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存在感を増すBRICS

BRICSの誕生

BRICSという言葉は21世紀初頭に主要な新興国の頭文字を取って生まれましたが、当時の見方はロシアも含めて資源に恵まれた成長国というものでした。

当時イスタンブールで日本企業の駐在員として活動していた筆者はトルコも入れてくれよと思ったものです。

元々はゴールドマン・サックスのスタッフが命名したものでしたが、その後BRICSは加盟国間の関係を強化し、現在に至っています。

そんなBRICSに関して米誌Foreign Policyが「BRICS Faces a Reckoning - Enlargement would be a sign not of the group’s strength, but of China’s growing influence.」(岐路に立つBRICS - その拡大はグループの強さの表れではなく、中国の影響力拡大の表れだろう)と題する論文を掲載しました。

筆者はサンパウロ大学の​​Oliver Stuenkel教授です。かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

2001年、ゴールドマン・サックスの銀行家ジム・オニールは、ブラジル、ロシア、インド、中国を指す「BRIC」を創設し、これらの国は間もなく世界経済に大きな影響を与えるだろうと予測しました。

2006 年、ゴールドマン・サックスは、これら 4 か国の成長に連動した BRIC 投資ファンドを設立しました。

この命名は当時の新興大国に対する世界的な興奮を引き起こし、4カ国の首脳が初の首脳会談を開催した2009年に政治団体に形を変え、 1年後には南アフリカも加盟しBRICSとなりました。

政治団体としてのBRICSは、発足当初から無数の批判に直面しました。

西側報道機関のアナリストはこの組織をナンセンスであると評し、直ぐに消滅するだろうと予測しました。

2011年、フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、マーティン・ウルフは、BRICSのメンバーには「共通点がまったくない」と主張しました。

ゴールドマン・サックスは、収益率の低さを理由にBRICファンドの閉鎖を決定しました。

 

確かに、BRICS加盟国には多くの違いや意見の相違があります。

ブラジルとロシアは一次産品の輸出国である一方、中国は一次産品の輸入国です。

ブラジル、インド、南アフリカは活発な市民社会を持つ民主主義国家ですが、中国とロシアは独裁政権です。

核兵器を誇る中国、インド、ロシアとは対照的に、ブラジルと南アフリカは非核保有国です。

おそらく最も深刻なのは、中国とインドが直面する国境紛争でしょう。

 

それでも、立場の違いにもかかわらず、BRICSのリーダーの中で、グループの年次サミットを欠席した人は一人もいません。 (会合はパンデミック中にもオンラインで行われました。)

外交的・経済的関係は解消されるどころか強化され、BRICSは各加盟国の外交政策における中心的な要素となっています。

2014年のインドのモディ氏や2018年のブラジルのボルソナロ氏といった右翼ポピュリスト指導者の選出など、イデオロギーの大きな変化があっても、BRICSに対する各国の関与は大きく変わっていないのです。

 

しかし、BRICSは今年8月にヨハネスブルグで第15回首脳会議を迎えるにあたり、グループ拡大を巡って前例のない意見の相違が見られています。

その結果は、中国の影響力の増大に直面して、BRICSのアイデンティティが試されることになるでしょう。

BRICS加盟国間には多くの意見の相違や緊張があるにもかかわらず、西側のアナリストが認識している以上の共通点があります。

この組織が参加者にもたらす戦略的利益は、依然としてコストをはるかに上回っています。

次の 4つの側面が際立っています。

 

第一に、すべての BRICS 加盟国は、世界の多極化は避けられないものであり、一般的に望ましいものであると考えており、BRICSがポスト西側世界秩序の形成においてより積極的な役割を果たすと認識しています。

加盟国は米国主導の一極性に対する根強い懐疑を共有しており、BRICSという組織が米国との交渉において戦略的自治権と交渉力を高めると信じています。

インドのジャイシャンカール外務大臣は、6月1日に南アフリカで開催されたBRICS外相会議で、「経済力の集中により、あまりにも多くの国が、あまりにも少数の国に翻弄されることになる」と述べています。

 

第二に、BRICS という組織は、他のすべての加盟国にとって非常に重要な国である中国への特権的アクセスも提供します。

特にブラジルと南アフリカは、グループ設立前には中国政府との関係が限定的でしたが、中国の力が高まるにつれBRICSの恩恵を受けています。

国家元首が出席するサミットだけではありません。

ほとんど知られていませんが、このグループは、政府関係者、シンクタンク、大学、文化団体、国会議員が参加する数え切れないほどの年次会議を開催しており、年によっては100回を超えています

