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クルド人が決定権を握るトルコ大統領選

目前の大統領選

トルコの大統領選も後1ヶ月となりました。

20年を超えるエルドアン政権が終末を迎えるか否か大変興味深いものがあります。

ついこの間までは、苦戦を強いられながらもエルドアン氏が勝利を収めると筆者も予想していましたが、2月に起きた大地震が今回の選挙に大きな影響を与えそうです。

今から約20年前、エルドアン氏が政権を初めて奪取した時も、大地震と経済危機が政権交代の引き金でしたが、今回もトルコは同じ状況に陥っています。

最後の審判はどの様に下されるのでしょうか。

英誌Economistが今回の選挙に関して「Turkey’s Kurds are joining the coalition to oust Erdogan」(野党連合に加わったクルド人がエルドアンを放逐する)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

トルコ南東部の町、キジルテペの市長としてのイルファー・ユルマズの在職期間は短命でした。

2019 年 11 月、彼女が選出されてから 7 か月後、トルコの主要なクルド人党であるHDPのメンバーであるユルマズ氏は、内務省によって市長職より追放され、政府の任命者に取って代わられました。

数週間後、彼女はテロ容疑で逮捕されました。

クルド人が住むトルコ南東部では、彼女のような話は例外ではありません。

過去 10 年間にHDP所属の政治家として選出された 171 人の市長のうち、約 154 人が解任または就任を妨げられ 数十人が逮捕されました。

「このサイクルは終わらせなければなりません」とユルマズ氏は言います。

しかし、それはすべてトルコの次の選挙にかかっています。

 

トルコでは、5 月 14 日に国会議員と大統領が選出されます。

その結果はクルド人にかかっているかもしれません。

最近の世論調査では、AKPとMHPで構成される与党連合も、主要な野党ブロックである国民同盟も、単独では議会の過半数を保持できないと予測されています。

一方、クルド系の政党HDPは投票の少なくとも 10% を獲得すると予想されます。

 

クルド人は、大統領選挙でさらに大きな役割を果たす可能性があります。

HDPは、独自の候補者を立てずに、トルコの大統領であるエルドアンに対して、野党同盟の候補であるCHPの党首であるクルチダオールを支持しています。

HDP の元党首であるデミルタス氏は刑務所から手紙を書き、彼らの目的は「エルドアン政権に終止符を打ち、民主化のチャンスを掴むことである」と述べています。

クルド人の指導者が今、大統領選で野党CHPの指導者を支持することは、エルドアン氏と彼の党AKPが同国最大の少数民族といかに仲違いしているかを示しています。

何十年もの間、トルコの古い世俗支配層の政党である野党第一党のCHPは、クルド語やその文化が存在することさえ否定してきました。

2000 年代になってもCHPは依然としてクルド人に対するいかなる譲歩にも反対していました。

一方、エルドアン氏と彼の党AKP は、クルド人に新しい文化的権利を提供し、イスラム教徒の共感を利用してクルド人の保守派を説得し、武装分離主義グループであるクルディスタン労働者党 (PKK) との和平交渉を開始するなど、はるかにクルド人に対して柔軟でした。

これにより、彼らはクルド人票のかなりのシェアを獲得しました。

 

2015年、エルドアン氏がPKKとの和平交渉から退き、米国が支援するシリアでの分派の成功に勇気づけられたPKKがトルコ南東部で反乱を起こしたとき、状況は変化し始めました。

エルドアン政権は武力で対応し、その後、ほとんどのトルコ人が PKK の政治部門と見なしている 政党HDP を含むクルド民族主義者に対する包括的な弾圧を行ないました。

デミルタシ氏と他の何人かの国会議員、そして何百人もの HDP の政治家や活動家が、ほとんどでっち上げのテロ容疑で投獄されました。

多くのクルド人は、HDP がエルドアン氏の大統領就任計画を支持することを以前に拒否したことが、抜本的な取り締まりのもう 1 つの理由であると考えています。

 

