ロシアがガスを制裁手段に
ロシアのウクライナ侵攻はエネルギー面でも大きな変化をもたらしました。
旧ソ連時代でさえ西欧へのガス供給に関する契約違反を一度も行わなかったロシアが、ガスを西側諸国に対する制裁手段に使い始めたのです。
これが欧州のエネルギー政策に不可逆的な影響を及ぼす事は避けられません。
今後EUのロシア離れがますます加速し、再生可能エネルギーへの依存度がますます高くなり、電気自動車の普及に各国とも力を入れることになるでしょう。
電気自動車の主要コンポーネントはご存知の通り、バッテリーです。各国で開発競争が行われていますが、リチウム、コバルトなどレアメタルを多く利用しますので、世界中で資源をめぐる競争が起きています。
米誌Foreign Policyがこの問題について、「Green Energy’s Dirty Secret: Its Hunger for African Resources」(グリーンエネルギーの汚点:アフリカでの資源開発競争)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy記事要約
6月、欧州議会は2035年までにガソリンまたはディーゼルを使用する新車販売を禁止することを決議しました。
この動きは中国と米国に次ぐ世界第3位の自動車市場にバッテリー技術への移行という革命的な変革をもたらします。
しかし欧州議会の議員が指摘しなかった点があります。
欧州はその近隣の地で、バッテリーに必要な膨大な量のミネラル(リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウムなど)を採掘および精製することはできません。
緑の革命の陰には、世界で最も汚い技術を使用してアフリカなどから資源を獲得しようとする飽くなき渇望が隠されています。
バッテリーへのシフトは、世界の経済史で最も破壊的なダイナミクスの1つになる恐れがあります。
それは、先進国を想像を絶するほど豊かにする一方で、発展途上国において環境悪化や人権侵害といった問題をひきおこし、彼らを半永久的に未開発の状態に置き去りにします。
一部の発展途上国は、この傾向に逆らい、エネルギー転換の富のより大きなシェアを獲得しようとしています。
たとえば、インドネシアは2020年に生のニッケル鉱石の輸出を禁止し、外国企業にニッケル加工をインドネシアに移転することを事実上強制しました。
しかし、多くのエコノミストは、そのような禁止が実際に期待された効果をもたらすか疑問に思っています。競争の激しいグローバル市場では、このような試みは、技術とロジスティクスの欠如によってしばしば妨げられます。
ボリビアも同様にリチウム鉱石に付加価値を付けようとしましたが、これまでのところ成功していません。
しかし、それは経済の問題にとどまりません。
電池用金属は、石油が長い間果たしてきた中心的な役割と同様に多くの点で戦略的重要性を帯びているため、重要な資源を持つ開発途上国が乗っ取られるのを防ぐことは非常に困難です。
世界最大のコバルト埋蔵量を有しているコンゴ民主共和国ほど、この問題をよく示している国はありません。
コバルトで製造されたEVバッテリーは、より長い走行距離を可能にするため、グリーンエネルギー移行の鍵としてコバルトは急浮上しています。
政府がEVバッテリーとそのサプライチェーンを戦略的な産業セクターとして早期に特定した中国を見てみましょう。
コバルトの価格が比較的低かった2016年、中国政府は買い物をしました。
鉱山の巨人であるチャイナモリブデナムは、コンゴ南東部にある世界最大のコバルト鉱山の1つであるテンケファングルメを米国のフリーポートマクモランから購入しました。
今日、中国企業は世界のコバルト埋蔵量の60%と世界のコバルト精製能力の80%を支配しており、これは中国がEVバッテリーメーカーとして大きなリードを確保するのに役立っています。
中国企業であるCATLは、世界の電池市場全体の3分の1を支配しています。
戦略的産業計画の一環として中国が電池をターゲットにしていることは、米国の不安に拍車をかけています。
5月、バイデン政権はEVバッテリーの国内生産を増やすため30億ドルの計画を発表しました。しかし、中国のバッテリーサプライチェーンに対抗するためには、米国の製造業者もコバルトなど鉱物へのアクセスを増やす必要があります。
これにより、コンゴとそこでの中国の活動が米国当局の関心事になっています。
コンゴは普通のアフリカの国ではありません。
西ヨーロッパとほぼ同じ大きさの面積を持つコンゴとその膨大な資源は、多くの点でアフリカ大陸全体の経済的成功を占うバロメーターです。
コンゴの鉱物資源に目を向けているパートナーは、大陸全体を阻むハードルを克服する必要があります。
コンゴの広大な規模、アフリカの中心部にある事実上内陸国の位置、交通ハブへのアクセスの悪さのために、コンゴの資源の体系的な開発は近隣諸国も含まれ、大陸の他の地域に良い面でも悪い面でも先例となります。
重要な問題は、鉄道や港へのアクセスなどの国境を越えたインフラです。
2018年に創設された自由貿易条約である「アフリカ大陸自由貿易地域」は43もの国々を含んでいますが、国境を越えたインフラが欠如している事からこれまでアフリカ市場の統合には成功していません。
ここでも、中国ははるかに進んでおり、鉄道と港のインフラの多くは、中国の事業体によって資金提供および構築されています。
2019年時点で、サハラ以南のアフリカの46の港が中国の事業体によって建設、拡張、または運営されていると推定されています。
したたかな中国の産業戦略
コンゴという国は訪問した事がありませんが、西ヨーロッパと同じくらいの面積があるとは驚きです。
アフリカというのはメルカトル図法の地図だと赤道に近いので小さく描かれていますが、日本の80倍もある大きな大陸なんですね。
それにしても、中国の産業戦略は侮れません。
自動車産業において、将来電気自動車が本命になると睨み、内燃機関にこだわりを持つ日本と米国の自動車メーカーを置き去りにせんと、バッテリー生産に大きく張ったのが、功を奏しています。
ロシアの油に見切りをつけた欧州が電気自動車に大きく傾くのはほぼ間違いがありませんので、我が国の最大の産業である自動車産業ももたもたしていると、世界の潮流から置いてきぼりになりかねません。
洋上風力の分野でも電気自動車でも世界のリーダーは中国になりつつあります。
我が国も早く手を打つ必要がありそうです。
最後まで読んで頂き、有難うございました。