巨星墜つ
安倍首相の事件には本当に驚きました。
世界で最も安全な国と言われる我が国で生じた暗殺事件は日本中を凍りつかせました。
驚いたのは日本国民だけではありません。
世界中でこの事件はトップニュースとして取り上げられ、安倍元首相の国際的な存在感を再認識させました。
史上最長の在任期間を誇った安倍氏の在任期間は、内政では幾つかの問題を抱えていましたが、外交面では素晴らしい足跡を残しました。
地盤沈下が指摘される日本ですが、国際舞台で未だに自由主義陣営の主要国として地位を維持できているのは同首相が提唱したインド太平洋構想のおかげかもしれません。
TPPやクワッドといった仕組みで主導的な役割を果たしたのは安倍首相でした。
一方で、ロシアとの平和条約締結に情熱を傾けた安倍元首相は、在任期間に27回もプーチン大統領と面談を行っています。
現在、世界の主要国のリーダーの中で、プーチン大統領が胸襟を開いて話そうと考える政治家がどれほどいるでしょうか。
出口が見えないウクライナでの戦争ですが、西側を代表して停戦交渉を安倍氏に託すという可能性もあったかもしれません。
それだけ国際的に信用が置かれていた政治家でした。
同氏の逝去は我が国だけでなく、世界にとっても大きな損失だと思います。
心よりご冥福をお祈りしたいと思います。
ウクライナの戦況は泥沼化しています。
日本を含めた西側メディアは「ウクライナは強敵ロシアに対して善戦しており、今後西側からの高度な武器の供給を得て、反撃に転じる。」といったトーンで報道していますが、これは事実を正しく伝えているのでしょうか。
戦況に関する報道は、国民の士気を高めるという狙いもありますので、どうしてもバイアスがかかりがちです。
苦戦しているはずのロシア軍がじりじりと占領地を拡大している様子を見ると、本当にウクライナが勝利を収めることが可能なのだろうかとの疑問が湧いてきます。
そしてその目的を達成するためにどれだけの犠牲が必要なのでしょうか。
そんな中、米誌Foreign Policyが「Biden’s Endgame Shouldn’t Be Victory for Ukraine」(バイデンの出口戦略はウクライナの勝利とすべきではない)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy記事要約
6月19日、ウクライナのヘルソン近郊の前線訪問から戻った後、ゼレンスキー大統領は、「私たちのクリミアを解放する」という意図を明らかにした後、彼の軍隊は「私たちのものすべてをとり返す」と述べました。
これらの目標は理解できますが、ウクライナ東部の厳しい現実を見れば、ウクライナが軍事的勝利を達成しようとする時間が長くなるほど、最終的に敗北する可能性が高くなると思われます。
米国の国益を考えれば、米国の政策はこの現実を反映するように変更されるべきです。
戦争の初期、ロシアが数千台の戦車やその他の装甲車両を衝撃的に失ったことからも明らかなように、ロシアの軍隊はキエフを征服し、政府を降伏させることに明らかに失敗しました。
対照的に、ウクライナ軍は英雄的かつ効果的に戦い、期待をはるかに上回りました。
これに応えて、米国と他の数十の西側諸国は、ウクライナへの武器と弾薬の供給を加速させました。
しかし、その供給は西洋とソビエトの不格好な混合物でした。
多くのシステムには、特殊なトレーニング、特定のメンテナンスシステム、および各兵器システムに対して互換性のない様々な口径の弾薬が必要です。
これらには、武器の供給と機能を維持するための大規模で複雑な兵站システムが必要です。
これは現在ウクライナには存在しません。
ウクライナの指導者たちはより多くの武器を求めており、これまでに送られた量は著しく不十分であると主張しています。
彼らの要求の規模は、ウクライナ軍が東部でのロシアの猛攻撃に耐えるのがどれほど難しいかを示しています。
ロシアはドンバスの戦いで戦略を変更し、機動力よりも火力を優先して以来、1日あたり70,000発以上の砲弾と、かなりの数のロケット弾でウクライナ軍を攻撃してきました。
さらに、プーチン大統領の軍隊は、ウクライナ上空で1日あたり300回もの航空機出撃を行っています。
対照的に、ウクライナは推定10分の1の砲弾しか発射しておらず、1日に3〜5回の空中出撃しか行わないこともあります。
