最後のフロンティアの暗転
ミャンマーは一時東南アジアに残された最後のフロンティアと言われて、日本企業が大挙して押しかけた有望市場でした。
そんなに昔の話ではありません。
長く軍政が続いたミャンマーに政治革命が訪れたのが2011年ですから、つい10年前の話です。
しかし、民主化の動きは軍が起こしたクーデターによって暗転しました。
多くの日本企業は駐在員の引き上げなど事業の縮小に追われています。
一番被害が大きいのは大型の投資を行った日本企業で、今日の日経新聞にも軍に繋がりのある企業と合弁会社を組んだキリンビールが合弁相手と訴訟沙汰になっている事が明らかにされていました。
クーデターによる国民への弾圧を理由に、国際社会が制裁を与えているミャンマーですが、中国は着々とその影響力を増している様です。
中国の政府系報道機関環球時報が「Myanmar to include yuan in settlement currency for border trade with China」(ミャンマーは中国との国境貿易のために人民元を決済通貨として認可)と題する記事を掲載しました
かいつまんでご紹介したいと思います。
環球時報記事要約
ミャンマーは中国との国境貿易の公式決済通貨に人民元を認める予定であり、試験段階での目標決済規模は約20億元(3億1400万ドル)に設定されています。
情報筋によると、この動きは、不安定な政治情勢の中で経済崩壊に陥った後、ミャンマーが現在直面している米ドルやその他の外貨調達の危機に対処することを目的としています。
中国のミャンマーとの急成長する貿易において、ミャンマーの銀行が人民元にアクセスできる事は、その財政難を緩和するのに役立ちます。
アナリストらは、米国のドルを使ったいじめが、一方的な制裁を課すのに大いに役立っているため、これは、元の国際化を推進し、米ドルの覇権に対抗するための近隣諸国との中国の共同努力における重要な一歩でもあると評価している。
貿易決済における元の使用は、人々が「小さな貿易」と呼ぶ小さな商品や日用品の取引に焦点を当てて、初期段階で国境貿易を試験的に行うでしょう。
匿名の情報筋は、「将来的には、元の使用拡大は、私たちが『ビッグトレード』と呼んでいるものをカバーするように拡大するだろう。」と述べています。
ミャンマー中央銀行と中国大使館職員が参加する予定の公式式典が2022年1月1日に開催される予定です。
「これは、インフレの上昇、失業、経済の停滞に苦しんでいるミャンマーの人々にとって、助けになる手段です。少なくとも部分的に彼らの生計を助けます。」と、中国の金融専門家は環球時報に語りました。
人民元は2019年1月にミャンマーの公式決済通貨に含まれていました。
しかし、業界関係者によれば、すべての契約と貿易が依然としてドルまたはミャンマーチャットで決済されていたため、当時のこの動きはより象徴的なものでした。
専門家は、長期的には、ミャンマーの外貨準備におけるドルの独占も解決すると述べました。
アナリストらによると、米国はドルの支配的地位を悪用して他国に制裁を課すことで有名であり、ミャンマーの貿易決済における人民元のさらなる拡大はこれらの問題に対処する可能性があるとしています。
ドルの覇権は脅かされるか
第二次世界大戦後、基軸通貨はポンドからドルに代わり、その後一貫してドルが基軸通貨としての地位を保っています。
これに続くのはユーロですが、為替市場での使用率はドルの4割強に対して、ユーロは2割弱と大きな隔たりがあります。
中国の元に至っては2%程度で現時点では全く相手になりません。
基軸通貨を発行する国は様々なメリットを持ちますが、何と言っても自国通貨を取引に使えますので、為替リスクがないのが最大の利点でしょう。
それと共に、多くの国がドルを決済手段に使えば、制裁をかけやすく、国際的な政治力、外交力の強化に繋がります。
一見、米国と関係なさそうなイランが米国の制裁に悩むのは、貿易取引の決済がドルが一般的だからです。
米国がその気になれば、イランの原油販売にドルを使わせない事も可能であり、イランの首根っこを抑える事ができるのです。
今は、ドルの足元にも及びませんが、中国政府が将来的に狙っているのは、この基軸通貨としてのドルの地位を脅かす事だと思います。
ミャンマーでやっていることはその一環だと思います。
しかし、市民に銃を向ける様な政府を金融面で支援する事は、国際社会の批判を浴びることになります。
強権主義の政府に甘い中国ですが、ミャンマーの市民がこれをどういうふうに評価するのでしょうか。
最後まで読んで頂き、有難うございました。