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米国の中東離れが引き起こす合従連衡

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中東諸国に走った激震

アフガニスタンからの米軍撤退は、米国の中東離れを象徴する出来事でした。

そもそもアフガニスタンからの撤退を決めたのはトランプ大統領ですから、この流れは彼の時代から始まっていたと言えます。

トランプ政権時代にUAE(アラブ首長国連邦)やオマーンがイスラエルとの外交関係正常化を果たすなど、米国の中東離れを睨んだ動きが見られていましたが、この動きは今後ますます加速化する様です。

中東各国の最近の動きについて英誌Economistが「Middle Eastern foes are giving diplomacy a shot - Exhausted from years of conflict and eager for growth, rivals are talking」(中東のライバルたちの外交重視 -長年の対立に疲弊し、成長のために対話を開始)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

夏休みに意外な出来事が起こりました。

8月18日、アラブ首長国連邦(UAE)の国家安全保障顧問であるタフヌーン ビン ザイードがアンカラに現れ、トルコのエルドアン大統領と面会しました。

エルドアン大統領の中東におけるイスラム主義グループへの支援をめぐって、両国は何年にもわたって対立してきました。

トルコ当局は、2016年に失敗したトルコにおけるクーデターを支援したとしてアラブ首長国連邦を非難しました。

しかし、経済協力を話し合った会議後の公式声明では、そのいずれも言及されませんでした。

1週間後、タフヌーン氏はカタールの首長に会い、2017年にUAEと他の3つのアラブ諸国がカタールに禁輸措置を課して以来、カタールを初めて訪問する国務長官になりました。

タフヌーン氏はアラブ首長国連邦で最も影響力のある人物の1人であり、事実上の支配者であるムハンマド ビン ザイードの兄弟です。

彼の訪問は、UAEの外交政策の変化の兆しでした。

外交政策を変更するのはUAEだけではありません。

 

今日の中東には2つの主要な障害があります。

湾岸諸国とイスラエルをイランと戦わせようとする人がいます。

もう1つは、イスラム主義者に同情的なトルコやカタールなどの国々と、そうでないエジプトやUAEの間の対立です。

これらの分裂は、レバント、リビア、イエメンでの紛争を煽りました。

しかし、過去5か月間、長年のライバルたちは外交に乗り出しました。

サウジアラビアとイランは4月に対話を開始しました。

トルコは、2013年にエジプト軍がイスラム教徒主導の政府を打倒した後に悪化したエジプトとの関係を修復しようと努めています。

同じ理由で関係が悪化したカタールとエジプトも、話し合いに戻りました。

エジプトは、しばしばイスラム同胞団に好意的なカタールの衛星テレビネットワークであるアルジャジーラに、クーデター後に閉鎖されたカイロ支局を再開することさえ許可しました。

 

8月28日にバグダッドで開催されたサミットで、エジプト、イラン、カタール、サウジアラビア、トルコなどの当局者が一堂に会しました。

具体的な合意はありませんでしたが、話すという行為自体が画期的でした。

楽観主義者は、これらの会議が地域の破滅的な対立の終結の合図となることを期待しています。

中東は楽観主義者にとって厳しい場所ですが、今回、彼らの希望は完全に見当違いではないかもしれません。

 

1979年以降にこの地域を覆ったサウジアラビアとイランの確執は、過去4年間で冷戦状態に落ち着きました。

一部には、海外で影響力を行使することにおけるイランの成功とサウジアラビアの失敗によるものです。

サウジアラビアの皇太子ムハンマド・ビン・サルマンは、権力を把握した当初、一連の外交政策の失敗を犯し、それ以来、石油に縛られた経済の変革に焦点を移しました。

 