この火力の格差は、ウクライナの死傷者を私たちが耐えられると信じている以上に増加させており、毎日最大200人の兵士が殺され、約500人が負傷していると報告されています。
ウクライナ側の装備の損失も同じように壊滅的です。
戦争の初めにウクライナが所有していたソビエト時代の装備のほとんどが破壊され、弾薬は殆ど使い果たしました。
最近ロシアの侵略者が、ドンバス戦線をほぼ包囲したことからも明らかなように、この種の損失を維持し、効果的な抵抗を提供し続けることのできる軍隊はありません。
ウクライナと米国の政策は、これらの戦場の現実を無視しているようです。
先週、ゼレンスキーは、2014年の最初の侵略以来、ロシアに失われたすべてのウクライナの領土、現在はウクライナの約20パーセントを取り戻すという彼の計画を繰り返しました。
米国国防副長官のキャスリーン・ヒックス氏は最近、国防総省は5年、10年、または20年先までウクライナを支援する用意ができていると述べました。
しかし、戦況を見ると、ウクライナが持ち堪えられるのはせいぜい5〜10か月と思われます。
まだ時間はあり、キーウはまだその領土の80%を支配していますが、米国の政策の変更は、ウクライナ人の命を救い、さらなる領土の損失を防ぐ可能性があります。
少なくとも、バイデン政権はロシアを弱体化させるという目標を強調せず、代わりに外交を優先し、ウクライナとロシアが交渉による戦争の終結を目指すことを助けるべきです。
ウクライナで戦争が拡大したり、国境を超えて拡大したりするのを防ぐことは、米国の国益になります。
世界は、1962年のキューバミサイル危機以来、どの時点よりも核戦争のリスクが高くなっています。
この戦争がいつどのように終結するかを決めるのはウクライナとロシア次第ですが、米国の武器やその他の援助がウクライナの戦争努力を支えています。
米国の利益はウクライナの利益と同じではありません。
いかなる和解も、領土の譲歩や中立国としてのウクライナの地位など、複雑な問題を惹起するでしょう。
選択肢は口に合いませんが、ロシアが戦場でより多くの利益を得るほど、ウクライナはそれを譲歩するのがむずかしくなります。
この戦争を終わらせることは、ウクライナ、ヨーロッパ、米国、そして世界の最善の利益になります。
この局面では、特に米国、そして一般的には西側諸国が、ウクライナの戦闘の現実に基づいて政策を策定し、達成不可能な結果を無謀に追求しないことが重要です。
現実を十分に注視してください。
ウクライナは戦争に完全に負ける可能性があり、それとともに、ウクライナが現在持っているレバレッジも失われる可能性があります。
片手で戦うロシア
先日米紙ウォール・ストリートジャーナル紙が、現在モスクワやサンクトペテルスブルグでは市民たちが、自国が戦争を行っているとは思えない様な通常の生活を営み、コンサートなどのチケットは売り切れているというニュースを流していました。
ロシアは未だに総動員令を出していません。
要するにロシアはまだ全力を出してウクライナと戦っているわけではないのです。
現在、米国は積極的にウクライナに肩入れしている様に見えますが、ロシアとの全面対決を恐れ、戦局を左右する様な攻撃的な兵器は提供していません。
米国は中間選挙を控えていますので、その前にウクライナがロシアと屈辱的な和平協定を結ぶことは絶対避けたいと考えているはずです。
そんな事になれば、アフガニスタンからの惨めな撤退に次いで、ウクライナからも撤退するのかと国内から猛批判を浴びる事は必至です。
しかし客観的に考えれば、ロシアとウクライナの国力差はいかんともしがたく、このまま武器供与を続けていけば、ウクライナの損失は耐え難いものになる可能性があります。
和平交渉はウクライナにとって厳しいものになるかも知れませんが、更に事態が悪化すれば、ロシアとの交渉は更に難しいものになるでしょう。
ロシアとの戦いは彼らが屈服するまで続けるべきだとおっしゃる方もおられると思います。
その気持ちはわかりますが、ウクライナの人々の犠牲がこれ以上広がるのは無視できません。
ロシアと戦う方法は戦場以外にもあります。
先ずは武器を置くことが得策と思います。
最後まで読んで頂き、有難うございました