「AKPはクルド人から遠ざかりました」と学者のCoskun氏は言います。

「そして、CHPは接近しました。」 これがトルコの政治に何をもたらすかは、2019 年の地方選挙で明らかになりました。

クルド人の投票が、トルコ最大の都市イスタンブールと国の首都であるアンカラの市長選挙で、CHPの候補を勝利へ導きました。

HDP とその支持者は、キングメーカーであるだけでなく、スケープゴートです。

御用報道機関に護られたエルドアン氏と閣僚たちは、HDP を政治の隅に押しやりました。

主なニュース チャンネルは HDPの政治家を不可触民として扱います。

現在、トルコの憲法裁判所で審査中の別の訴訟では、同党が閉鎖され、ユルマズ夫人を含む主要メンバーが数年間政界から追放される可能性があります。

 

何年にもわたって、野党はクルド人を代表して発言することを拒否することにより、政府によるクルド人への迫害に加担していました。

CHP は、HDP 国会議員の免責を剥奪する決定とシリアでの軍事作戦の両方を支持しました。

現在、ハト派の大統領候補クルチダオル氏は少なくとも、CHPの過去の過ちについて反省を表明し、選出された場合は HDPと協力することを申し出ており、クルド人にとって最も好感の持てる候補者になっている、と Coskun 氏は述べています。

しかし、CHPの主要な野党パートナーであり、ナショナリストが支配する Iyi Partyは、はるかにクルドに対して厳しい方針を取り、HDPの代表者との面会を拒否しています。

 

エルドアン氏は、一部のナショナリストを野党から自分の陣営に取り込むことを狙って、野党同盟の亀裂を深めようとしています。

選挙に先立って、テロリスト集団PKKの政治集団として非難する HDPに接近することにより、野党はテロリストと手を組んだと彼は主張しました。

野党が大統領選に勝つためには、HDP とその有権者が必要です。

一方、エルドアン氏は、恐怖を煽るキャンペーンを強化するために彼らを必要としています。

エルドアン氏のクルドに対する変化

Economist記事が述べる通り、トルコ国民8500万人の内1500万人いると言われるクルド民族の票が大統領を決めるキャスチングボードを握っている様です。

しかし、この1500万人の人々が一致団結して反政府活動を繰り広げているという様な印象を持つ方がおられるかも知れませんが、そういう訳ではありません。

大部分のクルド人は多民族国家のトルコにおいて、外見とか言葉ではなかなか判別がつきません。

PKKの様な過激派はごく一部で、大多数は他のトルコ人との平和共存を望んでいます。

政府の要人の中にもクルド系の人がかなりいますので、トルコに溶け込んでいると言って良いでしょう。

エルドアン大統領は今回の選挙でクルドの票が重要であることを重々承知しています。

過去にはこの票を取り込むために、クルドとの融和を打ち出した時期もあったくらいです。

しかし今回の選挙でそれができないのは与党連合を組んでいる右翼政党MHPの存在があります。

エルドアン大統領の外交政策や選挙戦略に変化が生じたのも議会で多数派を結成するためにMHPと手を組んでしまってからです。

今回エルドアン氏が政権を失うとすれば、その原因はMHPとの共闘だと筆者はにらんでいます。

 

Economistの記事を読んで感じたことは、トルコに自分たちの様な民主主義はないと言わんばかりの上から目線です。

確かにエルドアン政権になってからメディアの多数派が与党系になったことは否めませんが、今でも反政府系のメディアが存在し、公共放送であるテレビで堂々と反政府キャンペーンを繰り広げていますし、インターネットでも政府批判を行うチャンネルが活発に活動しています。

そしてPKKは欧米政府も認める国際テロ組織ですので、これに同情的な論評は多くのトルコ人からは受け入れられないでしょう。

善悪の判断は俺たちが教えてやるという様な西側メディアの態度は誇り高いトルコ人からしてみると受け入れ難いものであり、彼らがエルドアン氏を批判すればするほど、贔屓の引き倒しとなり、エルドアン氏に有利となります。

最近グローバルサウスが西側に反旗を翻し始めたのは、西側の価値観を押し付けられるのに飽き飽きしたものと思われ、欧米も味方を増やしたいのであれば、この点気をつける必要がありそうです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。