44歳で要職に上り詰めた逸材
バイデン政権の重要閣僚として国家安全保障補佐官に任命されたのがジェイク サリバンです。
先日のアラスカでの米中会議にもブリンケン国務長官と並んで米国代表として出席しており、外交においても非常に重要な役割を担っている様です。
この人、一体どんな経歴の持ち主なのでしょうか。
米誌Foreign Policyが「The Sullivan Model - Jake Sullivan, Biden’s “once-in-a-generation intellect,” is facing a once-in-a-generation challenge.」(サリバンのやり方 -バイデンが「一世代に一人の知性」と呼ぶジェイク・サリバンは、一世代に一度の課題に直面しています。)と題した論文を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy要約
バイデン大統領の国家安全保障担当補佐官であるジェイク・サリバンは、常にディベートを愛してきました。
イェール大学の代表として、彼は全国で3位になりました。
ローズ奨学生だったオックスフォード大学で、彼は世界ディベート選手権で2位になりました。
彼はエイミー・クロブシャー上院議員の顧問として政治の世界に足を踏み入れ、その後、ヒラリー・クリントンとオバマの下で働きました。
サリバンは現在44歳で、この60年で最年少の国家安全保障補佐官です。
バイデンが国家安全保障会議(NSC)を率いる議長としてサリバンを紹介したとき、彼は「一世代に一人の知性」と呼びました。
深く分裂した国が世界での役割を再定義し、戦略的課題、つまり中国の台頭などに取り組む必要がある中、彼は今まさに、一世代に一度の困難な課題に向き合っています。
最初の数週間で、すでに外交問題の山に直面しています。
彼は戦闘的な中国当局者と対峙し、ミャンマーでのクーデター、大規模なロシアのハッキング、そして北朝鮮の弾道ミサイルテストを経験しました。
彼はアフガニスタンからの米軍撤退と、イランとの核交渉を再開する方法にも取り組む必要があります。
進行中のパンデミック、経済的逆風、気候変動、そして彼が就任する2週間前に暴力的な暴動を引き起こした激しい政治的分裂の中で、これらすべてが起こっています。
サリバンの強みについて、クリントンは、彼を「何よりもまず問題解決者であり、知的能力を持っているだけでなく、人々を動かすスキルも持っています。」と評価します。
サリバンは、アメリカの問題解決能力を信じています。
サリバン氏は先月、アラスカで開かれた米中会議で中国の高官が怒りを爆発させたとき、次のように反論しました。
「自信を持っている国は、自国の欠点を認識し、絶えず改善を求めることができます。 そして、それがアメリカの隠れた力なのです。」
驚くべきことに、米国の外交政策の中心にいるサリバンの最大の関心は国内の改革にあります。
たとえば、最近の新型コロナ救済パッケージで、国内投資の欠如は「米国の国家債務よりも国家安全保障への大きな脅威」であるとサリバンは述べました。
同様に、政府が提案した3兆ドルの景気回復パッケージは、再生可能エネルギーや半導体などに投資することで、世界の舞台で競争するアメリカの能力を強化するとしています。
おそらくサリバンにとっての最大の課題は、大統領が「中産階級のための外交政策」と呼ぶものを実現することでしょう。
サリバンと大統領は、中東のテロリストとの戦いであれ、新たな貿易協定の追求であれ、米国の外交政策を国内政策から切り離そうとしているのではなく、この2つを融合させようとしています。
「私たちが外交政策と国家安全保障で行うことはすべて、ある物差しよって測定されます」とサリバンは最近言いました。
「それは働く家族の生活をより良く、より安全にするだろうか?というものです。」
戦略は目的とリソースのマッチングであり、バイデンは、中産階級を引き上げ、世界経済と地政学の分野で中国を凌駕し、不可欠な国としてのアメリカの役割を維持するという目標を目指して努力しているようです。
バイデンとサリバンは、米国があらゆる問題を解決しようとする冒険的な外交政策に対する米国国民の関心がほとんどないことを認識しています。
サリバンは彼の世界観がミネアポリスで形成されたと主張し、そこで彼は公立学校に通い、アイルランド系のカトリックの家族で育ちました。
彼の両親(二人とも教育者)は、台所のテーブルの真ん中に地球儀を置き、そこでサリバンと彼の4人の兄弟に世界政治について話しました。
大学卒業後、サリバンは、ワシントンのトップ法律事務所での高額の給与を断って、ミネソタ州に帰国し、30歳で、クロブシャー上院議員の顧問となりました。
「彼は頭がいいが信じられないほど謙虚です」とクロブシャーは私に語りました。 その後、彼はクリントン国務長官の下で、副首席補佐官として働き始めました。
2012年7月、クリントンが国務省のパリへの旅行中に、サリバンはオマーンでイランの当局者に会いました。
これは2015年イランとの核合意のきっかけとなった秘密会議の最初のものです。
国務省に在籍していた時、サリバンは、後に国家安全保障補佐官として役立つと思われるいくつかのスキルを磨いていました。
クリントンは非常に多くの出張をしたので、彼女の側近はしばしばサリバンに頼らなければなりませんでした。
「サリバンの注目すべき点は、彼が上司の意見を完璧に部下に伝える事ができるだけでなく、上司よりもうまくできるということです。」
