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独ワイヤーカード社の会計不正の本質

 

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ワイヤーカード社の会計不正に関する疑問

独フィンテック企業のワイヤーカード社の会計不正疑惑は、世界中を驚かせました。

先日、彼らがフィリピンの銀行に保有すると主張する現金(約2,300億円)が行方不明になった事から端を発した事件は、同社の経営破綻にまで一気に広がりました。

一時は3兆円に迫る時価総額を誇っていた会社が、一瞬にして蒸発したこの事件については、良く理解できない部分が多かったのですが、英紙Fincncial Times(FT)が詳細なレポートを発表しました。

驚くことにFTは、この問題を18ヶ月も前から疑惑調査チームを構成して、追っかけていた様です。

この疑惑に関して、主たる疑問は下記の通りかと思います。

  1. ワイヤーカードって一体何をやっている会社か。
  2. どういう手口で詐欺をおこなったのか。
  3. 独当局や会計事務所はなぜこの詐欺を見破れなかったのか。

これらの疑問に対して、FT担当記者は次の様に説明してくれています。

ワイヤーカードって一体何をやっている会社か

1999年に設立された同社は、ドイツのミュンヘン近郊に本社を持ち、欧州で事業を開始しましたが、その後事業を急拡大させ、現在では、世界40カ国以上に拠点を持つに至りました。

事業の内容は、伝統的なPOS(レジでの商品販売統計システム)やカード事業に加えて、近年では、NFCなどのモバイル決済事業やフィンテック事業にも事業を拡大させており、欧州で最大のフィンテック事業者と見做されていました。

ドイツの代表銘柄として、株式指数であるDAXの構成銘柄にも指定されており、製造には強いが、金融分野ではイマイチと言うレッテルを貼られていたドイツにおいては、期待の星といった存在でした。

FTは昨年一月の段階で、既に同社の会計不正疑惑を報じましたが、同年6月にソフトバンクは9億ユーロ(1,100億円)の投資を同社に行い、5.6%の株を取得しました。

どういう手口で詐欺を行っていたのか

同社のサービス内容は、同業他社と違わない内容と思われましたが、大きく凌駕する利益を生み出していました。

同社は、他社より高度なフィンテック技術を使用しているからだと説明を行っていた様です。

ワイヤーカード社はFTの「これだけの利益を出しているのなら、現金はどこにあるのですか。」という質問に対して、「我々の支配下にはドイツの銀行(ミュンヘン銀行)もあるが、そこには現金をおいていない。我々はドバイやシンガポールの銀行にEscrow Accountを置いており、そこから現金を引き出すことが可能だ。」と説明していた様です。

しかし、FTの執拗な追求に返答に窮したのか、ワイヤーカード社は、攻撃的な弁護士を起用し、「FTは、ワイヤーカード社に関する不利な情報を、ヘッジファンドに事前に流して、株価を操作し、ヘッジファンドの空売りを助けている。」などと、FTを非難し、その報道を妨害していたそうです。

独当局や会計事務所はこの詐欺を見抜けなかったのか

ドイツの金融監督庁であるBaFin、ワイヤーカード社の言い分を信じ、ヘッジファンドとFTの関係に関する疑惑に関して、捜査を行ったそうです。

ドイツ当局の取材妨害はひどいものだったと記者は語っています。記者は全てのメールを当局にチェックされ、尾行されたそうです。

ドイツ金融当局の監理の甘さは、今後の捜査で明るみに出ると思いますが、戦後最大級の詐欺を見抜けなかったばかりか、それを告発したFTを逆に捜査したドイツ金融当局の責任は重いと言わざるを得ません。

又、ワイヤーカード社の会計監査を担当した世界的な会計事務所であるErnst & Young(EY)社の責任も重いと思われます。

日経の報道では、2016-18年の間、ワイヤーカード社がシンガポールの銀行に保有していると主張した1200億円に上る現金の確認を怠ったようです。

事実だとすれば、監査法人としての基本的な義務を怠ったと批判されても仕方がありません。

この事件が与える影響

今回の事件は、ドイツ金融業界の希望の星と思われていたワイヤーカード社が、巨額の会計不正で経営破綻すると言う結末に終わりました。

これは、今後、欧州の金融界において、大きな影響があるものと思われます。

ブレグジットが決定し、金融ハブとしてのロンドンの機能が、一部大陸に移るのではないか、その場合、フランクフルトは有望な受け皿になるのではないかと噂されていた矢先に、この事件は起きました。

金融は信用が何より重要です。その意味で、金融業を監督するドイツ政府の力量に疑問符がついてしまいましたので、ダメージは大きいと思います。

伝統と信用に支えられたロンドンの金融街シティは、当面、欧州金融ハブの座を他には譲らないのではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。