トランプ政権の後味の悪さ
トランプ政権がホワイトハウスを去る直前にとった行為は、後味の悪いものでした。
バイデン政権を妨害するため、そして後から自らの手柄にする事ができるように巧妙に計算された判断だったと思います。(決して成功したとは思えませんが)
その中でも極め付きが中国政府のウイグル人弾圧を「Genocide(大量虐殺)」とポンペオ国務長官が批判した行為でした。
英誌Economistがさっそくこの問題を取り上げ、Before leaving office, Mike Pompeo accused China of genocide(国務長官を辞める直前に、マイク・ポンペオは中国の大量虐殺を糾弾した)と題した記事を発表しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
トランプ政権の国務長官としてとった最後の行動の1つとして、マイク・ポンペオは、中国によるウイグル人の弾圧を「ジェノサイド」であると宣言しました。
ポンペオ氏の後任としてバイデン大統領に指名されたブリンケン氏は自らの指名に関する公聴会においてこの宣言に同意するかと質問され、同意すると述べました。
権力が移行するこの時期に、中国国内での残虐行為に関して、米国はどの国よりも厳しい言葉を採用しました。
これは緊張を高め、中国と新政権との関係を困難にするでしょう。
ポンペオ氏による「ジェノサイド」という用語の使用は、公的な法的効果を伴うわけではありません。
トランプ政権は、ウイグル人の強制労働による生産を理由に、新疆ウイグル自治区からの綿またはトマトで作られた商品の輸入禁止を宣言していますが、 バイデン氏は、中国を罰するために、これ以上の行動を取る義務はありません。
しかし、ポンペオ氏の声明に対するブリンケン氏の合意は、ウイグル人の人口増加を制限するために女性が強制的な中絶にさらされた新疆ウイグル自治区に関する米国政府の批判をエスカレートさせました。
国務省の弁護士は、「ジェノサイド」が正しい用語であるかどうかについて議論した様です。
ジェノサイドとは、人民や民族の大量殺戮を意味し、新疆ウイグル自治区に関して、この意味で中国を非難した人は誰もいません。
ただし、国連のジェノサイド条約では、この用語をはるかに広義に定義しており、殺害を伴う必要はありません。
「出生を防ぐことを目的とした措置」は、その目的が国、民族、人種、または宗教のグループを「全体的または部分的に破壊する」ことである限り、「ジェノサイド」と見なされます。
多くの政府は、この国連条約を受け入れることに消極的でした。
おそらく、それがかなり多くの政府に適用される可能性があるためです。
アメリカ国務省は以前、ルワンダでのツチ族やイスラム国によるヤズィーディーの虐殺などのみを大量虐殺として説明しました。
しかし、国務省当局者によると、2020年に新疆ウイグル自治区での強制不妊手術の範囲について明らかにされた情報は、「ジェノサイド」が適切な言葉であると関係者を説得するのに役立ちました。
ポンペオ氏がそれを国務長官としての最後の一日だけ採用した事は、彼が結果に対処する責任がないだけに、日和見主義者として印象づけました。
彼は2024年に大統領に立候補するかもしれません。
中国は激怒しています。
1月21日、ポンペオ氏他28人のアメリカ人に、中国に対する「正気とは思えない行為」に対して制裁を課しました。
中国の報道官は、ポンペオ氏を厳しく批判しましたが、新政権を攻撃することは避けました。
中国政府は、バイデン氏が両国関係を落ち着かせようとするのではと期待しているのかもしれません。
それでも、アメリカがジェノサイドという言葉を発した今、問題は他の西側政府もそれを使うかどうかです。
ポンペオ氏も使用した「人道に対する罪」のような言葉をを好む国もいるかもしれませんが、これを中国が否定するのは遥かに困難です。
世界がウイグル人に対する迫害と呼んでいるものが何であれ、それを止めるのは難しいでしょう。
今月、カナダと英国は、強制労働で作られた商品の輸入を阻止する措置について漠然とした発表をしました。
しかし、制裁を課すようアメリカに追随した政府はまだなく、国際機関も中国に説明を求めようとはしていません。
多くの多国籍企業が静かに新疆ウイグル自治区からサプライチェーンを引き揚げようとしていますが、公式声明を発表した会社はごくわずかです。
先月、欧州連合は、強制労働の問題に表面上触れただけで、中国との投資協定に合意しました。
バイデン氏はトランプ氏よりウイグルの問題にもっと注意を払うかもしれません。
元国家安全保障顧問であるボルトン氏によれば、トランプ大統領は2019年に習近平主席に対して、ウイグル人のためのキャンプを建設することは「まさに正しいこと」であると語りました。
トランプ氏は、ジュネーブの国連人権理事会からアメリカを撤退させました。
バイデン政権はそこに戻ることが期待されています。
この理事会は新疆ウイグル自治区における中国の残虐行為に関する決議を導入したことは一度もありませんが、バイデン氏が支持すれば変わる可能性があります。
冬季オリンピックは2022年2月に北京で開催される予定です。
人権団体はボイコットを要求し、一部のアメリカの上院議員は会場を別の国に移すことを要求しました。
バイデン氏の当局者は、彼らがそのような行動を支持するかどうかについてはコメントしていません。
しかし、一部のアスリートやファンはゲームに参加しない事を選ぶかもしれません。
ポンペオ氏の日和見主義
過去を振り返れば、トランプ政権が中国のみならず世界の人権問題に一貫して無関心だった事は明らかです。
トランプ氏にとってみれば、人権も取引の材料の一つ程度だったと思います。
ウイグルにしても香港にしても、人権問題に本気で取り組んだとは思えません。
ウイグルの強制収容所に関しても、Economistが伝えるように、習近平主席に対してトランプ大統領は「正しい事」と称賛しているくらいですから、全くやる気がなかった事は明らかです。
そのトランプ氏の右腕であったポンペオ国務長官が、オフィスを離れる直前に中国政府を激しく批判するというのは全くもって笑止千万であり、バイデン政権に対する妨害行為以外の何者でもありません。
ウイグルの問題はバイデン政権も問題視していますので、今後それほど大きな問題にならないと思いますが、キューバのならず者国家指定などは、バイデン政権を妨害しようとする意図が明らかです。
立つ鳥跡を濁さずという言葉がありますが、トランプ政権は後世に残る悪い例を示してしまった様に思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。