全国に暴動拡がる
カザフスタンという国をご存知でしょうか。
1991年に旧ソ連から独立した中央アジアの国々の一つですが、国土は日本の7倍もあります。
天然資源に恵まれ、独立後も中央アジアの中で最も経済的に発展した国です。
私も仕事で何度も足を向けましたが、記憶に残っているのは冬の寒さでした。
彼らが新しい首都に定めたヌルスルタン(2019年まではアスタナと呼ばれていました。)はシベリアの一部と言っても良い地域で冬の寒さは格別です。
昔シベリアに抑留された日本軍兵士は今のカザフスタンの鉱山でも働かされたと聞きますが、冬の労働は苛酷を極めたと思います。
そんなカザフスタンで、暴動が生じた様です。
この暴動に関して英誌Economistが「Kazakhstan’s president vows to cling on despite nationwide protests」(全国に広がる抗議活動にも拘らず政権に固執するカザフスタン大統領)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
カザフスタン政府が3年前に液化石油ガス(LPG)への補助金を廃止することを決議した時、その決定はほとんど注目を集めませんでした。
国の指導者たちは、この決定が、体制そのものを脅かすとは予想できませんでした。
当局は、非効率なセクターへの補助金を廃止せざるを得なかったと説明しました。
しかし 燃料生産者は、赤字で売らざるを得ない状況下、供給を増やすインセンティブを持っていませんでした。
1月1日、市場に委ねられたLPG価格は急騰し、 車の燃料として使用する燃料のコストは、昨年末から倍増しました。
石油が豊富な西部ジャナオゼンですぐに抗議行動が起こり、瞬く間に国中に広がりました。
そして要求は燃料価格に止まらず、政権交代へと拡大しました。
1月5日までに、抗議者たちは最大の都市であるアルマトイの建物を襲撃し、空港を一時的に占領しました。
大統領は首相を解任し、非常事態を宣言しました。
中央アジアの中では安定していると定評のあったカザフスタンでは、大規模な抗議行動はめったにありませんでした。
これは主に、国の権威主義的な統治者が抗議活動を厳しく取り締まっているためです。
従って、今回の抗議活動の広がりは驚きです。
莫大な石油の富は国民の生活水準を改善させませんでした。
インフレや失業率の上昇など、より広範な経済的不満は高まり、その後、「老いぼれ」の叫び声に変わりました。
「老いぼれ」は、ソ連が崩壊したときにカザフスタンを独立に導き、現在は長老政治家として君臨する、八十代の元大統領であるナザルバエフ氏を指します。
彼は自ら選んだ後継者であるトカエフ大統領と協力して統治しています。
一部の抗議者は、ナザルバエフ氏が国家の指導者としての地位を剥奪されることを望んでいます。
彼には、訴追からの免責を含む幅広い権限と特権が与えられています。
支配層の傲慢さが露出したきらびやかな首都ヌルスルタンは前大統領にちなんで名付けられました。
ナザルバエフ氏の一族郎党が天然資源からの収入を懐に入れる一方で、市民は高い生活費とわずかな賃金に苦しみ、長い間静かな不満がありました。
平均給与は年間7,000ドル未満です。
産業の多様化を政府が公約したにもかかわらず、経済は天然資源に大きく依存しています。
「老いぼれ」は、ナザルバエフ氏だけでなく、政府全体を対象として、より広い意味を帯びています。
2019年に大統領に就任したトカエフ氏は、民主的な改革を唱え、彼が「耳を傾ける国家」と呼ぶものを作ることを約束しましたが、変化をもたらすことができませんでした。
市民の自由に対する厳しい制限が残っており、野党は存在しません。
抗議者たちは、政府を追認するだけの議会を非難し、現在政府が任命している地方自治体の指導者を選挙で選ぶ様求めています。
ロシア政府も心配して見守っています。
プーチン大統領に近いコメンテーターは、西側がカザフスタンで革命を促進しようとしていると示唆しています。
この計画の目的は、ロシアがウクライナ問題でNATOと話し合う準備をしている時に、ロシアを不安定にする事だとしています。
1月5日遅く、ロシアを含めた旧ソ連6か国の軍事同盟である集団安全保障条約機構は、平和維持軍を介入させると述べました。
これは、1994年の結成以来初めてのことです。
トカエフ氏は内部の挑発者、外部の扇動を今回の暴動の理由としました。
1月5日のテレビ演説で、彼は「何が起こっても、私は首都に留まる」と述べました。
しかし、その発言が国民が聞きたい内容であったかどうかは不明です。
トカエフ氏の言う「耳を傾ける国家」は難聴である事が判明しました。
市場主義経済は万能か
カザフスタンはこれまで中央アジアの国々の中では、最も経済成長し、政府も安定していると見られていました。
それだけに今回の全国に広がった抗議活動は驚きです。
この国は石油資源に恵まれていましたので、外資特に欧米のオイルメジャーが油田開発に巨額の投資を行いました。
当時のナザルバエフ大統領は外国資本に門戸を開き、市場経済の導入を中央アジアの中で最も積極的に進めました。
中央アジアの優等生と言われた国でしたが、問題はどこにあったのでしょうか。
社会主義経済の国であったカザフスタンの様な国に一気に資本主義、市場経済を導入すると、極端な貧富の差が生じがちです。
カザフスタンも例外ではありませんでした。
大統領の取り巻きは大金持ちになる一方で、国民はインフレや失業に喘いでいる訳です。
西側の国なら経済がダメになれば、政権交代もありえますが、野党も存在しないカザフスタンではそれも望めません。
同じ様に急激な市場経済導入を経験したロシアの国民も、旧ソ連時代の生活の方が良かったという人が多い様ですので、政権交代が可能な体制が整わない中で、市場経済を導入するのは無理がある様です。
西側もそろそろ気づかないといけないと思います。
Economistなど欧米のメディアは、今回のカザフの抗議活動から国民が欧米の様なシステムを望んでいると理解している様ですが、実際、カザフスタンの国民が望んでいるのは、旧ソ連時代の様な、「皆が貧しいが、配給品でなんとか暮らしていける社会」かも知れません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。