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ウクライナ戦争がもたらすもの - ドイツ経済の凋落

暗雲垂れ込めるドイツ経済

ウクライナ戦争がもたらしたものの一つとして、エネルギー価格の暴騰があります。

ロシアがEUを相手に仕掛けたガス供給の削減は、欧州のエネルギー市場を大きく揺さぶりました。

このガスをめぐる戦いで最も大きな影響を受けたのは、欧州最大の工業国ドイツです。

これまでドイツは安価なロシアのガスと急成長する中国市場に依存して経済発展を遂げてきましたが、ここにきて暗雲が立ち込めてきている様です。

英誌Economistが「Germany faces a looming threat of deindustrialisation」(脱工業化の脅威に直面するドイツ)と題した記事を掲載しました。かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

1945 年に出版された「Germany Is Our Problem (ドイツは私たちの問題です)」というタイトルの本で、アメリカの財務長官であるヘンリー モーゲンソーは、戦後のドイツから産業を排除し、農業経済に変える案を提示しました。

彼の急進的な提案は、ヒトラーの敗北後の連合軍のドイツ占領計画に影響を与えましたが、実行されることはありませんでした。

 

ほぼ 80 年後、プーチンは、両親がともにドイツで生まれたモーゲンソーが念頭に置いていた事を達成するかもしれません。

ロシア大統領は、ドイツの強力な産業基盤が依存している天然ガスを兵器化することで、世界第 4 位の経済大国と第 3 位の商品輸出国であるドイツを脅かしています。

同時に、自動車、医療機器、化学薬品など、ドイツの最大の貿易相手国であり、昨年 1,000 億ユーロ (約14.5兆円) のドイツ製品を購入した中国が深刻な減速の真っただ中にある事も影響を与えています。

ある独裁政権の安価なエネルギーと別の独裁政権の豊富な需要に基づいて構築された国家的なビジネス モデルは、厳しい試練に直面しています。

ドイツの株式市場は、今年他国よりも大きな打撃を受けており、ドル換算で年初来で 27% 下落しており、英国の FTSE100 や米国の S&P500 指数の下落のほぼ 2 倍となっています。

「我々の産業は脅威にさらされています」と、ドイツ産業連盟であるBDIの会長、ルスヴルムは先月警告しました。

この状況下、グローバル化されたサプライチェーンを通じて、ドイツの製造業者に依存している他の先進国に悪影響が広がる可能性があります。

 

ドイツ産業の最大の問題は、エネルギーの高騰です。

来年の電気料金は 15 倍、ガス料金は 10 倍になると BDI は述べています。

7 月の産業界のガス消費量は、昨年の同月よりも 21% 少なくなっています。

それは、企業がエネルギーをより効率的に使用したからではありません。

むしろ、下落は生産量の「劇的な」減少によるものでした。

GDPは2023年に縮小し、インフレ率は8.7%で今年を上回ると予想しています。

 

小規模な企業が最も大きな打撃を受けます。

従業員が 1,000 人未満の企業のほぼ 4 分の 1 が注文をキャンセルまたは辞退したか、そうする予定であるのに対し、従業員が 1,000 人を超える企業では 11% です。

3,000 種類以上のパンがある国で、約 10,000 のパン生産者がかつてないほど苦労しています。

小麦粉、バター、砂糖などの価格が高騰しているのに加えて、オーブンを加熱し、こね機を動かすために電気とガスが必要です。

 

BDI による最近の別の調査では、9割以上が、エネルギーと原材料の価格の高騰は大きな、または存続に関わる課題であると述べています。

5社に1社が、生産の一部または全部を他国に移転することを考えています。

 

化学や鉄鋼など、エネルギー集約型のビジネスは、エネルギーのコストが低い他の国のライバルと競争する必要性によって悪化する同様の苦境に直面しています。

天然ガスをエネルギーとインプットの両方に使用する化学大手のBASFは、すでに生産を削減しており、さらに削減する必要があるかもしれません。

別の大手鉄鋼メーカーであるティッセンクルップは、1月以来、時価総額の半分を失っています。

大規模な多国籍企業は、多くの場合、エネルギーが安い他の国に工場を持っています。

しかし、ルートヴィヒスハーフェンにある広大な都市規模の複合施設を持つBASFを含む多くの企業は、国内で多くの生産を続けています。

政府の支援があったとしても、コスト圧力はなくなることはありません。

特にドイツの場合、強力な労働組合との厳しい年次賃金交渉が控えています。

ドイツ最大の労働組合である IG Metall 8% 未満の賃金上昇を受け入れないだろうと予測されています。

 

より高いコストを消費者に転嫁するのはますます難しくなっています。

トイレ紙の大手メーカーであるHakleは、生産コストの大幅な増加をクライアントに転嫁できなくなった後、破産を申請しました.

民間銀行ベレンベルグのチーフ エコノミスト、ホルガー シュミーディング氏は、エネルギー価格が当面高止まりする可能性が高いため、エネルギー集約型の生産プロセスを使用するドイツ企業の 2 ~ 3% が国外に移転すると予測しています。

 Stickstoffwerke Piesteritz は、アンモニアと尿素の 2 つの重要な化学原料のドイツ最大の生産者であり、ザクセン アンハルト州にある自社のアンモニア工場を閉鎖しました。

このような動きがサプライ チェーン全体に波及する様子を示す例として、この工場閉鎖により、ディーゼル トラックのエンジンを洗浄するのに不可欠なBASF製品である AdBlue の不足が引き起こされています。

キール研究所のシュテファン・クーツ氏は、「経済的な雪崩がドイツに向かって進んでいる」と警告しています。

やがてその影響は、ドイツ企業の世界中の顧客にも及ぶ事になるでしょう。

産業大国ドイツはどこへ向かうか

第二次世界大戦直後のドイツと日本は連合国から敵視され、経済の弱体化を押し付けられる可能性があった様です。

その後、この両国を救ったのは冷戦の勃発でした。

共産主義陣営に対抗する為に米国はドイツと日本の産業化に舵を切りました。

そこから両国は奇跡的な経済復興を遂げていくわけですが、その過程でドイツはロシアとの関係強化に走りました。

ドイツ人の頭の中には、豊富な天然資源を持つ米国に対抗するには、地理的にも近い資源大国ロシアと組むしかないとの考えがあったものと思われます。

旧ソ連時代からロシアのガスはドイツの経済を延々と支えてきました。

しかし、今回のウクライナ侵攻は彼らのシナリオを根本的に打ち砕きました。

 

それにしても「来年の電気料金は 15 倍、ガス料金は 10 倍になる」との記述には驚かされます。

間違いではないかと調べてみましたが、一年先物の電気料金は確かに一桁上昇する様です。

ドイツ経済はこのコスト上昇に堪えられるのでしょうか。

ドイツ人はウクライナ戦争が早期に終わってロシアと比較的早期に和解ができるのではとたかを括っているのかもしれませんが、もしそうならない場合、多くのドイツ企業が国外に逃げ出すでしょう。

そんな環境下、トルコはそんな企業の受け皿として有望です。

既に多くのドイツ企業がトルコに生産拠点を設け、EU向けに輸出していますが、この傾向は加速するでしょう。

トルコはEUと関税同盟を結び、貿易面では既にEUに入っているのと同じですし、ロシアに対する経済制裁に参加しておらず、アゼルバイジャンなどからのパイプラインも使えるためエネルギーコストでEU諸国に対して優位にあります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。