中国からの「誕生日プレゼント」
国家安全法の制定により、中国は香港の一国二制度を事実上終焉させましたが、中国の高官は、国家安全法を香港に対する「誕生日プレゼント」と呼んだそうです。
確かに、7月1日は香港が英国から返還された日ですが、この呼び方は香港市民の反感を買うと思います。
一方、7月2日香港の株式市場は2.8%もの上昇を示しましたが、これには裏がある様です。
ウォールストリートジャーナルによれば、香港当局は広告代理店に630万ドル(6億7千万円)も支払い、「香港の再起動」と名付けるキャンペーンを行ったそうです。
しかも、この広告代理店は、あのカショギ記者殺害事件で評判を落としたサウジアラビア政府が、権威主義的なイメージを払拭するために起用した会社でした。
中国の死角はどこか
コロナウイルスが世界的蔓延を見せる中、一人傍若無人に振る舞っている様に見える中国に死角はないのでしょうか。
この観点で一番重要なのは、やはり米国の制裁だと思います。
7月2日、重要な法案が米国上院を通過しました。しかも満場一致です。この法案は香港の自治を脅かす中国の当局者及び彼らと取引する銀行、企業に制裁を課すための法案です。
米国の金融制裁は、現在、イランが苦しんでいる通り、相当効果があります。対イランと同じレベルの制裁になるかどうかは不明ですが、中国にかなり大きなダメージがある事は間違いないでしょう。
この法案は即座に大統領府に送られました。さて、トランプ大統領がこれに署名するかどうかがポイントです。
トランプ大統領は、ボルトン補佐官の回顧録に書かれている通り、自分の再選が最重要で、米国産農産物の輸入という切り札を中国側に握られています。
言葉では中国を厳しく批判しますが、振り上げた拳を最後は引っ込めるだろうと中国側はたかを括っている様ですが、この法案をどう処理するでしょう。
結論から言えば、トランプ大統領は対中制裁法案に署名する可能性があります。というのは、大統領選に暗雲が垂れ込めているからです。
最近の世論調査ではバイデン 候補に15ポイントもの大差を付けられています。
現時点では、当選の見込みが立ちません。当選するためには、相当思い切った手に出る他はありませんが、それほど多くの選択肢はありません。
一つは討論会で、バイデン をやりこめる或いは失言を引き出す事ですが、これだけでは足りません。
親中派と見做されているバイデン候補 に大きな差をつけるため、中国に対して容赦しない大統領というイメージを出す必要があるでしょう。
トランプ大統領は通常の状態であれば、このリスクを踏む事はありませんが、これだけ大差をつけられると、起死回生の一発を狙うしかない訳です。
今回の法案は上院の全会一致で可決されています。共和党も民主党も中国に対して強い制裁を行うべしという点で共通の認識が出来上がっています。
この状況下、トランプ大統領が法案に署名を拒否すれば、中国に対して弱腰とのレッテルを貼られるのは間違いありません。これも大統領の重い腰を上げさせる理由となるでしょう。
国家安全法導入が中国自身の首を締める恐れ
中国には慢心と恐れとが混在している様な気がします。
「もともと香港は中国のものだ。今回の国家安全法の導入で、多少欧米諸国との関係がギクシャクするかも知れないが、最後は中国市場の魅力の前にひれ伏すだろう。香港もこれまで以上に経済ハブとして繁栄していく。」というおごりと
「一国二制度で自由を満喫している香港の民主化運動は、放置すると中国からの分離運動に発展しかねない。そうなれば台湾やチベット、ウイグルといった地域に飛び火していく。」という恐れです。
中国は、将来、今回の強権発動を悔やむ日が来るのではないでしょうか。
香港については、あと27年待てば、熟柿が落ちる様に、香港の一国二制度は終わりを告げるはずだったのです。
どうして待てなかったのでしょうか。英国は1997年の中英共同宣言の一方的違反であると主張しています。中国は国際法上の約束を守らない国だと非難されているのです。
そればかりか、香港が金融ハブの地位を失う様な事があれば、中国に与える経済的損失も莫大なものになります。
今回の国家安全法の導入は、当然台湾にも影響します。
台湾の人々は、今回の中国の対応を見て、一国二制度などというものを信じなくなったでしょう。
香港をもう少しソフトに扱えば、台湾にも親中政権を作り出すことができたはずです。そうすれば、台湾を平和裡に中国に取り込むことが可能だったでしょう。
今の中国の戦略の問題は、やはり独裁的な政治制度に起因しているのではないでしょうか。
政府に対する批判を行う野党も健全なメディアも司法もありませんので、どうしても意見が独善的になってしまいます。
自分が他者からどの様に見られているのかという客観的な視線が欠如している事や、政権トップにおもねるばかりに、正しい情報が上層部に伝わっていない様な気がします。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。