海外メディアの厳しい評価
日本の総裁選の結果について、欧米のメディアも記事を掲載していますが、勝利を収めた岸田新総裁に関して辛めの論調がほとんどです。
その理由は、世論調査で河野候補が大きくリードしたにもかかわらず、派閥の論理で凡庸な岸田氏に決まってしまったと言うものが多い様ですが、今日は英誌Economistの「Japan deserves better than an inoffensive prime minister」(日本の首相には誰も攻撃しない人物よりましな政治家がふさわしい)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
「最悪のシナリオを回避した」と、岸田文雄氏が日本の与党の総裁に選出された後、ツイッターでトレンドのハッシュタグが追加されました。
右派にとって、「最悪のシナリオ」は、選挙の第1ラウンドで最も多くの党員票を獲得した独立志向の河野太郎でした。
右派は彼をあまりにもリベラルで、自由民主党を率いることができないと見ています。
一方、リベラル派も安心しました。
彼らにとって最悪のシナリオは、ナショナリストの高市早苗でした。
岸田氏を勝利へと駆り立てた理由は、彼が攻撃的ではないからのようです。
彼の勝利は、現状維持を重要視する党の実力者によって設計されました。
彼がボートを揺さぶる可能性は低く、波を立てる可能性も同じです。
そもそも現状維持は自民党総裁選の基本路線でした。
昨年、前任の安倍晋三氏が体調不良で辞任した後、菅義偉首相は無難な選択肢と思われました。
しかし、彼の魅力の欠如は言うまでもなく、人気のない新型コロナ対策は、日本国民を失望させました。
菅氏は11月に行われる衆議院選挙で屈辱的な議席喪失の可能性に直面し、9月3日に辞任しました。
彼の代わりは、少し若返るにしても、無難な候補が選ばれます。
岸田氏が指揮を執れば、自民党は選挙で苦しむ可能性がありますが、彼らの被る損害はより小さくなるでしょう。
自民党はそれを勝利と見なします。
それは間違いです。
日本は、ポピュリズムや極端な二極化など、民主主義先進国の最悪の病状のいくつかを回避してきました。
それでも、与党の密室取引は民主主義にとって悪い兆候です。
野党は混乱しているので、自民党が来たる選挙で権力を失う可能性は非常に低いです。
そのため、党内選挙は国政選挙のほぼ代替となります。
しかし、第2ラウンドで、大部分の議員が派閥の意向に沿って選択するプロセスは、有権者は言うまでもなく、党の一般党員を政治から遠ざけたままにします。
総選挙の投票率は2009年の69%から2017年には54%未満に低下しました。
岸田氏を選んだ戦略は、国民の幻滅を深めるだけです。
誰が日本をリードするかは重要です。
人口1億2600万人、世界第3位の経済大国です。
インド太平洋で中国のカウンターウェイトとして形成されたセキュリティグループであるクワッドとG7のメンバーです。
米国の不在下で自由貿易を擁護し、現在、中国と台湾の両方が参加を申請している貿易協定であるCPTPP(TPPの改訂版)の議長を務めています。
しかし、強力な首相がいなければ、日本が世界の舞台で指導的役割を果たすことは難しいでしょう。
今週の投票は、日本の将来にとってひどいものです。
国は安定し、平和で繁栄しています。
しかし、それは他の民主主義先進国よりもさらに速く老化しています。
その労働力は縮小しています。
その年金と医療費は膨れ上がっています。
新しいリーダーは、生産性の向上から職場を女性に開放する事まで、これらの問題に対処するための大胆なアイデアを必要としています。
彼はまた、そのようなアイデアを国民に受け入れさせるカリスマ性を必要としています。
彼は、菅氏の2つの政策、つまり国の時代遅れの官僚機構を見直し、2050年までに排出量ゼロの目標を達成するための現実的な計画を立てるという難しい選択をする必要があります。
自民党のさまざまな派閥に受け入れられる妥協案の候補者である岸田氏は、彼がそれをやれると言うことを示唆するものはほとんどありません。
人口動態や社会の変化のペースを考えると、日本は単に混乱する政府を維持する余裕はありません。
もちろん岸田氏は、今後批評家を驚かせるかもしれません。
しかし、彼は記憶に残らない首相の長いリストに加わる可能性が高いと思われます。
それは選挙の最悪の結果ではありません。
しかし、日本はもっと良いものを目指すことができ、そして目指すべきです。
乾坤一擲の一手を見せた岸田さん
前回の総裁選で菅氏に敗れた後、「もう岸田は終わった」との声が上がりました。
優しそうな風貌の2世議員の岸田氏は決断力がないとか実行力が無いと言われます。
しかし、筆者は岸田氏には決断力はあると思っています。
彼は今回の総裁選に最初に手を挙げました。
当時は菅首相の再選がほぼ既定路線でした。
それだけでも大変勇気のある行為ですが、更に彼は「党三役の任期一年、最長三期まで」という方針を打ち出しました。
これは党の最高権力者である二階幹事長に「あんたはもう終わりだよ」と言っている様なものです。
決断力のない人にこんな真似は出来ません。
今振り返ってみると、この発言は二階幹事長に反発する勢力と党の若返りを望む多くの若手議員を覚醒させました。
確かに岸田氏にはカリスマ性が感じられませんし、スピーチも原稿読みが多く迫力に欠けています。
しかし、彼が主張する通り岸田氏には優れたブレインが周りにいます。
新自由主義経済からの脱却等彼の打ち出した政策はしっかり準備されたものが多く、年金の財源や原子力廃棄物の処理でつまづいた河野氏とは対照的でした。
自分の能力の欠けている部分をチームで補うのが岸田氏のやり方なのでしょう。
Economist誌が言う様に、現在の日本は待ったなしの状態です。安全保障、経済、年金、エネルギー、子育てと全て大きな改革が必要な時期に来ています。
岸田新首相が派閥の論理で何もできない首相で終わるか、コンセンサスを取りながらも、改革を実行していくか、彼の行動に注目してみたいと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。