バイデン政権にとっても最重要課題 - 中国
米中の対立はトランプ政権末期に激化しました。
この対立の本質は世界覇権を巡る争いですので、バイデン政権になっても継続されるのは間違いありません。
この対立の本質、今後の見通しについて米誌Foreign Affairsが「Competition With China Could Be Short and Sharp - The Risk of War Is Greatest in the Next Decade」(中国との競争は短く激しいものになりうる - 戦争のリスクは向こう10年が最も高い)と題した論文を掲載しました。
長い論文ですのでかいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs論文要旨
外交界では、米国と中国が一世紀続くかもしれない「超大国マラソン」を実行しているというのが一般通念になっています。
しかし、その競争の最も危険な期間は、目の前の10年になるでしょう。
米中の覇権争いはすぐには決着しません。
しかし、歴史と中国の最近の行動は、最大の危機がほんの数年先にあることを示唆しています。
中国は台頭する勢力として、最も危険な時期に突入しました。
既存の秩序を崩壊させる能力を獲得し、台湾海峡や5Gをめぐる争いなど、重要な分野で勢力均衡が北京に有利にシフトしています。
しかし、中国は一方で、顕著な経済の減速と国際的な反発の高まりに直面しています。
米国にとっての朗報は、長期的には、中国との競争が多くの悲観論者が信じているよりも扱いやすいかもしれないということです。
アメリカ人はいつの日か、彼らが現在ソ連を見る様に中国を振り返るかもしれません。
悪いニュースは、北京が地政学的利益を求めて突進するようになるにつれて、今後5年から10年の間に、戦争の可能性が現実になることです。
中国には、主要分野で米国に挑戦するための資金と国力があります。
何十年にもわたる急速な成長のおかげで、中国は世界最大の経済(購買力平価で測定)、貿易黒字、財政準備金、海軍船舶数を誇っています。
中国の投資は世界中に広がっており、北京は5G通信や人工知能(AI)などで優位に立っています。
しかし、中国のチャンスはすぐに失われるかも知れません。
2007年以降、中国の年間経済成長率は半分以上低下し、生産性は10%低下しました。
一方、債務は8倍に膨れ上がり、2020年末までにGDPの合計335%に達するペースで進んでいます。
向こう30年間で、中国は2億人の生産人口を失い、高齢者が3億人増加するため、経済停滞は顕著になるでしょう。
経済成長が低下するにつれて、社会的および政治的不安の危険性が高まります。
中国の指導者たちはこれを知っています。
中国のエリートは彼らのお金と子供たちを海外に移しています。
その間、世界的な反中感情は天安門事件以来見られなかったレベルに急上昇しました。
12か国が、一帯一路プロジェクトへの参加を一時停止しました。
多くの国が、5GネットワークでのHuawei製品の使用を禁止しました。
インドは国境で激しく対立し。日本は、台湾近郊の琉球諸島にミサイル発射装置を設置しました。
英仏独は、南シナ海とインド洋に海軍を派遣しています。
歴史を振り返れば、成長していたが、時間がないと焦った勢力が絶望的な企てを行うことを示しています。
第一次世界大戦は典型的な例です。
台頭するドイツは英仏露三国協商を前にして壊滅的なリスクを犯しました。
同じ論理が、1941年の大日本帝国の致命的な賭けを説明しています。
米国の石油禁輸により、成長著しい日本はアジア太平洋を支配する機会を閉ざされました。
中国は現在、厳しい経済予測と厳しい戦略的包囲の両方に直面していることを考えると、今後数年間は特に混乱する可能性があります。
米国は明らかに中国と競争するための長期戦略を必要としています。
しかし、同時に、向こう10年間の中国の侵略と拡大の潜在的可能性を抑える必要があります。
初期の冷戦は有用な類似点を提供します。
当時、米国の指導者たちは、ソ連との長期的な闘争に勝つためには、短期的に重要な戦いに負けないことが必要であることを理解していました。
1947年に発表されたマーシャルプランは、西欧の経済崩壊を防ぐことを目的としていました。
そのような経済崩壊により、ソ連は大陸全体に政治的覇権を拡大できる可能性があったからです。
NATOの創設と西欧の再軍備は、西側の繁栄を可能にする軍事的盾を築きました。
今日、米国は再び同様な戦略を必要としています。
それは3つの原則に基づくべきです。
第一に、長期的な勢力均衡を根本的に変える中国の短期的な成功を否定することに焦点を当てる事です。
最も差し迫った危険は、中国による台湾の征服と5G通信ネットワークにおける中国の卓越性です。
第二に、開発に何年もかかる新規の関係作りではなく、現在利用可能なパートナーシップに依存する事です。
