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Nord Stream 2パイプラインを爆破したのは誰か

著名ジャーナリストのスクープ

米国にシーモア ハーシュという有名なジャーナリストがいます。

彼はベトナム戦争時のソンミ村虐殺事件のスクープによりピュリッツァー賞を受賞しましたが、その後も数々の特ダネをものにし、米国では最も著名なジャーナリストの一人と目されています。

そんな彼がロシアとドイツを結ぶ新しいガスパイプラインの爆破事件に関して犯人は米国政府だというスクープを行い、内外に大きな波紋を広げています。

彼が先月発表したスクープの主な内容は下記の通りです。

  1. 米国政府内の信頼すべき情報筋によれば、バイデン政権は政権発足直後からNord Stream 2パイプラインの爆破を秘密裏に計画し、昨年6月にバルト海で行われたNATOの軍事演習BALTOPS 22を隠れ蓑に、米軍のダイバーが海底パイプラインに爆弾を設置した。
  2. 数ヶ月後9月26日にノルウェーの哨戒機がブイを海面に投下し、そのブイから信号を発信し、パイプラインを爆破させた。

このスクープに対して米国政府は全面否定を行いましたが、このスクープに対してドイツや欧州諸国は強い関心を寄せました。

驚くべき事に米国の主要メディアは殆ど取り上げませんでした。

そして、今年3月に入ってドイツのショルツ首相バイデン大統領を訪問し、会談が行われましたが、通常随行するはずの記者がおらず、共同会見もパイプラインに関する質問は禁止され、大統領と首相の面談は随員なしで行われると異例ずくめの会談だった様です。

この会談後、米国ではニューヨークタイムズ、ドイツではツァイトが政府関係者の話として、「パイプライン爆破は親ウクライナ派のグループによって行われた可能性が高く、爆破事件の直前にバルト海に出航したウクライナ船籍のヨットが疑わしい。今後捜査が行われるが時間が掛かるだろう。」との報道を行いました。

このニューヨークタイムズとツァイトの報道に噛み付いたのがハーシュです。

政府による事実の隠蔽だとして激しく非難し、政府内の情報筋からの話として、新しい情報を提供しました。

このハーシュのスクープについては、中国やロシアのメディアでは大きく取り上げられていますが、客観性に欠けるきらいがあり、今回はフィンランドのHelsinki Timesの「The Biden Administration continues to conceal its responsibility for the destruction of the Nord Stream pipelines: Seymour Hersh」(バイデン政権はNord Streamパイプライン爆破の責任を回避しようとしている:セーモア ハーシュ)と題された記事をご紹介したいと思います。

フィンランドはご存知の通り、今回のウクライナ戦争を契機にNATO加盟を申請し、ロシアの隣国としてその脅威を最も切実に感じている国の一つです。

彼らはこの事件をどの様にみているのでしょうか。

Helsinki Times記事要約

6 週間前、ジャーナリストの セーモア ハーシュ は、バイデン 大統領が昨年 9 月に Nord Stream 2 パイプラインの破壊を命じたと主張するレポートを公表しました。

110 億ドル(1.4兆円)をかけたパイプラインは、ロシアからドイツに供給される天然ガスの量を 2 倍にする予定でした。

このレポートはドイツとヨーロッパでは注目を集めましたが、米国ではメディアにほぼ無視されました。

 

ドイツのショルツ首相がワシントンを最近訪問した後、米国とドイツの諜報機関は、ハーシュの報告に反論するために、ニューヨーク・タイムズとドイツの週刊誌ツァイトを通じて虚偽のカバーストーリーを広めようとしたと言われています。

ハーシュの衝撃的な暴露以来、バイデン政権は、熱気球、UFO、新型コロナの起源まで、パイプラインの話題から注意をそらすためにあらゆる事を試みました。

挙げ句の果ては深度70mを超える海底に数百キロもの爆弾を設置し、リモートで爆破させたと言うのにヨットから民間のウクライナ人が潜水したと言う話まででっちあげました。

諜報機関内のハーシュの情報筋は、バイデン大統領が事件の詳細な調査を命じなかったのは、大統領が既に答えを知っているからだと主張しています。

 

エネルギー専門家のサラ・ミラーは、ドイツと西欧におけるこのパイプラインの重要性を指摘します。

9 月のパイプラインの爆破により、天然ガス価格が急騰し、10 月には危機前の水準の 10 倍に達しました。

ヨーロッパの政府は、家庭や企業を影響から守るために、最大 8,000 億ユーロ(115兆円)を費やしたと伝えられています。

その後、ガス価格は 10 月のピークの 4 分の 1 まで下落しましたが、危機前の水準の 2〜 3 倍にとどまっています。

 

Nord Stream 2 の論争は、3 月初旬にショルツ首相がワシントンを訪問した際に再浮上しました。

外交情報にアクセスできるハーシュの情報源は、ショルツとバイデンの会談でパイプラインの爆破についての議論があったことを明らかにし、CIA は、ドイツの情報機関と協力して、アメリカとドイツのマスコミ向けのカバーストーリー(でっちあげ)を準備するよう命じられた様です。

「CIAは、バイデンがパイプラインの破壊を命じたという主張を打ち消す為に、あらゆる手を使う事を求められた。」とハーシュの情報筋は語りました。

 

バイデン政権はNord Stream 2 パイプラインの破壊に対する責任を否定し続けており、スウェーデンとデンマークは独立した調査の実施を拒否しているため、論争は未解決のままです。

隠蔽の疑いは、米国とドイツの両方で透明性と説明責任について疑問を投げかけています。

真相は究明されるか

ハーシュ記者は前述のソンミ村虐殺事件もそうですが、2004年に発覚したアブグレイブ刑務所における捕虜虐待事件もスクープしており、その情報収集能力には定評があり、今回も政権内部に信頼のおける情報提供者を確保しているものと思われます。

今後、米国のみならずドイツでもこの問題は追及される可能性が高く、もし本当に米国がパイプラインを爆破した事が明らかになれば、深刻な影響が出るものと思われます。

パイプラインの爆破はドイツ政府の了解ずくで行われたとは思えないので、ドイツからしてみれば、米国は自国のLNGを高い値段でドイツに売りつける為に、同盟国のドイツの重要インフラを破壊したという事になり、両国間の関係は悪化すると思われます。

また、ショルツ首相がバイデン大統領の事実隠蔽の片棒を担いだという事になれば、ドイツ国内で厳しい批判を受ける事になるでしょう。

興味深いのは、米国主要メディアの本スクープに関する沈黙ぶりで、彼らも政府と同じで米国の国益に敏感なのかと思います。

ロシアの脅威に直接晒されているフィンランドのメディアがここまで米国の説明責任を求めているのですから、今後欧州では真相究明への圧力が高まる事が予想されます。

国際政治に大きな影響を与える事件である事は間違いなく、今後の進展が注目されます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。