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中国との関係も維持したい日本を米国はどう見ているか

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日米同盟は未だ盤石ではない

先月、菅首相を最初の外国人指導者としてホワイトハウスに迎え入れたバイデン 大統領は、中国と競争していく上で、最も重要視したのが日本だったと思われます。

会談後の公式声明でも、台湾を明記し、日米同盟は中国に対抗する上で、NATOと並んで米国にとって最も頼りがいのある同盟関係の様に思えたのですが、米国には日米同盟はそれほど盤石ではないとの議論もある様です。

日本研究家のToblas Harris氏がThe Surprising Strength of Chinese-Japanese Ties - Tokyo Will Not Break With Beijing—No Matter What Washington Wants(日中関係の驚くべき強さ - 米国がどれだけ望んでも日本は中国と決別しない)と題する論文を米誌Foreign Affairsに寄稿しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

4月、菅義偉首相は、ホワイトハウスでバイデン米大統領を訪問した最初の外国人指導者となりました。

両首脳は、日米同盟の将来に対する野心的なビジョンを発表しましたが、最も重要なことは、「国際法に基づく秩序と矛盾する中国の活動に対する懸念」を列挙し、同盟が直面している主要な課題として中国を明確に特定した事でした。

何年にもわたるオブラートに包まれた表現の後、日米政府は、アジアにおける中国の軍事力を阻止し、経済的に中国と競争するために協力していることを正式に認めました。

 

しかし、ワシントンが東京を北京に強く対立させることに成功したと考えるのは時期尚早でしょう。

日本は中国の行動をますます警戒し、中国の指導者の行動を批判するかもしれませんが、中国との根本的な断絶はありえないと思っています。

むしろ、日本は中国との「相互に有益な」戦略的関係に引き続きコミットしています。

ホワイトハウスで菅首相が見せたタカ派姿勢にもかかわらず、日本は、米国主導の中国に対する冷戦への参加に抵抗するでしょう。


日中関係は急に変化します。

1年前、新型コロナ感染が発生する前に、中国の習近平主席は、権力の座に就いて以来、初めて日本を訪問する予定でした。

このイベントは、当時の安倍首相による、日中関係を強化するためのキャンペーンの要であったでしょう。

安倍首相は、中国とより緊密な経済関係と東シナ海での紛争管理における協力を目指していました。
安倍首相は、軍事活動を制限する戦後の「平和」憲法を改正すべきであるという信念を持っている事で有名であり、また米国政府とより緊密な関係を推進しました。

それでも2017年の初めに、彼は腹心の顧問に、中国との二国間関係の新たな改善について調査し始めるように指示しました。

このイニシアチブは、主に政治的緊張の緩和と経済協力の構築に焦点を合わせました。

安倍首相のようなタカ派でさえ、中国との経済的相互依存の現実と、より安定した関係を求める政財界の声を無視することはできなかったのです。

2019年末現在、日本の対中直接投資総額は約1,303億ドルであり、米国への投資を大幅に下回っていますが、西欧の主要経済国への日本の投資総和とほぼ同等です。

中国では7,750以上の日本企業が事業を行っています。これは他のどの国よりも多く、東南アジア諸国連合で事業を行っている日本企業の総数を上回っています。

日本政府が経済の活性化に苦労した過去20年間、中国との貿易は日本の重要な成長の源でした。

中国は日本製品の主要な市場であるだけではありません。

中国は、他のどの国よりも多くの観光客、学生、労働者を日本に送りました。

中国人は日本の外国人の4分の1以上を形成し、すべての外国生まれの学生のほぼ40パーセントを占めています。

この様な関係を支持し、議員および政府当局者への静かな働きかけを通じて両国間の対立を和らげる必要性を一貫して強調しているのは日本の経済界に他なりません。

経済界は、保守的ですが、歴史的にタカ派の反中派とより重商主義派に分かれています。

安倍政権下では、中国とのより良い関係を支持する重商主義者が優位に立ちました。

公明党も、中国との友好関係を長く主張しています。

外務省や経済産業省などの重要省庁の官僚は、中国との対立に抵抗します。

 

これらの組織は一緒になって、日本で一種のチャイナロビーを形成し、二国間関係を政治的対立から隔離するよう努めてきました。

たとえば、1989年の天安門事件後、政治家や外交官は制裁に反対しました。

経済界とその同盟国は、日本の首相が靖国神社を訪れた時でさえ、両国間の経済統合を深めることを主張しました。

最近では、自民党幹事長の二階氏と経産省出身の顧問が、トランプ大統領の政権が中国との貿易戦争に着手した時も、安倍首相に北京との安定した関係を優先するよう説得しました。

