていた。(中略)民主党は、当初、奴隷制、小さな政府を支持していた。」そうです
じゃあ「風とともに去りぬ」の舞台である南部の農園は民主党の地盤だったという事ですか。私は混乱してしまいました。
どうも、ある時期に両党の政策や支持者層が変わってしまった様です。
その節目は何だったのでしょうか。
1964年の公民権法がどうやら転機になった様です。
これを境に共和党の支持層がシフトし、農村に住む人々、男性、白人アメリカ人、福音派キリスト教徒が主体になっていいった様です。
共和党の基本的な政策は、小さな政府(即ち減税)、自由市場資本主義、移民の制限、軍事費の増加、規制緩和、銃の権利、労働組合の制限などが挙げられます。
これに対して、民主党は、ルーズベルト大統領の有名なニューディール政策(1930年代)を経て、同党は社会的自由主義を唱える様になります。この政策の変化が同等の支持基盤を一変させ、都市部に住む人、女性、高学歴者、マイノリティ、労働組合などが支持者となっていった様です。
民主党の基本政策には、大きな政府(即ち増税)、福祉重視、環境保護、機会均等などが挙げられます。
トランプ大統領の共和党変革
ここまで書いてきた様に、紆余曲折を経て、共和党、民主党は保守、リベラルという基本軸を作るに至ったわけですが、トランプ大統領が、在任中に共和党の支持基盤、政策を大きく変化させたとの記事が飛び込んできました。
この点に関するウォールストリートジャーナルの記事を今日はご紹介しましょう。
Donald Trump Presides Over GOP Remade in His Image(ドナルドトランプは共和党を自分の色に染め上げている)と題した記事の要約は下記の通りです。
ウォールストリートジャーナル記事要約
4年前に型破りの選挙戦を展開し、共和党内の深刻な分裂をあらわにしたトランプ大統領は、共和党内の主導権を握りました。
現在の共和党は彼の「アメリカファースト」の外交と経済政策、型破りな政治手法を受け入れています。
フロリダ州共和党のグルーターズ委員長は「ロナルド・レーガン氏と同様に、トランプ氏も共和党に永続的な影響を与えるだろう。トランプ氏は明らかに、大衆の気持ちをつかんでおり、共和党は同氏の考えに近寄って行っている。要するに、成果を上げたのだ。」と語ります。
もちろん共和党内にも、少数派ながらトランプ大統領に批判的な人もいます。
共和党のストラテジスト、マッデン氏は「トランプ氏のやり方は、トランプ中心主義だ。党の団結は、トランプ氏の考えによって定義される。これらを称賛し実践しなければ、外される」と語る。
トランプ氏は27日夜にホワイトハウスで行う指名受諾演説の中で、移民制限策や「アメリカ・ファースト」の貿易交渉、「われわれとライバルとの対立」といった表現を有権者に向けて発信するでしょう。それは、共和党の思想的中核が、自由貿易主義、外交政策のタカ派、財政支出抑制から遠ざかっていく流れを強めるものとなるでしょう。
トランプ氏の支持者らは、同氏が労働者階級の白人有権者の間に広がっていた怒りを、うまく取り込んだと指摘します。これら白人有権者は、雇用を海外に流出させ、賃金や年金を減らしてきた過去の政策で、貧乏くじを引かされてきたと感じていました。
トランプ氏が共和党の支持層を大きく変化させた事を裏付けるデータがあります。下記のグラフ(出典:ワールドストリートジャーナル)をご覧ください。これは共和党登録有権者の学歴、性別、人種による分類です。
トランプ氏が行った共和党変革
これだけ大きな変化が共和党支持者層にあったとは驚きました。
4年前に型破りの大統領選を行い、当時、共和党本流の人から異端呼ばわりされたトランプ氏は、大統領在任中に白人労働者層という眠っていた支持層を掘り起こした功績を手に、共和党を自分の色に染め上げて行った様です。
上のグラフを見ても、非大卒の比率が大幅に増加しており、特に男性にその傾向が顕著です。
「彼らの支援を獲得するためにはどの様な政策が受けるか。」
トランプ大統領はこの観点から、従来の共和党の基本方針である、自由貿易主義を取下げ、「アメリカファースト」を唱え始めたのではないでしょうか。
彼の戦略は常にこの非大卒白人労働者の目線がベースになっている様な気がします。
今月行われた民主、共和両党の党大会は、ある観点から対照的でした。
民主党は存命の元大統領が3名とも登場しましたし、ヒラリー クリントン元大統領候補なども登壇し、華やかな顔ぶれでした。
一方、共和党の方はと言えば、元大統領は誰も参加せず、支持者の代表がスピーチを行うという地味な演出でした。
これには、トランプ大統領の型破りな政策が共和党の元主流だった人から評価を得ていないという理由もあったでしょうが、ワシントンのエスタブリッシュメント(特権階級)に不満を持つ白人労働者層に、民主党との違いを見せつけ、トランプはお前らの味方だぞと言いたかったのではないかと思います。
非大卒の白人労働者に焦点を当てたトランプ大統領の戦略が功を奏するか否かはわかりません。
彼は新しい支援層を得るために、従来、保守層が大事にしていた自由貿易主義や財政支出抑制という基本政策を犠牲にしているのですから。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。