国務省では、クリントンとサリバンは、外交政策の重要な推進力として、「経済的力」(商業外交、雇用創出、海外投資など)を強調しました。
ニューヨーク経済クラブでの2011年の演説で、クリントンはアメリカの経済力とその世界的リーダーシップを「表裏一体」と呼びました。
しかし、彼が政府を去った後、サリバンは、彼らの崇高な経済的ビジョンがアメリカ人の生活から解離している事に気付きました。
環太平洋パートナーシップ(TPP)を考えてみてください。
サリバンは、この貿易協定が中国に対抗し、アジアに米国の経済的基盤を築くために不可欠であると考えました。
時が経つにつれて、彼は、この取引は米国企業に機会を提供するかもしれないが、米国の労働者への潜在的な悪影響を無視していると信じるようになりました。
2016年の大統領選挙は、サリバンの政治的進化にとって重要でした。
彼はクリントンのキャンペーンに参加しました。
予備選挙でのクリントンの主要なライバルであるサンダース上院議員は、アメリカ人の大部分と政府との間にある断絶を主張しました。
「私は彼の政策に常に同意したわけではありませんが、彼がアメリカの構造的な不平等の影響を認識していることについて疑問の余地はありません」とサリバンはサンダースについて述べました。
サンダースがレースから脱落すると、クリントンはトランプという新しい敵に直面しました。
トランプは、同じ絶望と怒りをこめたポピュリストメッセージを発信しました。
サリバンは、トランプが「価値観を失っている」が、多くのアメリカ人の経済的繁栄と外交政策を関連づける事に長けていることを発見しました。
大統領選で敗れた後、2017年、カーネギー研究所が企画した超党派のタスクフォースに彼は参加しました。
「米国の外交政策を中産階級のために」と題されたタスクフォースの報告書は、グローバリゼーションは働くアメリカ人に利益をもたらさなかったと主張し、中産階級に利益をもたらすための一連の新しい外交政策を推奨しました。
この報告書は、アメリカの伝統的な外交政策の原則を見直すために役立ちました。
国家安全保障担当補佐官の仕事は、本質的に、毎日生ずる問題に実際的な選択肢を提供する事です。
トランプの下で、このプロセス全体が脱線しました。
彼は下から上がってくる意見を無視し、ツイートで国策を繰り返し変更しました。
サリバンは、外交政策の意思決定プロセスの「規則性と厳格さ」を取り戻そうとしています。
サリバンはまた、前政権の下で無視されていた国境を越えた脅威に対処するためにNSCを更新しています。
サイバーセキュリティを重視し、先端技術に関する部門を創設し、トランプ時代に解散された世界の健康と気候に関するオバマ時代の取組を再構築します 。
民主主義、汚職問題もまた、国内の過激主義の増大する脅威と戦う必要性と同様に、新たな重要性を帯びています。
ボルトンはバイデンに同意していませんが、バイデンの当選が「正常な状態への復帰を可能にしている」ことを認めています。
「正しいアプローチが何であるかについて少しも考えていない大統領よりも、あなたが目指すべきものを理解している大統領がいる時、首尾一貫した持続的な政策を行うことは、はるかに簡単です。」と彼は言いました。
オバマの側近がバイデン政権に沢山復帰していますが、政策は大きく異なります。
世界とその中でのアメリカの役割は、過去4年間で変化しました。
サリバンは過去に戻ることはできません。
彼は外国の外交官との初期の会合で、「私たちはトランプではありませんが、オバマでもありません」と彼らに言いました。
トランプの「Make America Great Again」政策は、同盟に疑問を投げかけ、権威主義的な外国のリーダーを容認し、米国のリーダーシップを負担または交渉の材料と見なしました。
バイデン(およびサリバン)にとって、同盟は力の源であり、米国のリーダーシップは、脅威をアメリカの海岸から遠ざけるためのお得なやり方です。
「アメリカが団結する事が鍵になるだろう」とサリバンは語りました。
「世界はワクチンとアメリカの救済計画を見守っています、
そして今のところ彼らはアメリカの回復力に大いに感銘を受けています。
しかし、大きな課題は、私たちが一つになれるかです。
バイデン大統領はそれができると信じており、彼はそれを実現する為にふさわしい人物です。」
最高の知性が問題を解決できるか
この論文を読むと、確かに「一世代に一人の知性」と呼ぶだけの能力の持ち主の様です。
しかも、才に溺れる事なく、人使いもうまい有能なリーダーとしての横顔が浮かび上がってきます。
先日のアラスカでの米中会談で、ブリンケン国務長官が「我々も間違いを犯す事がある」と謙虚に自らの過ちを認めた姿勢を示した事は知られていますが、同じ会議でサリバンは「自信を持っている国は、自国の欠点を認識し、絶えず改善を求めることができます。 そして、それがアメリカの隠れた力なです。」と発言した様です。
米国を代表した二人が揃って、自国の問題を認め、それを改善する事が米国の力であると考えている点は注目に値します。
一方、サリバンの外交政策において、米国の中産階級にとって得か否かというのが最重要の基準になっている点は、気になる点です。
米国の大多数の国民にとって、遠く離れた外国で起きている問題は重要ではありません。
米国の外交政策が、ますます内向的になっていく危険性をはらんでいます。
TPPの様な多国間貿易に関する取り決めが、米国の労働者の職を奪う可能性があるという理由だけで否定されるのはいかがなものかと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。