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米露首脳会談における両国の思惑とは

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米露の同床異夢

米露の首脳会談がジュネーブで16日行われました。

プーチン大統領のことを一時は「殺人者」とまでこきおろしたバイデン大統領が首脳会談を行うことを決断した理由は何なのでしょうか。

両国の思惑について、英誌Economistが「America and Russia return to traditional great-power diplomacy 」(アメリカとロシアは伝統的な大国外交に復帰 )と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

英誌Economist記事要約

アイゼンハワー大統領がフルシチョフ総書記と、米ソの最初の首脳会談を行なった1955年にジョー バイデンは12歳でした。

レーガン大統領が同じ都市で初めてゴルバチョフ総書記と面談した時、彼は軍備管理に取り組んでいた42歳の上院議員であり、冷戦を終わらせるための第一歩を踏み出しました。

 

6月16日、バイデン氏は、冷戦後の秩序の成果の多くを損ねたロシアの指導者、プーチン氏と面談しました。

しかし、 それは、世界の運命を手中にする超大国間の首脳会談ではありませんでした。

また、バラク オバマが試みたように、関係をもう一度リセットしようとする試みでもありませんでした。

むしろそれは少し地味な内容でした。

会議の目的は、レッドライン(注:相互に超えてはならない境界線)を確認し、交戦規定を明確にする事により、進行中の対立を管理することでした。

唯一の具体的な合意は、核交渉の新たなラウンドを開始し、大使を彼らのポストに戻すことでした。

これらはどちらも地味ですが、確実な前進です。

この外交への復帰に関係者が安堵のため息をついたという事実は、ロシアがクリミアを併合し、2014年にウクライナで戦争を開始して以来、関係がいかに困難になったかを物語っています。

 

今回の首脳会談は、トランプ氏とプーチン氏の関係からの離脱でした。

アメリカの外交官は、トランプ氏がプーチン氏を信用しない理由はないと述べたヘルシンキでの記者会見を思い出す度に身震いします。

今回は共同記者会見はありませんでしたが、18世紀に建てられた別荘で4時間協議した後、プーチン氏とバイデン氏は、相手がどこに立っているかを認識しました。

重要なインフラへのサイバー攻撃は絶対に許されない行為であり、ウクライナとベラルーシをめぐる紛争は軍事的手段によって解決されるべきではありません。

投獄された野党指導者であるアレクセイ・ナワルニーを殺害することは深刻な結果をもたらすでしょうが、人権侵害の問題は残念なことに安全保障とは別に扱われるでしょう。

冷戦の用語であるデタントにヒントが隠されています。

 

バイデン氏は、主にロシアではなく中国を標的としていますが、「民主主義と独裁政治の間の戦い」という言葉で、プーチン氏との会談をG7とNATO内の新たな団結の文脈に置きました。

彼は、自分がトランプ氏とどれほど違うかを強調しようとしていました。

彼の狙いは、アメリカとロシアの関係に「予測可能性と安定性を回復させる」事であり、敵対的であったとしても職人的な関係を維持していたソ連時代の様な関係を作ることです。

問題は、ジュネーブで彼の向かいに座っていた男がソビエトスタイルのリーダーではなかったということでした。

 

プーチン氏はむしろ、ソビエト崩壊の産物です。

彼は、暴力的な治安機関が支配する政権を主宰しています。

それはイデオロギーよりも富を重視する政権であり、ロシア国民の利益は言うまでもなく、アメリカとの世界的な競争なんてことよりも、自らの政権存続に夢中です。

彼らは近隣諸国に侵入し、敵を毒殺し、そして西側に対してサイバーおよび情報戦を繰り広げてきました。

プーチン氏は、彼の仲間にその資源を略奪することを許可しながら、ロシアの偉大さを回復することについて話します。

 

危険なのは、バイデン氏のタフな言葉が、行動によって裏打ちされない可能性です。

 

