中東での地殻変動
ウクライナの情勢は緊迫度を高めている様ですが、これは米国のインド太平洋地域へのシフト、即ち主敵である中国への対応が影響している様に思われます。
米国が世界の警察官としての旗を降ろせば、世界の至る所に権力の空白状態が生まれます。
アフガニスタンからの米軍の撤退が象徴する様に、中東で大きな地殻変動が生まれようとしています。
トルコとイスラエルは第二次世界大戦後、米国の同盟国として長い間緊密な関係を維持し、両国の軍隊は定期的に共同演習を行う間柄でした。
その後、エルドアン政権になってから、両国の関係は冷却化しましたが、驚くべき事に、イスラエルの大統領が来月トルコを公式訪問する様です。
両国の雪解けの背景について、米誌Foreign Policyが「Embattled Erdogan Signals Turkish-Israeli Thaw - The ground in the Middle East is shifting yet again」(苦境に立つエルドアン大統領イスラエルに雪解けのサイン - 中東の地殻変動再び)と題した論文を発表しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy論文要約
中東の外交地図は再び変化しています。
イスラエルとトルコの間で驚くべき雪解けが起こっているようです。
トルコのエルドアン大統領の下で関係が急速に冷却化しましたが、両国は元々親密なパートナーでした。
先週、エルドアン大統領は、イスラエルのヘルツォーク大統領が、3月中旬にアンカラを訪問することを発表しました。
これにより、ヘルツォークは、シモン ペレスの2007年の訪問以来、トルコを久々に訪問するイスラエル大統領になります。
エルドアン大統領が新しいパートナーを探していることは理解できます。
崩壊する経済、国内の反対の高まり、アラブの隣人や西側の同盟国との対立、そして隣国ウクライナでの混乱等に彼は直面しています。
トルコは、1949年にイスラエルを承認した最初のイスラム教徒多数国であり、両国は、長年にわたって強力な外交、安全保障、および諜報協力を享受してきました。
しかし、2002年にエルドアン氏のイスラム教に根ざした公正発展党が政権を握って以来、二国間関係は激動の時代を迎えました。
現在、エルドアン氏は、東地中海での孤立の高まりと国内の経済的苦境により、敵に手を差し伸べることを余儀なくされています。
エルドアン大統領の頻繁な反ユダヤ主義と反イスラエルの行動履歴を考え、イスラエルは慎重に対処しようとしています。
「私はトルコに関して幻想を抱いていません」とイスラエルのベネット首相は語りました。
イスラエルが最も懸念するのは、ガザを支配する米国指定のテロリストグループであるハマスに対するエルドアン大統領の揺るぎない支援です。
イスラエルとトルコの関係の正常化は、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)との間の場合ほど急速には起こりません。
イスラエルが疑っているのは、エルドアン大統領が、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化するという米国が仲介した合意であるアブラハム協定を妨害しようとしたからです。
トルコ政府は、イランとハマスと共にこの協定を非難し、イスラエルとの和平に加わったことに対する罰として、UAEとの外交関係を停止すると脅迫しました。
しかし、その後、エルドアン大統領は、UAE、エジプト、サウジアラビアそして現在はイスラエルとの関係を修復する取り組みの一環として、UAEに対する外交的圧力を弱めてきました。
2021年11月にUAE皇太子モハメッド ビン ザイードがアンカラを訪問しました。両国は49億ドルの通貨スワップ協定に署名し、アブダビのソブリン ウェルスファンドはトルコに100億ドルを投資することを約束しました。
UAEは、バイデン政権が新しい核取引のためにイランに手を差し伸べているため、トルコをイランに対する潜在的なヘッジと見なしています。
