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高級官僚養成校ENAを廃止に追いこんだ卒業生マクロン大統領

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フランスエリート校の終焉

フランスのマクロン大統領は4月8日、国立行政学院(ENA)の廃止を発表しました。

この学校は高級官僚を要請するため、1945年にドゴール大統領によって設立された学校で、一学年80名という少数精鋭の教育を行い、歴代の大統領、大臣の多くを輩出してきました。

しかし、2018年にフランスの大衆が継続的にストライキを行った「黄色いベスト運動」の高まりの中で、エリート批判の象徴としてENAが槍玉にあがり、マクロン大統領は自らの出身校であるENA廃止の方針を発表しました。

8日の発表はこれを再確認したものです。

この仏政府方針に対して英誌Economistが「Why Emmanuel Macron wants to abolish ENA, France’s most elite college - France's elite is tiny and incestious」(マクロンがフランスで最もエリートな学校であるENAを廃止したい理由 - フランスのエリートは少なく近親相姦です)

Economist記事要約

15年前のこの春、フランスのエリート校である国立行政学院(ENA)で卒業式が行われました。

そこでの2年間の勉強の先には、フランスの権力中枢での、輝かしいキャリアの保証がありました。

しかし、そこで壇上に上がった卒業生首席は校長に対して、生徒たちによって書かれた「ENA:改革の緊急性」と題された20ページのレポートを手渡しました。

その署名者の中には、卒業生の一人、エマニュエル・マクロンがいました。

学生による反抗は、その後大統領による改革になりました。

2018年、「黄色いベスト運動」のエリートに対する怒りに応えて、マクロン氏はENAの廃止を発表しました。

それは彼の数ヶ月にわたる「偉大な全国的議論」の中で最も物議を醸した課題でした。

マクロン氏はポピュリストの要求に屈し、彼自身の母校と現代フランスの象徴の両方をギロチン送りにしました。

 

すべての国が統治エリートを選別します。

戦後のアメリカ大統領13人のうち6人は、ハーバード大学かエール大学のどちらかを卒業しました。

戦後の英国首相14人のうち10人がオックスフォードを卒業しました。

しかし、フランスは更に極端です。

一学年はたった80人ですが(ハーバード大学では約2,000人、オックスフォード大学では約3,000人)、ENAはマクロン氏を含む8人の第5共和政大統領のうち4人、22人の首相のうち8人を供給しました。

今日、ENAの卒業生は、フランス中央銀行、財務省、大統領府、共和党、外部諜報機関、憲法評議会、国鉄、そしてフランスのトップ民間企業の多くに君臨しています。

 

シャルル・ド・ゴールが1945年に第二次世界大戦のはいを設立したとき、レジスタンスの指導者は戦前の時代遅れのシステムに代る実力主義的な解決法を求めました。

彼の回想録の中で、彼の狙いは「国家官僚の採用と訓練を合理的かつ均質にすること」であったと書いています。

ENAは戦後30年間の繁栄と計画された産業の成長をもたらしました。

 

しかし、今日の冷酷なポピュリズムの中で、エリートの概念そのものがフランス中で非難されています。

献身的な公務員として賞賛されるどころか、ENA卒業者は、一般の人々の生活を知らない、統治階級の傲慢さを象徴するようになりました。

結局のところ、パリの無料賃貸自転車地区から遠く離れた自動車に依存せざるを得ない人々が、燃料税の引き上げに対して、「黄色いベスト運動」を引き起こしたのです。

解決策の1つは、「ENA出身者を取り除く事」でした。

もちろん、現実はマクロン氏が公に説明しているよりも複雑です。

大統領は、批判を受けているENAを閉鎖したとしても、フランスが依然としてトップのエリート大学を必要としていることを認識しています。

彼はまた、問題が学校自体の概念ではなく、学校の選抜方法であることも知っています。

何年にもわたって、受験準備する必要があるため、 1985年以降の四半世紀で、父親がブルーカラー労働者であった学校の生徒の割合は10%から6%に減少しました。

 

この特権的な学校は、最高の官僚ポストを独占します。

その中で最も権威のあるのは財政監査総局です(マクロン氏も勤務しました)。

卒業生は、中華帝国のように、卒業時の席次に応じて、一定の場所にいることが保証されています。

確かに、このシステムはそこで過ごした時間を、反省や創造性の機会ではなく、席次をめぐる競争に変えます。

また、学校の少ない学生数は、非常に緊密な卒業生のネットワークを形成し、メンバーによるカーストのような行動を煽っています。

ENA卒業生は信頼しあい、相手を採用し、さらにはお互いに結婚します。

 

マクロン氏は、彼自身の卒業経験を持って、これらすべての問題を認識しています。

しかし、彼は危険な道を歩んでいます。

ENAには欠陥があり、競争相手がありませんが、フランスで公共サービスの深い文化を創造するのに貢献してきました。

マクロン氏の真の課題は、エリート機関に対する周囲の不満に同意するだけではなく、生まれ変わったENAが真っ当な学校になる事を確実にすることです。

そうでなければ、その廃止は自滅的なポピュリストのジェスチャーになります。

いかに高級官僚を要請するか

フランスの大学システムはかなり他国と違います。

大学入学資格試験であるバカロレアを通ると、パリ大学など国立大学に合格する事ができます(私立大学はほとんどありません)。

しかしこれらの大学は本当のエリートではありません。

エリートはグランドゼコールと呼ばれる一握りの学校に行きます。

その入学試験はバカロレアなどより遥かに難しく、プレパラトワールと呼ばれる準備学校にいかなければ合格は難しいと言われています。

しかし、グランドゼコールを卒業すれば、明るい未来が約束されます。

これら学校の卒業生は同窓会の結びつきが強く、彼らの机の引き出しには必ず卒業生名簿が入っていると言われており、名刺に卒業校の名前を書くのもフランスのグランゼコール卒業生の特徴です。

そんなグランドゼコールの頂点に位置するのが、今回ご紹介したENAです。

一学年80名という学生の少なさも特筆ものですが、卒業後、官庁に就職すれば、20代半ばで主要官庁の幹部になると言われています。

民間企業からも引く手あまたで、フランス人が「バラシュート」と呼ぶ天下りで経営者となっていきます。

しかし、日本の高級官僚が戦後の経済成長を支えた後に存在価値を問われているのと同じ様に、ENA卒業生も同様の問題に直面している様です。

高度成長が望めない先進国では、天下り先も限られ、以前の様に高級官僚の志望者は多くありません。

今後、フランスがどの様に高級官僚を養成していくかは、日本を含め先進国の一つのモデルになるものと思われます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。