第三に、中国の行動を変えるのではなく、中国の力を選択的に低下させることに焦点を当てる事です。
ワシントンの最優先事項は台湾を支援することでなければなりません。
中国が台湾を吸収すれば、世界トップクラスの技術を利用できるようになり、「不沈空母」を獲得して軍事力を西太平洋に投射し、日本とフィリピンを封鎖する能力を獲得するでしょう。
中国はまた、東アジアにおける米国の同盟関係を崩壊させるでしょう。
台湾は中国の侵略に対する要塞です。
中国は何十年もの間、台湾との経済的つながりを築くことによって統一を買おうとしてきました。
しかし、台湾の人々は、事実上の独立を維持することをこれまで以上に決意しています。
その結果、中国は軍事的選択肢を振りかざしています。
現在の台湾の防衛装備は十分ではありません。
米国は台湾に、ミサイル発射装置と武装ドローンを配備するべきです。
これらの部隊はハイテク地雷原として機能し、中国の侵略部隊に深刻な打撃を与えることができます。
そして、米国は他の国々を台湾の防衛に参加させるべきです。
日本は中国の台湾北部へのアプローチを阻止することをいとわないかもしれません。
インドは、米海軍がアンダマンニコバル諸島を使用して北京のエネルギー輸入を阻止することを許可する可能性があります。
欧州の同盟国は、台湾攻撃の場合、中国に厳しい制裁を課す可能性があります。
米国は、これらの行動をとることを、公にコミットするようにパートナーを説得すべきです。
そのような措置が中国の台湾攻撃を思いとどまらせる可能性があります。
米国は同時に、中国が広範な技術的勢力圏を作り出すことを防ぐために努力しなければなりません。
中国企業が世界中に5G通信ネットワークを設置した場合、中国は莫大なインテリジェンスのメリット、経済的利益を享受する事になります。
同様に、中国製の監視技術の普及は独裁者を定着させ、民主主義の国際的な普及に永続的な害を及ぼす可能性があります。
中国の技術的な拡大を抑えるために、米国は、米国や他の民主主義国で作られた技術の輸出を制限すべきです。
これらには、半導体、AIチップ、コンピューター数値制御(CNC)マシンが含まれます。
この措置により、中国の技術進歩を遅らせ、発展途上国に中国のネットワークに代わるものを提供するための時間を買うことができます。
さらに、米国は中国経済への依存度を制限する必要があります。
米国は米軍軍需品から中国の部品を排除し、重要な医薬品とレアアースの代替供給源を確保する必要があります。
米国は友好的な民主主義国と協力して信頼できるサプライチェーンを構築することが必要です。
一方、米国は、中国との紛争を引き起こさないように、十分注意する必要があります。
ワシントンは、完全な技術的禁輸、全面的な貿易制裁、または中国内での暴力を助長するための秘密行動プログラムなど、はるかに攻撃的な措置を講じるべきではありません。
当面の危機をうまく切り抜けたしても、米中の競争は終わりません。
しかし、初期の難しい時期を乗り越えれば、中国政府が既存の秩序を力ずくで覆すことはできず、米国が減速している中国をしのぐ能力に徐々に自信を持つ事になるので、戦争の可能性は薄れるかもしれません。
今までと同じように、米国は来るべき危機を乗り切る限り、長い競争に勝つことができます。
米国を支配する楽観論
この論文を読むと、最後は自分たちが中国に勝つと言う様に楽観的に考えている様に感じられます。
米国の論者の多くはその様に感じている様です。バイデン次期大統領も「米国が中国にやっつけられてしまう。冗談じゃない」と今年発言しており、米国の勝利を疑っていない様です。
しかし、中国はこれまで米国が相手をしてきた日独や旧ソ連とは違い遥かに強敵です。
しかも歴史上、中国が世界の頂点に君臨していた期間は他のどの国よりも長いのです。
この両国の戦いは、旧ソ連が崩壊した様には簡単に終わらない様な気がします。
日本の立ち位置は非常に難しく、安全保障上米国に依存している一方で、貿易相手国としては中国が一番と言う状況にあります。
台湾を中国が攻撃した場合、日本はどこまで踏み込めるのか、
台湾を中国が支配下に収めれば、日本は致命的に重要なシーレーンを中国に抑えられる事になります。
米国から見れば、米軍兵士が日本の国益を守るために血を流しているのに、日本は一緒に戦わないのかという議論になってくると思います。
そう言う意味では、米中が戦わない様、徹底的に日本は努力する必要があると思います。
戦争は敵国のレッドライン(それ以上譲歩が出来ないライン)を見誤った場合に生じます。
これを避けるためには、日本は軸足を米国に起きつつも、米中とコミュニケーションを保ち、いざと言う場合には橋渡しを行うといった役回りが求められると思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。