急転直下の調停劇
先日驚くべきニュースが飛び込んできました。
犬猿の仲だった中東の大国サウジアラビアとイランが急遽国交を正常化したというニュースです。
しかもその仲を取り持ったのが中国という事実にも驚かされました。
サウジアラビアはイスラム教スンニ派のリーダー、一方イランはシーア派のリーダーとして一触即発だったこの両国が矛を収めたのは何故でしょうか。
そして中国は何故調停に成功したのでしょうか。
米国政府はこのニュースを聞いて青ざめたに違いありません。
このニュースの背景に関して米誌Foreign Affairsが「How China Became a Peacemaker in the Middle East」(中国が中東で平和調停者になれた訳)と題した論文を掲載しました。
著者は米国のシンクタンクQuincy Instituteの副会長Trita Parsi氏です。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs論文要約
バイデン米大統領の中東チームがサウジとイスラエルの関係正常化に注力していた頃、中国はアブラハム合意以来、最も重要な外交成果をもたらしました。
それは、サウジとイランの国交正常化です。
両国が先週調印した国交正常化協定は、レバノンとシリアからイラクとイエメンに至るまで、この地域にプラスの影響を与えるだけでなく、中国がそこで主導的な役割を果たし、米国が関与しなかったことも注目に値します、
米国は、中東での中国の影響力の増大を長い間恐れてきました。
米軍の撤退が地政学的な空白を作り、中国がそれを埋めるだろうと心配していましたが、関連する空白は、軍事的なものではなく外交的空白でした。
米国は軍事力に頼り外交を後回しにすることがあまりにも多かったのです。
この取引は、中国の勝利を意味します。
2 つのライバル国と地域の主要な石油生産国との間の緊張緩和を仲介することで、必要なエネルギー供給を確保するのに役立ち、紛争に悩まされている地域で信頼できるブローカーとしての役割を示しました。
中国の成功は主に米国の戦略的失敗のおかげで可能になりました。
米国がイランへの圧力とサウジアラビアへの嘆願を組み合わせた自滅的な政策を行った事は、双方の国家から信頼を得た中国の台頭を可能にしました。
サウジアラビアなど米国に近い中東諸国は、米国から白紙委任状を与えられていると信じていた為、地域外交にはほとんど関心がありませんでした。
しかしその白紙委任状が撤回されたとサウジが気づいた時、外交が最善の選択肢となったわけです。
先週の北京での 4 日間の交渉の後、共同声明は、サウジアラビアとイランの間で大使館を再開し、2 か月以内に外交関係を再開することに合意したことを発表しました。
両国は、互いの主権を尊重し、互いの内政に干渉しないことを確認しました。
イランに対するサウジアラビアのアプローチの変化は、2 つの出来事に起因すると思われます。
2019 年 9 月、イエメンでイランが支援するフーシ派の反政府勢力によって実行されたドローンとミサイルの攻撃が、サウジアラビアの石油施設に損害を与えました。
この攻撃は、イランに対する米国の「最大限の圧力」制裁を支持するサウジ王国にコストを負わせようとしたものでした。
カーター大統領時代にさかのぼる中東の石油資源を守るために軍事力を使用するという米国の長年の政策を考えると、サウジは米国が報復としてイランを攻撃することを期待しました。
しかし、トランプ大統領は、サウジアラビアのために戦争の危険を冒すことに関心がありませんでした。
トランプのアメリカ・ファーストのアプローチは、これまでの米国のコミットメントがあてにならない事を意味しました。
サウジの内部関係者によると、王国の指導者たちは「裏切られた」と感じたようです。
サウジアラビアがもはや米国の軍事力の後ろに隠れることができないことに気づいた後、イランとの直接外交は突然、魅力的になりました。
アフガニスタンからの米国の撤退は、上記の2019 年の米国の不作為によって送られたメッセージを強化し、米国がこの地域を離れることをほとんどの中東諸国に確信させました。
軍隊と基地があったとしても、米国は中東で、または中東のために戦う意志を失ったと捉えられました。