ナワルニー氏がロシアへ帰国後すぐに投獄されたのとほぼ同時期にバイデン氏は大統領に就任しましたが、それから2か月後の3月、バイデン氏はプーチン氏を殺人者と呼びました。

プーチン氏は不気味に笑い、バイデン氏にビデオ会議で対話することを提案しました。

ホワイトハウスは大統領はその週末は他にやる事があるとこの提案を断りました

 

数週間後、プーチン氏はウクライナの東の国境に大規模な軍隊を集めました。

同時に、彼はナワルニー氏の運動を粉砕し、異議を唱えるロシアの反体制派を一掃するために、国内の治安機関を動かしました。

一部の反体制派は国を逃れました。

プーチン氏は、独立したメディアを「外国のスパイ」と名付けて窒息させ、広告主を脅迫しました。

ロシアのスパイはプーチン氏を批判したアメリカの人権団体とシンクタンクにハッキングを仕掛けました。

 

ロシア軍のウクライナへの圧力はバイデン氏の注目を集め、彼はプーチン大統領に首脳会談を提案しました。

 

その後、バイデン氏はプーチン氏に別の勝利をもたらしました。

ロシアとドイツを結ぶノルドストリーム2天然ガスパイプラインの関連企業の1つに対する制裁を放棄したのです。

バイデン氏は、これをロシアではなくドイツと現実への譲歩としています。(パイプラインは90%完了しています)

それでも、プーチン氏とウクライナのゼレンスキー大統領は、それがロシアにとって大きな勝利であると捉えました。

 

バイデン氏が中国とのより差し迫った争いに集中できるようにロシアとの緊張を和らげる必要がある一方で、プーチン氏は反対派を抑圧し、帝国を再建するというより緊急の仕事に集中できるように、アメリカとのある種のデタントを必要とします。

「過去数年間で、クレムリンは、国内での支配に対するリスクを排除すると同時に、コストのかかる西側との戦いはできないという結論に達したようです」と、シンクタンクであるAffairs Councilのロシア国際部長のコルツノフ氏は述べています。

 

プーチン氏は、アメリカとその価値観を実存的脅威と見なしています。

「プーチンがバイデン氏の要望を全て受け入れ、アメリカとの紛争を緩和し、すべての政治犯を解放し、クリミアとドンバスから撤退し、他の重要な点で西側に譲歩した場合、それは体制の崩壊をもたらすでしょう。」と、カーネギーモスクワセンターの所長であるトレーニン氏は述べています。

 

少なくとも今のところ、プーチン氏の作戦は報われたようです。

核合意の進展と大使の復帰は、ならずもの政権に正当性を与えます。

サミットがプーチン氏の政権の危険性を軽減するかどうかはまだ分かりません。

トランプ氏の下で国家安全保障会議に参加したフィオナヒル氏は、 「私たちは、言葉だけでなく、行動を起こす準備ができていることを示さなければなりません。そうでなければ、単にロシアにつけ込む隙を与えているだけです。」と主張します。

デタントを選択せざるを得なかった米政権

デタントという言葉久しぶりに聞きましたね。

これは冷戦時代、米ソが核戦争の防止に共通利益を見出し、相互の勢力範囲を尊重する様になった事を指す言葉ですが、今回の首脳会談で双方が狙ったのもまさに米ソ時代のデタントの復活かも知れません。

米ソのデタントが実現した真の理由は、ソ連の農業政策の失敗により、ソ連が米国から大量の穀物を輸入する必要が出てきた事だと言われています。(ソ連が崩壊した理由もレーガン大統領がソ連への穀物輸出を制限したからと言われています。)

今回、米国がロシアとデタントに至った理由は、穀物は関係ありません。米国はもはや中露を相手にして二方面作戦はできかねるということなのだと思います。

しかし、Economistが指摘する様に、プーチン氏がソ連のDNAを引き継いだ指導者でない場合、バイデン氏の思惑は外れるかも知れません。

プーチン氏は極め付きの現実主義者です。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。