核の抑止力が守ってきた世界
今年一月、86か国が署名した核爆弾の保有を禁じる国際条約が発効しました。
この条約の精神には尊いものがありますが、現実の国際世界では、この条約が世界に与える影響は微々たるものです。
今私たちが生きている世界は、限られた国が保有する核の抑止力によって守られています。
北朝鮮の核ミサイルが日本に飛んで来る事を防いでいるのは、もしその様な事が起これば、米軍が自国の核兵器により北朝鮮を完膚なきまでに報復するという約束事があるからです。
この脅威によって北朝鮮側は核のボタンを押せない訳です。
冷戦時代より平和が保たれてきたのは、米国、ロシアをはじめとする超大国が抑止力を効かせ、核の非拡散についても精力的に努力してきたからでした。
しかしこの構図が今崩壊の危機に瀕している様です。
英誌Economistが今週号のトップストーリーとして「The world is facing an upsurge of nuclear proliferation - To stop it, the nuclear powers need to act」(世界は核拡散の危機に直面している - これを止めるには核保有国が行動を起こす必要がある)と題した記事を記載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ブラジルからスウェーデンまでの31か国が、核兵器開発を検討しましたが、たった10か国が核爆弾を製造しました。
現在、9つの国が核兵器を所有していますが、世界で最も致命的な兵器の拡散を阻止するための闘いは、ますます困難になってきています。
過去20年間、核の野心を持つほとんどの国は、リビアやシリアのような小国でした。
今後10年間で、幾つかの大国がその様な野心を持つ可能性があります。
中国の急速に拡大する地域支配と北朝鮮が増大させる核兵器は、アジアの大国である韓国と日本を刺激します。
イランの好戦性とその核開発計画は、サウジアラビアやトルコに立ちはだかります。
核拡散は連鎖反応ではありませんが、伝染性があります。
抑えが弱まり始めると、急速に拡散する可能性があります。
1991年から2010年に38,000発の弾頭が削減され(79%減少)、アメリカとロシアの間の軍備管理は減少しました。
1月26日、バイデン大統領とプーチン大統領は、新戦略兵器削減条約を5年間延長することに合意しました。
それ自体は大歓迎ですが、今後の見通しは暗いです。
中国、インド、北朝鮮、パキスタンはすべて、核戦力の拡大と近代化を進めています。
86カ国が署名し、1月22日に発効した核爆弾を禁止する新しい国際条約は、核を持っていない国の欲求不満を掻き立てる意外、殆ど意味がありません。
核兵器が存在し続け、安全保障上の脅威が悪化している場合、一部の国は自国の爆弾を持ちたくなるでしょう。
過去数十年の間、アメリカは核を持ちたがる国に対して、例えば台湾には安全保障を撤回すると脅し、イラクのような国には制裁と軍事力を使用しました。
しかし、今日、アメリカの力は弱まっています。
トランプの激しい言葉は、同盟国を擁護し、条約を守るというアメリカの姿勢に疑問を投げかけました。
バイデン氏が正統的な外交政策に回帰しようとしていますが、信頼回復には時間が掛かるでしょう。
アジアの同盟国に広がるアメリカの核の傘を考えてみてください。
北朝鮮や中国がソウルや東京を攻撃した場合、アメリカは平壌や北京に対して報復するという約束を守る必要があります。
何十年もの間、アメリカは自国の都市が北朝鮮のミサイルの射程外にあると確信してその脅威を示すことが出来ました。
しかし今ではそうではありません。
平壌に対するアメリカの攻撃はサンフランシスコを危険にさらすでしょう。
バイデン氏は攻撃することを躊躇するかもしれません—その躊躇は金正恩がソウルを攻撃する事について、大胆にするかもしれません。
ほとんどの韓国人が、1991年に撤収されたアメリカの戦術核兵器の再配備或いは韓国固有の核爆弾の配備を望んでいると言うのも不思議ではありません。