独自の積極的な外交政策を追求した後、UAEもデタントを求め始めました。

首都アブダビの当局者は、これは新型コロナの副作用であると述べています。

「それは私たちに理解させました…私たちは母国に帰り、中東でのより広い関与を諦めなければなりませんでした」とUAE外交官は言います。

内省的に聞こえるかもしれませんが、それは事後の正当化です。

UAEは、パンデミックの数か月前の2019年にイエメンから軍隊を撤退させ始めました。

戦争は泥沼になりましたが、リビアでの反イスラム教徒の武将に対するUAEの支援は敗北に終わりました(主にトルコの介入のためです)。

攻撃的な外交政策はほとんど利益をもたらしませんでした。

石油からの迫り来るエネルギー転換の準備がまだ整っていない経済に焦点を当てたほうがよいでしょう。

 

トルコも同様の結論に達しています。

その経済は、19%のインフレ、弱い外国投資、そして長い通貨危機によってダメージを受けてきました。

アメリカ、EU、ギリシャとの紛争は言うまでもなく、地域の確執は役に立ちません。

現金も必要です。

UAEの投資家は期待できます。

リラの切り下げは、外国人がトルコの資産をバーゲン価格で購入することができることを意味します。

 

トルコはまた、エジプトとの正常化も望んでいます。

両国の対立にもかかわらず、二国間の貿易は昨年50億ドル近くに達しました。

エジプトとの問題を修復することはまた、政治的利益ももたらすでしょう。

エジプトは、EU、アメリカ、イスラエルとともに、地中海東岸での掘削権をめぐるトルコとの紛争でギリシャとキプロスを支持しました。

エルドアン政権は、エジプトとの協定がトルコの孤立からの脱却に役立つと考えています。

これは過去の政策に逆行する事になります。

しかし今では、支持すべきイスラム主義者はほとんど残っていません。

エジプトの独裁者であるシシ大統領は、イスラム同胞団を容赦なく解体しました。

イスラム主義者が自由に政権と競争できる国でさえ、彼らの人気は衰えています。

トルコとカタールにとって、エジプトとUAEとの継続的な対立のコストは大きく、得られるものはわずかです。

 

イランとの紛争は解決するのが難しいです。

イランは、アラブ世界での影響力を簡単に手放そうとはしません。

トランプの「最大圧力」キャンペーンにより、イランがペルシャ湾の石油タンカーを妨害し、2019年にサウジアラビアの石油施設に突然の攻撃を仕掛けるためにドローンとミサイルを供給した後、湾岸諸国は自分たちの脆弱性を痛感しました。

当局は、淡水化プラントを狙ったイランのミサイルが、数日以内に湾岸諸国を居住不能にする可能性を心配しています。

 

誰もが何らかの弱点を抱えて、話し合いに参加しています。

湾岸諸国は裕福な一方、もろいですが、イランとトルコは軍事力はありますが、経済は脆弱です。

バグダッドサミットは、参加者が干渉することで悪名高いため、「国の内政に干渉しない」ことを誓約する共同声明で終了しましたが、彼らは突っ込んだ議論を行なったでしょう。

これらは、彼ら自身の権力へのグリップを保護し、彼らの経済を後押しすることに熱心な強権主義者間の話し合いです。

国の平和というよりも、彼ら自身の安全を求めています。

新しい合従連衡を模索する中東各国

アメリカの中東離れが進む中、中東各国は新しい状況に対応すべく、動き始めました。

これまで仮想敵国としていたイスラエルと湾岸諸国の関係修復はそれを象徴する様な出来事ですが、トルコの最近の動きは大変興味深いものがあります。

犬猿の仲だったエジプトとの関係修復には驚かされましたが、湾岸諸国との関係修復も同様です。

この様な政策変更にトルコが動いた理由は、やはり経済がトルコのアキレス腱であるからだと思います。

アゼルバイジャンとアルメニアの紛争やリビアの内戦にトルコは介入し、勝利を納めましたが、経済の低調から政権の支持率は低迷しています。

エルドアン政権としても、このまま経済が低迷すれば、2023年に予定される総選挙での勝利がおぼつかないと判断したのではないかと思われます。

中東諸国はどこも弱点を持っています。

今後もこれまでの常識を覆す合従連衡が見られると思います。

少なくとも中東において、パクスアメリカーナの時代は終了しました。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。