イスラエルには、オイルマネーはありませんが、この国には財政的、経済的、技術的な力があります。
イスラエルとの関係の改善は、特に投資先として、トルコの傷ついた世界的なイメージを改善させるのに役立つ可能性があります。
ここ数年間のトルコからの前例のない西側資本の流出は、主要な金融機関による新興市場としてのトルコを危険にさらし、いわゆるフロンティア市場のカテゴリーへの降格をもたらし、トルコの債券と株式を投資不能にする可能性があります。
それはトルコの経済悪化を早め、エルドアン首相の政治的懸念を悪化させるでしょう。
イスラエルの天然ガスをトルコに、そしてそこからヨーロッパに運ぶために、東地中海のパイプラインを建設するという魅力的な将来の可能性もあります。
エルドアン氏はイスラエル-キプロス-ギリシャルートの替わりにイスラエル-トルコの代替案を提案するかも知れません。
東地中海においてトルコは、イスラエル、エジプト、UAE、ギリシャ、キプロスの間の前例のない外交的および軍事的パートナーシップを目の当たりにしており、エルドアン大統領は、イスラエルとの関係を修復することが、この地域におけるトルコの孤立を解消することに役立つと考えています。
トルコとの関係を徐々に改善することについて、イスラエル当局は慎重ですが、楽観論もあります。それはイランとその代理人に対する戦術的協力も可能にするでしょう。「控えめに言っても、トルコはイランの親友ではありません。」と、匿名のイスラエル外交官は語りました。
イスラエルとトルコの関係の正常化は、イスラエルと、長年緊密に協力してきたUAEとの間ほど迅速には起こりません。
エルドアン大統領が過去20年間にイスラエルとの関係において、頻繁に方針を変えたことを考えると、信頼を再構築するには時間と労力がかかります。
しかし、トルコ政府は、イスラエルがアブラハム協定のおかげで、トルコよりも東地中海で孤立しておらず、トルコとの関係正常化の試みが失敗した場合に失うものが少ないことを知っています。
したがって、エルドアン政府は関係の改善に積極的に取り組む必要があるでしょう。
最終的に、真の和解は、新しいトルコ政府を待たなければならないかもしれません。
2023年の大統領選挙と議会選挙で、大規模な野党ブロックがエルドアン首相を打ち負かす可能性があります。
しかし、追い詰められたエルドアン首相が、彼がもたらした経済的および外交政策上のダメージの一部を打ち消そうと、イスラエルとの関係修復を開始する事は間違ってはいません。
ユダヤ民族の恐るべき底力
中東における米国の同盟国は1970年代はイスラエルとトルコとイランでした。
当時イランはホメイニ革命前のパーレビ国王の時代でしたが、今やイランは米国にとって最も警戒すべき敵の一つとなり、トルコと米国の関係も冷却化しています。
面白い事にトルコと米国の関係悪化はイスラエルとトルコの関係悪化と軌を一にしています。
エルドアン大統領になってからパレスチナへの支援姿勢を鮮明にしたトルコはイスラエルから猛反発をくらい、急速に両国の関係は疎遠になりました。
現在、エルドアン大統領は欧米メディアで強権的君主の代表格として批判されていますが、アラブの春が始まった頃、彼の政権は中東における民主的政府のモデルとして評価されていました。
西側メディアが手のひらを返した様にエルドアン批判を始めたのは、エルドアン氏がパレスチナに関するイスラエル批判を始めた頃からだと思います。
ユダヤ民族は世界中に根を張っています。
特にメディアと金融におけるその影響力は他の民族の追随を許しません。
ここにきてのエルドアン大統領のイスラエルへのアプローチは、さすがのエルドアン氏もユダヤ人を敵に回すとこっぴどい目に会うことが身にしみたのではないでしょうか。
最近のリラ暴落はユダヤ系の金融資本やメディアがエルドアン氏を標的にしている事に彼は気づいたものと思われます。
変わり身の早いエルドアン氏の事ですから、パレスチナに関する批判は当面封印すると思われます。
中国の援助が必要な際に、ウイグル族への支援を封印したのと同じ様に。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。