バイデンの国家安全保障担当補佐官サリバンがアフガニスタンからの撤退後にこの地域を視察したとき、指導者たちは米国の不安定な政策に不満を表明しました。
中東から遠ざかるトランプの引力がサウジアラビアを外交に向かわせた一方で、バイデンのその後の「基本に立ち返る」アプローチは、新たな平和構築者としての中国の台頭への道を開くのにも役立ちました。
バイデン政権は、サウジのジャーナリスト、ジャマル・カショギの殺害にサウジ政府が関与したとしてサウジアラビアを「のけ者」にすることを宣言しましたが、同時に地域のパートナーに、中東の安全保障に引き続きコミットしていることを再確認することにも着手しました。
これは主に、中国の影響力に対抗する為、パートナーシップを強化する必要性が強まったからです。
バイデン氏は昨年サウジアラビアを訪問した際に、「米国は今後も中東で積極的かつ関与するパートナーであり続ける」と述べました。
バイデン氏はサウジを「のけ者」にするという誓約を棚上げにし、王国を訪問し、石油生産を増やすように圧力をかけに行きました。
しかし、サウジアラビアと中東のアメリカの同盟国は米国のいう事を聞きませんでした。
サウジアラビアは、ウクライナ戦争でロシアの側に立ち、200 万バレルの OPEC+ 減産を主導し、西側の対ロシア制裁への参加を拒否し、中国の習近平国家主席をリヤドで開催された歴史的な中国とアラブの首脳会談で歓迎しました。
米国がサウジの皇太子の不正行為を大目に見た事は裏目に出ました。
中国は、地域のすべての大国との関係を強化するために努力してきました。
イラン、イスラエル、サウジアラビアとの良好な関係を維持する一方で、それらの間の紛争には完全に中立を保っています。
中国は中東のいずれの大国とも防衛協定を結んでおらず、この地域に軍事基地を維持しておらず、軍事的影響力よりも経済的影響力に依存しています。
このアプローチにより、紛争を解決できるプレーヤーとして浮上することができました。
この取引に対する米国政府の反応は、一方ではサウジアラビアとイランの和解を歓迎するものであり、他方では、 中国の調停の重要性を軽視しようとしています。
結局のところ、イランとサウジが対立していない安定した中東は、ガス価格などの面で米国にも利益をもたらします。
しかし、中国の役割について米国は今回の出来事を教訓として受け止めるべきです。
米国が地域パートナーの紛争に巻き込まれ続け、自らを解決策ではなく問題の一部にする場合、米国の外交的活動の余地はますます制限され、平和構築者の役割を中国に譲ることになります。
代わりに、ワシントンが地域紛争でいずれかの側につくのをやめ、すべての主要な地域関係者との交渉に戻り、アメリカ軍のプレゼンスを減らして中東諸国が責任を共有することを奨励する新しい安全保障体制の開発を支援した場合、アメリカの立場は改善されるでしょう。
中国が柔軟な平和構築者であるのに対し、米国は確固たる戦争の構築者であるというイメージを米国は中東諸国に与えるべきではありません。
そのようなシナリオを防ぐのは米国政府次第です。
米国は対抗できるのか
米国はサウジに対してダブルスタンダードで臨んだツケが回ってきた感があります。
カショギ記者殺害事件でサウジの皇太子を糾弾したのに、その後はバイデン大統領自身が当の皇太子に石油増産を乞うなど、一本筋の通らない外交が中東諸国指導者の信頼を失う原因になったのではないかと思います。
ご都合主義で軍事力を振りかざす米国を尻目に中国は経済と外交をベースに中東各国で影響力を高めていった様に思います。
今やグローバルサウスは欧米(日本を含む)に対するかなり強力な対抗軸となっており、そのトップに君臨するのが中国という訳です。
ウクライナも似た様な情勢になってきた感があります。
米国の様に明らかにウクライナ寄りの国は調停役になるのが難しいですが、中国は米国の様に当事者に兵器を供給しているわけではなく、しかもロシアに対して最も影響力がある国です。
プーチン大統領と今週面談し、ゼレンスキー大統領とも面談予定の習近平氏が話をまとめる可能性はあると思います。
西側はやり方を改める必要がある様に思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。