米国離れが進む中東
最近、中東の米国離れが顕著になっています。
今日もロシアを含むOPECプラスは原油生産量の削減を発表しました。
これはインフレに悩む米国政府の意向と真っ向から対立するものです。
先日の中国の仲介によるイランとサウジアラビアの国交回復も衝撃的でしたが、米国の面子を潰す様な行動を中東諸国は堂々ととる様になってきました。
ウクライナ戦争に対する姿勢も中東は欧米と一線を画しています。
中東の国際的ハブであるドバイは最近ロシアからの資金流入で大変潤っている様ですが、この事情について仏紙ルモンドが「Les Emirats dans le camp russe face à l’Ukraine」(ウクライナではなくロシアを支援するUAE)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Le Monde記事要約
2022 年 2 月 25 日、ロシアによるウクライナ侵攻の翌日、国連安全保障理事会は、ロシア軍の「即時撤退」を求める西側の決議草案を採決しました。
理事会の 11 人のメンバーがこの議案を承認しましたが、ロシアの拒否権のために否認されました。
しかし驚きは、中国とインドと共に議決を棄権したアラブ首長国連邦(UAE)の判断です。
5日後、間違いなくアメリカの圧力により、UAEは今度は国連総会で、「ロシアがウクライナに対する武力行使を直ちに停止することを要求する」決議案に賛成しました。
しかし、UAEのムハンマド・ベン・ザイード大統領は、ウクライナ危機における「中立」の立場を変えていません。
軍事協力とマネーロンダリング
UAEの「中立性」に関する疑念は、2月にアブダビで開催されたIDEX国際武器見本市で高まりました。
ロシアは実際に、装甲車両、戦闘ヘリコプター、対空ミサイルを展示することを決定しました。
これらはすべてウクライナでテストされ、輸出を目的とされていました。
ロシアの展示場でマントウロフ副首相は、「2022年にUAEとの貿易取引が68%増加した」と述べ、UAEがアラブ世界における自国の主要パートナーになったことを歓迎しました。
同時に、アブダビ中央銀行は、「両国間の合法的な貿易を支援し、UAEのロシア人コミュニティにサービスを提供するのに役立つ」という理由で、ロシアの銀行 MTS に銀行ライセンスを付与しました。
この「ロシア人コミュニティ」は、ウクライナの侵略前にドバイですでに存在感を示しており、特にプーチンがチェチェンの首長に据えた独裁者ラムザン・カディロフに関連するネットワークの周りで特に活発でした。
ロシアの新興財閥は、現在欧米で彼らを襲っている制裁を逃れるためにUAEに大規模にシフトしました。
2022 年には約 200 万人のロシア人乗客がドバイ空港を利用しました。
これは前年の 2 倍以上です。
100 機のプライベート ジェットの所有者であるロシア人も、西側諸国の制裁を逃れるためにドバイを拠点とすることを選択しました。
このようなロシアの富の流入は、ドバイのすでに繁栄している不動産市場を後押しし、2022 年には取引が 80% 増加し、ドバイは現在「ドバイスク」、さらには「ドバイグラード」と呼ばれるほどになっています。
西洋の懸念
米国は、UAEが、ウクライナ侵攻に関連するロシアの個人や団体からの資金洗浄を助長していると確信しています。
ホワイトハウスは、ロシアに関与するUAE企業を標的にした後、MTS 銀行とそのアブダビ子会社を最新の制裁リストに明示的に含めました。
マネー ロンダリングと闘うために 36 カ国の専門家を集めた金融活動作業部会 (FATF) は、「「強化された監視」下にある国の「グレーリスト」にUAEを追加しました。
さらに、UAEとロシアの間の二国間貿易のブームは、主に、ロシアが国際市場で直接入手できなくなった商品のアブダビによる再輸出によるものです。
この制裁の回避は、電子部品で特に顕著であり、UAEによるロシアへの販売は…2022 年には 15 倍に増加しました。
同じ理由で、アブダビは 2022 年に 150 台以上のドローンをロシア政府に販売しました。
ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、UAEのロシアに対する厚遇はますます問題になります。
UAEが示した「中立性」は、実際にドバイをプーチン政権の貿易と金融のハブへと変貌させ、西側の制裁の影響を大幅に緩和させました。
しかし、UAEは国際的なイメージに敏感であり、国際的圧力の下で、同国政府は、悪名高い麻薬密売人が自国の領土に存在することを何年も否定した後、最終的にこれらの犯罪者を国外追放することになりました.
ドバイでのロシアのオリガルヒの亡命の終わりは、ロシア政府とその取り巻きにかなりの影響を与えるでしょう。
これを実現するには協調的なイニシアチブが必要です。
それまでは、中東全般、特にUAEは、プーチン大統領のウクライナ侵略戦争において不可欠な資源を提供し続けるでしょう。
米国のいう事を聞かなくなったアラブ諸国
少し前まではイスラエルとアラブ主要国が歴史的な和解を行い、米国主導で物事が進みそうな雰囲気でしたが、ここのところ中東の政治情勢は一変しました。
アフガニスタンからの米軍撤退を見ていたアラブ諸国に不信感が芽生えるのは不自然ではありません。
アラブ諸国は自国の安全保障と引き換えに米国のいう事を聞いてきたのですが、イラク、アフガンを見ていた彼らは本当に米国は自分たちを守ってくれるのだろうかと不安に駆られたと思います。
そんな心理を見透かす様に巧みな外交を展開しているのが中国です。
シェールオイル、ガスの開発で自給自足が可能となった米国は中東の重要性が低下し、中東にとっても油を買ってくれるのは米国ではなく中国になっています。
軍事力を振りかざす割にはあてにならない米国にはもう依存せず、自国でイスラエルやイランと関係を改善した方がマシだと湾岸諸国が考える様になっても不思議ではありません。
米国はここでも友好国を失おうとしています。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。