突然の台湾訪問が拡げる波紋
ペロシ下院議長の台湾訪問は国際的に波紋を拡げています。
当然のことながら中国は猛反発しました。
ペロシ下院議長は大統領継承順位で副大統領に次ぐ地位にある人ですので、一つの中国を認めている米国が台湾を独立国であるかの様に扱うのは納得が行かないのでしょう。
しかしそもそも同議長は何故この時期に訪問したのでしょうか。
またバイデン大統領はこの訪問を阻止しようとしたとも伝えられていますが、真相はどうなのでしょうか。
この点について英誌Economistが「Nancy Pelosi’s trip to Taiwan highlights America’s incoherent strategy」(米国戦略の一貫性のなさを浮き彫りにしたペロシの台湾訪問」と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ペロシ議長の台湾訪問の一つの見方は、原則を敢然と主張したというものです。
中国は、台湾と関係を維持しようとする国を脅迫しています。
人口260万人のリトアニアは、台湾が正式な名前で事務所を開設することを許可しただけで中国の怒りに触れました。
ペロシ議長が台湾を訪問する権利はあり、それは下院議長の先輩であるギングリッチ氏が、1997年に行ったことです。
おそらく、彼女の訪問は、隣人にいじめられている他の国々を奮い立たせるでしょう。
しかし、別の見方は、この訪問は、長期的には米国の唯一かつ最大の敵である中国に対するアメリカの一貫性のないアプローチの兆候であるというものです。
もしそうなら、この訪問は米国の強さを伝えるつもりが、バイデン政権の混乱と目的意識の欠如を示してしまった事になります。
1つの問題は、この訪問のタイミングです。
確かに、アメリカが中国と対峙して、その利益や権利を主張し、その価値を擁護することを明確にしなければならない瞬間があります。
しかし、そのような瞬間はしばしばエスカレーションのリスクを伴います。
アメリカはその時期をを慎重に選ぶべきです。
現在、習氏は党の指導者として異例の3期目の任期を確保することが予想される共産党大会の準備中であり、非常に敏感になっています。
国内に難しい課題を抱える習氏は攻撃的なナショナリズムを育み、台湾との「統一」を彼の目標である「国の若返り」に結びつけました。
それだけに今は彼の決意を試すのは危険な時期です。
もう1つの問題は、バイデン大統領との調整が明らかに不足していることです。
当初、彼女の計画について尋ねられたとき、大統領は訪問が「今のところ良い考えではない」と述べた軍関係者の発言を引用しました。
訪問が明らかになった後、彼には悪い選択肢しか残されていませんでした。
ペロシ議長の訪問を祝福し、中国との対立の危険を冒すか、或いは、彼女の台湾訪問を阻止し、中国の脅しに屈する(これは当然共和党の批判にさらされます)かです。
確かに、議会は行政府とは別の機関ですが、台湾政策において縄張り争いをするのは危険すぎます。
結局、彼女の訪問はバイデン氏の毅然とした態度と権威の欠如を浮き彫りにしました。
最悪の場合、ペロシ氏の訪問は、米政権の台湾政策がどれほど不確実であるかを明らかにするリスクがあります。
この訪問が国際安全保障危機にエスカレートする場合、責任は中国にあります。
しかし、すでにウクライナでの戦争に取り組んでいるバイデン氏と彼のチームにその様な状況に対応する準備ができているのでしょうか。
バイデン氏は、過去の大統領が明確な約束を故意に回避したという「戦略的曖昧さ」という立場を無視して、台湾を侵略から守ると何度も発言しました。
米国議会の一部は、中国がより自信を持ち、台湾をめぐる戦いでアメリカを打ち負かす能力が高まるにつれて、大統領の明快さを支持しています。
しかし、大統領がこういった発言をする度に、大統領の補佐官は発言を打ち消し、戦略的な曖昧さを戦略的な混乱に変えています。
アメリカが台湾を侵略から守りたいと思うのは正しいことです。
この国は、世界経済で重要な役割を果たし、世界最高の半導体を生産している、2400万人の親欧米の民主主義国です。
それはまた、この地域におけるアメリカ主導の秩序の柱でもあります。
しかし、その国を守る事を宣言することは、それを想定済みの中国を思いとどまらせることにはなりません。
どちらかといえば、明確に意図を表明する事は、習氏ががどこまで行けるかを試す事を促す事になります。
たとえば、今年は台湾領空の近くでこれまでになく多くの戦闘機を飛行させてきました。
バイデン氏は、台湾の軍事力を向上させることによって侵略を防ぐことに焦点を当てるべきです。
これは、彼の将軍たちに台湾の将軍たちと率直な議論をするよう要請する事から始まります。
台湾は、その軍隊の腐敗と浪費と戦い、訓練と徴兵を改善するためにもっと多くのことを行う必要があります。
台湾は非対称戦争を行うために、より小さく、より機動性があり、隠蔽可能な武器を使用するべきです。
アメリカはこの点において喜んで台湾を援助することを明確にすべきです。
次回アメリカが他のアジアの同盟国と演習を行うときは、台湾に観察(または参加)を勧めるべきです。
彼らは皆、次の大きな危機の計画を立てる際にアメリカと日本に従うべきです。
中国は、おそらく台湾上空に戦闘機を送ることや、島の沖合にミサイルを発射することさえ含まれる軍事行動と、台湾をさらに隔離するための経済的および外交的措置で対応するでしょう。
中国の対応は、数年ではないにしても、数週間から数か月にわたって行われる可能性があります。
その間、アメリカが試される本当のテストは、新聞の見出しになる様な訪問ではなく、台湾の抵抗力を米国が高められるかどうかです。
台湾有事の際、日本はどうするのか
今回のペロシ議長の台湾訪問はEconomist誌の指摘通り、米国の台湾政策の一貫性のなさ、頼りなさを浮き彫りにしたと思います。
さらに言えば、国内に重要な経済問題を抱え、今秋の共産党大会での再選に黄信号が灯りはじめていた習近平氏に「米国の内政干渉に対決するためには党主席を中心に一致団結すべきだという言い訳を与えた」という意味で、米国にとってオウンゴールと言っても良いかもしれません。
それにしても、台湾有事の際に日本はどうするべきでしょうか。
ウクライナ危機は欧州での紛争ですので、我が国は対岸の火事として傍観すればよかったのですが、台湾でもし事が起これば、間違いなく大きな影響を被ります。
もし米国と共に参戦する様な事になれば、中国という我が国にとって最大の貿易相手国を失う事になり、経済は大打撃を受けます。
一方、台湾は中国の一部ですので、ロシアがウクライナに侵攻したのとは事情が異なります。
岸田政権は米国との関係を重視し、今回もペロシ議長との面談を岸田首相が受け入れましたが、同様に米国と安保条約で結ばれている韓国は同議長との面談を大統領が拒否しました。
ビジネスマンの感覚からすれば、米国に軸足を置きつつも、米中両大国を天秤にかけて我が国の利益を最大化すべきではないかと思います。
尻尾を振っていれば、米国が言うことを聞いてくれると思ったら大間違いで、米国を動かすには、それなりのしたたかな外交も必要ではないかと思います。
岸田政権の台湾政策に注目です。
最後まで読んで頂き、有難うございました。