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中東におけるアラブの時代は終わった- 影響力を増す非アラブ国(イスラエル、トルコ、イラン)

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エルドアン大統領に電話を掛けないバイデン 大統領

バイデン 政権は、トルコについては重要であるが故に、極めて慎重に扱っている様です。

トルコは言うまでもなく、NATOのメンバーであり、米国の地域戦略において重要な同盟国として機能してきました。

しかし、トルコは最近、シリア、イラク、リビアの内戦そしてナゴルノ=カラバフの紛争に介入し、地域大国として影響力を強めています。

米国の同盟国でありながら、ロシアの対空防衛システムS400を購入し、米国から制裁を受けるという摩擦も生じています。

この様な環境下、バイデン 大統領は未だにエルドアン大統領に就任後電話をしていません。

日本を初めとする同盟国はもちろん、ロシアや中国の首脳に対しても、就任の挨拶を済ませたバイデン 氏がエルドアン氏に電話していない事が話題になっている様です。

米誌Foreign Policyは次の様に伝えています。

「ジョー・バイデンは大統領に就任して以来1ヶ月、世界の指導者に次々と電話をかけました。

しかしトルコのエルドアン大統領には電話が来ていません。

電話が来ないのは、シリアをめぐる騒ぎからシステムの購入まで、NATOの同盟国の間で何年にもわたって認識されていた問題が理由と思われますが、トルコでは大きなニュース記事になりました。

我々の調査によればバイデン 氏が電話をしない事はトルコに対する米国の厳しい姿勢を示していることが明らかになっています。」

アフガニスタンの和平に一役買うトルコ

バイデン 大統領がエルドアン大統領に電話を掛けないのは、確かに米国のトルコに対する不満を示しているともとれますが、一方で、ブリンケン米国務長官は興味深い動きを見せています。

トルコの有力紙「Hurriyet」は昨日次の様に報道しました。

「3月7日にアフガニスタンのToloNewsがリークした米国国務長官の書簡によると、停滞したアフガニスタンの和平プロセスを加速するために、アフガニスタン政府代表とタリバンの間の会議がトルコで準備される予定との事です。

この手紙は、ブリンケン米国務長官からアフガニスタン大統領アシュラフ・ガニーに送られた手紙である事が明らかにされました。

その手紙の中で、ブリンケン氏はガニー大統領に今後数週間以内にトルコで行われる会議にガニー大統領に出席する様に強く要請しています。

ブリンケン氏はまた手紙の中で、米国がアフガニスタンの平和を促進する方法を議論するために、ロシア、中国、パキスタン、イラン、インドの外相と使節を召集するよう国連に要請することを意図していると述べています。」

トルコに対する複雑な評価

バイデン 大統領はエルドアン大統領に冷淡な姿勢を示す一方で、大統領の右腕のブリンケン氏はアフガニスタンの和平交渉をトルコで行う事を提案しています。

この相反する米国政府の対応はは米国のトルコに対する複雑な評価を反映しているものと思われます。

この複雑な評価は何故生まれたのでしょうか。

これは多少歴史を遡らなければなりません。米誌Foreign Policyは次の様に中東の将来を分析しています。

「中東の次の紛争はアラブ諸国とイランの間では起こりません。

アラブの時代は過ぎ去りましたアラブ以外の勢力(トルコ、イラン、イスラエル)の間の競争が、この地域の未来を形作るでしょう。

20年以上の間、米国は中東の政治をアラブ人とイランとの戦いと見なしてきました。

しかし、トランプ大統領の4年間、この地域の3つの非アラブ勢力、イラン、イスラエル、トルコの間で成長している様々な、より深刻な亀裂を理解していませんでした。

1956年のスエズ危機後の四半世紀の間、イラン、イスラエル、トルコは、米国の支援を受けてアラブ世界とのバランスをとるために力を合わせました。

しかし中東でのアラブ諸国の力は衰え、現在、優勢なのは非アラブ勢力(イラン、イスラエル、トルコ)であり、米国がそのコミットメントを縮小するにつれて、イランの脅威を感じているのはアラブ人です。

昨年、UAEはイスラエルとの歴史的な和平協定を結ぶ理由としてイランの脅威を挙げました。

しかし、その和平協定は、イランに対するものであると同時に、トルコに対する防波堤でもあります。

この協定は、前政権が正しく認識しなかったアラブ、イラン、イスラエル、トルコ人の間の競争の激化を示しています。実際、それは、より大きく、より危険な軍拡競争や戦争につながる可能性があります。

イランの脅威については既によく知られています。新しいのは、はるかに広い地域での予測不可能なトルコの出現です。

もはや西側での未来を想像しえないトルコは、今やイスラムの過去をより明確に受け入れ、1世紀前に描かれた過去の境界線を見ています。

オスマン帝国時代にこの地域に影響を与えたというその主張は、もはや無視することはできません。

トルコの野心は今や考慮されるべき力です。

たとえば、トルコは現在シリアの一部を占めており、イラクに影響力を持っており、ダマスカスとバグダッドの両方でイランの影響力に対抗しています。

トルコはイラクでクルド人に対する軍事作戦を強化し、イランがトルコの敵であるクルディスタン労働者党(PKK)に避難場所を与えたと非難した。

トルコはリビアの内戦に参加し、最近ではナゴルノカラバフの紛争に介入しました。

アラブの統治者は、ムスリム同胞団に対するトルコの支持とアラブの政治に発言権があるという主張を懸念しています。

無視できない地域大国トルコ

若い方はご存知ないかも知れませんが、イランでイスラム革命が起こった1979年まで、中東における米国の同盟国といえば、イスラエル、トルコに加えてイランの3カ国だったのです。

この3カ国は全て非アラブ国ですが、アラブ諸国を抑え込み、イスラエルの安全を守るためには必要な同盟であった訳です。

イランがイスラム革命により反米に転じた後も、イスラエルとトルコは緊密な関係を維持し、つい最近まで合同軍事演習を行なう仲でした。

しかし、ここにきてトルコは自主路線を歩み始めています。

オスマン帝国の栄光を再びとばかり、最近トルコは積極的に周辺諸国に軍事介入を行っており、地域大国として影響力を増しています。

米国は恐らくトルコの事を信用していないと思いますが、中東離れを効率的に進める上で、トルコの力を利用せざるを得ないと判断しているものと推測されます。

特にイランの力を押さえ込むためには、トルコの協力が必要です。

ご存知かも知れませんが、イラン東部(タブリーズを中心とする地方)には1500万人ものトルコ語系イラン人が住んでいます。

彼らがトルコの意向に沿って動く様な事があればイランも一大事です。

ブリンケン国務長官のトルコへのアプローチはこの辺りの事情を十分把握した上での判断と推測します。

イスラム国やイランと言った米国の敵を押さえ込む上で、トルコはベストではありませんが、他の選択肢は見つかりそうもありません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。