BRICS 加盟により、2013 年の第 5 回 BRICS サミット中に設立された上海に本拠を置く新開発銀行 (NDB) の株式も各国に付与されました。

 

第三に、BRICS加盟国は一般的にいかなる状況でもお互いを友人として扱ってきました。

このグループは、国際的に一時的な困難に直面している加盟国のために、強力な救いの手を差し伸べています。

2014年にロシアがクリミアを併合した後、BRICS加盟国はロシアのプーチン大統領を外交的孤立から守り、ボルソナロ大統領が世界的に孤立したときも支援しました。

親しい同盟者であるトランプ氏の再選への挑戦には失敗しましたが、2022年にロシアがウクライナに全面侵攻した後、プーチン大統領は再び他のBRICS諸国に頼って、外交・経済支援(中国)、制裁回避の支援(インド)、軍事演習への参加(南アフリカ) 戦争の正当性に関する同意(ブラジル)を取り付けました。

 

最後に、BRICS の一員であることは、長年にわたって経済的に停滞し、今や新興大国とは言えないブラジル、ロシア、南アフリカに多大な名声、地位、正当性をもたらします。

ブラジルは世界のGDPに占めるシェアで遅れをとっているにもかかわらず、アナリストらは同国を新興大国だと評価し続けており、そのおかげで投資が容易になり、ブラジル政府が外交面でその立場を上回る力を発揮できるようにしています。

約20か国が現在このグループへの加盟を求めているということは、BRICSの肩書きが依然として強力であるという考えを裏付けています。

 

まさにこの最後の問題に関して、このグループは発足以来最大の意見の相違に直面しています。

中国政府は、長年にわたり、新しい加盟国を加えて、ブロックを中国主導の同盟に徐々に変革することを目指してきました。

2017年に「BRICSプラス」構想を発表して以来、中国政府はグループ拡大を議題に据えようとしてきました。

ウクライナ侵攻後、ロシアを孤立させようとする西側の試みに対抗するため、グループの拡大はロシアにとっても好都合と思われます

 

一方、ブラジルとインドは、小規模な国を含む相互関係が希薄な組織から得るものが少ないため、BRICSの拡大には長年慎重でした。

彼らは、新規加盟国が主に中国へのアクセスを容易にするために参加し、BRICSがより中国中心となる事を危惧しています。

 

BRICS メンバーになるための正式な申請プロセスや特定の基準はありません。

しかし、昨年のBRICS首脳会議の宣言では、加盟国は「BRICS拡大プロセスに関し、指導原則、基準、基準、手順を明確にする必要性」を強調しました。

BRICS拡大に関する議論はBRICS銀行であるNDBとは直接関係がありませんが、同行は2021年にバングラデシュ、エジプト、アラブ首長国連邦、ウルグアイを新たな加盟国に加え、融資の少なくとも30%をドル以外の加盟国の通貨で提供すると発表しました。

岐路に立つBRICS

グローバルサウスという言葉が最近よく使われていますが、グローバルサウスを牽引しているのが正にBRICS諸国と言って良いでしょう。

米中の対立が深まる中、中国はこのBRICSを基盤に米国との戦いを有利に運ぼうとすると思われます。

プーチン大統領は来年のパリオリンピックに対抗して、BRICSを中心とした友好国を集めて国際スポーツ大会を行う事を検討している様ですが、そこには上海協力機構のメンバーも招待される可能性があるとの事でした。

最近米国との関係が悪化しているサウジアラビアなど中東諸国も参加するかもしれません。

西側諸国と中国を中心とするグローバルサウスがお互い陣取り合戦をやっている中、鍵を握りそうなのはインドと思われます。

現在モディ首相が米国の国賓として訪米していますが、彼はイスラム教徒に対する虐殺を阻止しなかったとして米国の入国ビザを断られた経緯があります。

そんな人物を国賓として受け入れざるを得ないほど、米国はインドを味方に取り込こむ必要に駆られている様です。

しかしインドは非常にしたたかな国ですので、そう簡単に米国寄りになるとは思えません。

双方の陣営を天秤にかけ良い所どりをするでしょう。

現にロシアから大量の石油や武器を購入しています。

西側諸国にとっては厳しい戦いが続きそうです。

 

最後まで読んで頂き有り難うございました。