米国大統領選まで100日を切りました。
世論調査では相変わらずバイデン氏がトランプ大統領を大幅にリードしています。
バイデン氏は、デラウェア州の自宅の地下室から、オンラインで時折有権者に呼びかけるだけで、公の場にはほとんど登場せず、穴熊作戦を決めている様です。
トランプ大統領はこれを見て、Hiding Biden と呼んで揶揄しています。
おそらくは、トランプ大統領への批判の高まりを考えれば、何もしない方が得策と考えている様ですが、大統領選直前の3回の公開討論会には出席せざるを得ませんので、そこで世論が大きく変わる可能性はあります。
今回大統領選の最大の論点は中国になる事が予想されます。
この点について英誌「Economist」が「トランプとバイデンどちらが中国に甘いか」と題して記事を出しましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
中国は大統領選において最重要争点
この数週間、米国政府は中国に対して下記の様な厳しい措置を矢継ぎ早に講じました。
- ウイグルでの弾圧に関して、政治局のメンバーを含む中国高官に制裁を課した。
- 南シナ海における中国の主張は違法だと宣言した。
- 外交と貿易に関する香港の特別な地位を取り消した。
- 人民解放軍のスパイ4名を告発した。
- スパイ活動の拠点としてヒューストンの中国領事館閉鎖を命じた。
トランプ大統領はこれまで、中国に対して貿易以外あまり関心を持ちませんでした。
習主席に対しては個人的な親近感を示し、ボルトン前大統領顧問によれば、ウイグルの収容所建設に関して、習主席に「良い事だ。」とまで発言したそうです。
しかし、大統領選が迫る今日、コロナ感染拡大に関する彼への非難を避けるために、彼の周囲は、これ迄とは大きく異なるスタンスをとる様に大統領に進言している様です。
7月23日カリフォルニアのニクソン記念図書館でポンペオ国務長官は、中国の政権が世界の自由と民主主義にとって最大の脅威であり、中国が国境を超えて、そのイデオロギーと統制思想を輸出しようとしていると厳しく非難しました。
米国での広範囲なスパイ活動を批判し、習主席は世界的覇権を狙っていると指摘した上で、「米国とその同盟国は中国を変革させなければならない、さもなくば世界は習主席の全体的思想に屈服せざるを得ない。」と語りました。
このスピーチの中では触れられていませんが、明らかに標的にしているものがあります。
それはバイデン大統領候補です。
トランプ氏は、バイデン候補が副大統領時代、中国の脅威を過小評価したとして、中国に対して弱腰であると印象付けようとしています。
ある米国高官によれば、最近の政府の一連の動きの背景には、誰が大統領になろうが、後戻りできないところまで米中関係を持っていくと言う考えがあるそうです。
ウイグルと香港の人権問題に関して厳しい立法措置を取った米国議会の党派の違いを超えた協力を得て、上記構想は現実に近づいたと政権の一部は認識しています。
政権外のタカ派(この中にはバイデン氏に投票すると公言している人を含む)の中には、気候変動や核兵器削減などの問題に関して、中国の協力を得ようとするばかりに、バイデン氏が習主席に融和的になるのではと心配する向きもあります。
本当に彼はそうなるでしょうか。
中国に甘い人間はもういない
バイデン氏の顧問はこれに下記の通り反発します。
- 人権侵害で中国を非難することで、道徳的権威を回復する。
- 同盟国と協力して中国にその行動を変える様働きかける。
- 自国で5Gの様な先端分野を強化する。
バイデン陣営は上記三つの分野全てにおいて、トランプ政権は中国に対して、米国の立場を弱めていると指摘しています。
中国の独裁者に対して、人権問題を黙認する一方、同盟国との関係を傷つけたと批判しています。
トランプ政権の官僚たちは大統領の指示ではなく、自らの判断で中国に対して厳しい措置をとる様になっています。
彼らはHuaweiへの米国からの技術移転を阻止することに成功し、同盟国からのHuawei社の排除に関する協力も取り付けました。
FBIは中国のスパイ活動に関する積極的なアプローチをとっています。
国務省は3千人もの大学院生のビザを取り消しました。
国防総省は南シナ海における航行の自由作戦を活発に行っています。
最も挑発的な決断は、台湾総統である蔡英文への支持を示したことでしょう。
これは、米中関係の最もデリケートな側面の1つをテストしました。
政府高官は、何十年にもわたるリスク回避型外交の後で、中国の行動にコストを課すことを決意していると述べています。
バイデン氏が、「オバマ政権は中国に対して厳しかった」と主張すれば、弱い立場に追い込められます。
より説得力のある議論は「トランプ氏はタカ派の側近に取り囲まれているが、彼自身はタカではない。」というものです。
トランプ大統領は、一旦合意した貿易協定を危険に晒したくなかったため、彼がウイグルの問題に関しての制裁を遅らせた事を認めました。
大統領は、より過激な措置をとることをいとわないでしょうか?
スタッフが最近検討したアイデアには、9200万人の共産党員とその家族がアメリカを訪問することの禁止、または香港の中国の銀行に対する制裁が含まれます。
現在、これらはトランプ氏にとって挑発的すぎるかもしれませんが、選挙が近づけば、具体化する可能性があります。
中国の一部の当局者は、トランプ大統領がアメリカの戦略的地位を弱め、中国の立場を強化したという理由で、トランプ氏が勝つことを望んでいると言われます。
バイデン氏は、主義主張を貫き、人権のような問題について厳しい人物と見なされるかもしれません。
その点では、バイデン氏に懸念を持っているタカ派でさえ、彼の誠実さを疑っていません。
中国は彼が副大統領だった時から大きく変わりました。
米中の暗い時代を終わらせるためには一回の選挙では足りないかも知れません。
米中対立はどこまでエスカレートするか
Economistの記事で興味深い点は、「最近の政府の一連の動きの背景には、誰が大統領になろうが、後戻りできないところまで米中関係を持っていくと言う考えがあるそうです。」と分析している点です。
確かに、米国世論の反中感情は急速に悪化しています。議会もリベラルから保守まで中国に厳しく当たることで一致しています。
今回の選挙はどちらが中国に厳しいかを競うコンテストと化していますので、選挙前にかなり厳しい措置が具体化される可能性があると思います。
例えば、香港への金融制裁(香港ドルのドルベッグ制廃止含む)や台湾の国家承認といったものが実行されれば、世界中に激震が走ります。
もちろん米国も返り血を浴びますが、今の米国の状況を考えれば、可能性はゼロではありません。
また、南シナ海での偶発的な軍事衝突も心配です。
南沙諸島を埋め立てて滑走路を建設するなど中国も無茶をやっていますが、米国はこれを認めておらず、今後同海域でも緊張が高まる事が予想されます。
米国政府は、共産党の一党独裁という体制そのものを問題視しており、こうなってくると中国も後ろに退けません。
旧ソ連が崩壊するまで続いた冷戦に近い状態が続く事が予想されます。
冷戦と違うところがあるとすれば、中国経済は当時のソ連と違い、規模も大きく、世界のサプライチェーンにしっかり組み込まれている点です。
日本は中国との貿易額が3割ほどを占めており、米中関係が悪化すれば、大きな影響を受ける事が予想されます。
誰が大統領になろうが、米中関係は当面厳しい期間が続くと思われますが、その中で、日本としては米国との同盟関係を維持しつつ、経済的には中国と上手く付き合うという芸当をうまくこなす必要があります。
ものは考え様で、米中関係が順調な時は、日本の重要性は失われます。米中冷戦の時代にこそ、両国から重宝がられるのは日本かもしれません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。