韓国、日本、台湾のような民主主義国では、核を持とうという野心は国民の合意を得る必要があります。
しかし、中東は違います。
イランの核開発計画を縮小する核合意は崩壊しつつあります。
バイデン氏がそれを復活させたとしても、その規定の多くは10年で失効します。
イランが核保有を検討しているように見える場合、サウジアラビアは遅れを取りたくないでしょう。
サウジアラビアの皇太子であるムハンマド・ビン・サルマンは、彼の権威と核技術の野心的な計画について国内でのチェックをほとんど受けていません。
トルコもそれに続く可能性があります。
核秩序が一旦崩壊し始めたら、止めることはほとんど不可能です。
したがって、今日行動することが重要です。
アメリカ、中国、ヨーロッパ、ロシアは、拡散を阻止することに関心を共有しています。
ロシアはアメリカよりもイランが核を持つ事を望んでいません。
核武装した日本は、中国にとって悪夢でしょう。
2015年のイランの核合意は、ライバル同士が核拡散への対応に協力できる事を示しました。
核保有国は基本から始めるべきです。
アメリカとロシアはまだ世界の核弾頭の90%を持っているので、いかなる努力も彼らから始まります。
アメリカとロシアの間の軍備管理は、中国に既存の兵器が攻撃に耐えることができると説得し、その軍隊の不安定な急増を回避するのに役立つかもしれません。
中国の抑制は、インドとパキスタンを安心させるでしょう。
北朝鮮とイランの神経を落ち着かせる上でのアメリカの最も重要な役割は、同盟国として立場を維持する事であり、この点について、バイデン氏はすでに関係を修復することを約束しています。
バイデン氏は、日本と韓国に対するアメリカの核の傘を再確認し、強化することから始めるべきです。
これには、防衛線としてだけでなく、同盟国への保証や、アメリカが決して退かないという敵への警告としても機能する駐留米軍の役割も含まれます。
核拡散を止めるには、その兆しをいち早く見つけることも重要です。
諜報機関は当然のことながら、イランのようなおなじみの問題国家に焦点を合わせてきました。
彼らの視線は、韓国やトルコなどの場所での核技術の変化、世論、政治的意図の早期警告を含むように拡大されるべきです。
核拡散の危険性を軽視する余裕はありません。
今日の核外交は荷の重い仕事の様に見えますが、地域の核武装したライバル間に発生する致命的な偶発事故の可能性を考えれば、残された時間は多くありません。
朝鮮半島の統一
日本にとって、最も心配なのは北朝鮮の核です。
上記記事が指摘する様に、もはや米国に届く核ミサイルを北朝鮮が保有しているのであれば、バイデン大統領は北朝鮮を報復する事を躊躇うかもしれません。
これは大きな状況の変化です。
いずれにせよ北朝鮮当局が、米国の核の傘に対して誤解をしない様、日米当局は一致して明確なメッセージを発するべきと思います。
一方、私は個人的には朝鮮半島の統一は意外に早く実現するのではと思っています。
冷戦時に存在した同一民族の分裂は東西ドイツ、南北ベトナムの統一が実現し、残るのは朝鮮半島のみとなっています。
北朝鮮の様な特殊な国が長く存在し続けるのは非常に難しいと思います。
最近、大ヒットした韓国テレビドラマ「愛の不時着」にはまっていますが、このドラマの中で、北朝鮮の国境警備隊員が10年以上前にヒットした韓流ドラマ「天国の階段」のビデオに釘付けになっているシーンが出てきます。
このシーンが象徴的にあらわす様に、北朝鮮の人々もいくら検閲が厳しいと言っても、お隣韓国の経済成長や暮らしぶりについては情報を得ていると思います。
ソ連がグラスノスチ(情報公開)を行った事で崩壊した様に、北朝鮮も中から、統一への動きが出てくるのではないでしょうか。
統一した南北朝鮮は、日本にとって友好国にはならないかもしれませんが、少なくとも日本向け核攻撃の可能性は大きく減じるでしょう。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。