安倍首相の動きは、米国政府が中国との分離を求め始めたにもかかわらず、日本が中国との経済関係を地政学的緊張から隔離しようとしていることを示しました。


近年、日本のチャイナロビーは、中国を主に軍事的脅威と見なしているタカ派議員の批判をかわす必要がありました。

中国政府が東シナ海の争われている尖閣諸島に対する主張を主張し始めて以来、日本国民も中国に懐疑的になりました。

日本のシンクタンク言論エヌピーが行った年次調査によると、日本人は中国に対して著しく敵対的になっています。

2011年以降毎年調査された日本人の75%以上が中国に対して否定的な態度を示しており、2014年以来90%前後を維持しています。

2020年には、日本の多くの人が中国の物議を醸す香港の安全保障法、オーストラリアに対する経済的圧力キャンペーン、台湾海峡、東シナ海、南シナ海での軍事活動などに不満を漏らしました。

安倍の下で和解を可能にした条件は蒸発しました。

安倍政権が北京と大規模な協議を行っている間、タカ派は、習主席の公式訪問をキャンセルするよう政府に要請しました。

 

米国との共同声明は、昨年9月に安倍首相を引き継いだ菅首相が、前任者の中国との温かい外交に戻らないという最新の兆候に過ぎません。

自民党幹事長として二階氏を維持しましたが、菅首相は台湾特使を務めた岸信夫を国防相に任命しました。

菅は昨年導入されたプログラムを拡大し、生産を中国からシフトしたい日本企業に助成金を支給しています。

彼は、10月に外相会議を主催し、3月に開催された仮想サミットを推進することにより、クワッド(オーストラリア、インド、日本、米国を含む非公式の民主主義グループ)を受け入れました。

彼の閣僚は、中国の新しい沿岸警備隊法に公然と抗議しました。

最近では、日米の防衛当局者は、中国と台湾の間で紛争が発生した場合に同盟国が協力することを確認した。

 

しかし、日本の中国政策のこういった変化は不可逆的ではありません。

日本企業は引き続き中国を不可欠な市場として扱っています。

ここ数週間、トヨタやロボットメーカーのファナックを含む日本企業は、中国への重要な新規投資を主導すると発表しました。

半導体の主要部品の日本のメーカーも、米中貿易戦争の結果としてより大きな市場シェアを獲得する機会を見込んで、中国への新たな動きを発表しました。

財界は、政治家が中国との安定した関係を推進することを常に奨励するでしょう。

 

おそらく最も重要なことは、日本人は中国との関係が重要であり、維持する価値があると信じ続けていることです。

多くの日本人は、中国の行動がもたらす真のリスクにもかかわらず、自国は巨大な隣国や経済パートナーと協力する方法を見つけるしかない、と主張しています。

最新の世論調査によると、日本人の90%近くが中国に対して否定的な態度を示しているにもかかわらず、日本人の3分の2以上が、中国との経済協力が自国の将来にとって重要であると考えています。

他の世論調査では、国防費の増加や日本の自衛隊のより広範な役割に対する支持はほとんど見られません。

中国がこの地域で積極的に行動し続けるならば、その行動はいつの日か日本との根本的な破裂をもたらすかもしれません。

しかし、その日はまだ来ていません。

日本は、米国との歴史的同盟と中国との強い関係を維持するため両方のバランスをとることに長けていることが証明されています。

日本のビジネスリーダー、官僚、政治家は、菅が首脳会談後にツイートしたように、「中国との安定した関係は日本と中国だけでなく、この地域の平和にとっても重要である」と信じて、北京とのチャンネルを維持するつもりです。

二兎を追うものは

この論文を読んで感じた事は、日本政府が米国と中国の間で、いいとこ取りをしようとしている事を米国が十分認識している点です。

そして米国はこの点に不満を覚えており、これからも日本に対して米中どちらに付くのか踏み絵を迫ってくると思われます。

もし日本が中途半端な姿勢を見せたならば、米国は尖閣などでの中国の紛争において、自らの血を流してまで日本の領土保全に踏み込んでこないでしょう。

中国にとってみれば日米両国の関係に溝ができる事は好都合です。

今後、中国は日本に対して硬軟取り混ぜてあらゆる手段で、日本への信頼を米国に失わせる様働きかけてくると思います。

もちろん程度問題ですが、米国の信頼が揺らぐ様な態度を日本が示せば、日米関係は一気に悪化するでしょう。

二兎を追うものは一兎を得ずです。

日本政府には今後も慎重な舵取りが要求されます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。