急激なトルコリラ安
ここ数日トルコの通貨リラが急落しています。
つい先日まで、一ドルあたり6.8辺りを前後していましたが、今週は7.2から7.3辺りまで上昇しています。
私もトルコの銀行に、幾ばくかのリラを保有していますので、気になっています。
日本には高金利のリラに魅力を感じて、FX投資を行っている方もおられると思いますので、トルコの経済状況、大変心配されていると思います。
昨日、米紙Foreign Policyが「エルドアン政権は経済問題を民間銀行に包み隠した」というタイトルで記事を掲載しました。
欧米のメディアの論調は、最近トルコの政権に対して極めて厳しく、この記事も政治的なバイアスが含まれているものと思われます。
この点は計算に入れて、記事を読む必要があると思いますが、西側のトルコ分析として興味深いものがあり、ご紹介したいと思います。
Foreign Policy 記事要約
国は税収等の収入以上の支出を行うと赤字財政となります。
赤字を埋めるために、国は債権を発行しますが、この額が大きくなると債権の借入コストが大きくなり、最悪の場合、債務の返済不能「デフォルト」となります。
アルゼンチンやギリシャなどはこの道を辿ってきました。
トルコも身の丈以上の支出を行っていますが、統計上は国の債務はそれほど大きく表示されません。
彼らは真のエキスパート以外見つけられない様な方法で、経済システムの奥底に彼らの債務を隠しているからです。
2008年のリーマンショック以降、米国の連邦準備制度(FRB)は、米国の景気を支えるため、ドルの金利を低く抑えてきました。
これは米国民だけでなく、トルコの様な外国人にとってもドル借入コストが下がることを意味します。
トルコの銀行は低金利に目をつけ、ドルを大量に借り入れました。
トルコの銀行は借りたドルをどうしたでしょうか。
銀行は資金を必要とする観光、エネルギー、インフラ、不動産などの業界のトルコの企業にドルを貸しましたが、金利が低いため、リラよりもドルでのローンが好まれました。
これらのセクターでは収入がトルコの通貨リラでしたが、返済はドルと言うことになります。
リラがドルに対して大幅に下落するとどうなるでしょうか。
多くの企業が返済不能に陥ります。
こういった返済不能が頻発すれば、今度は銀行危機に繋がりかねません。
一方、トルコの個人向けのローンは主にリラ建てでした。
彼らが住宅や車を買うためのローンはリラ建てですので、銀行は借りたドルを市場でリラに交換し、個人に貸し付けました。
このリラの金利が急上昇するとどうなるでしょうか。
銀行の収益を圧迫し、銀行危機の火種になりかねません。
過去数ヶ月、コロナ感染が世界経済を直撃し、トルコの様な新興国も大きな影響を受けました。
トルコリラが下落すると、輸入品の価格が上昇し、インフレが発生しますので、トルコ政府はリラ防衛に踏み切りました。7月まで彼らはその作戦に成功しました。
しかし、通貨の防衛には大量のドルが必要です。
中央銀行の通貨準備が底を尽きかけたので、中央銀行は民間銀行に溜まっていたドルを借り始めました。
今年中央銀行は540億ドルものドルを民間銀行より借りたと言われています。
トルコ政府のリラ防衛資金は底をつきかけています。
トルコ政府はどうすれば良いのでしょうか。
トルコリラの下落を放置すれば、ドル建て債務を抱えている企業は返済不能に陥り、銀行危機に繋がるリスクがあります。
利上げは通貨防衛には効果があるかも知れませんが、景気の悪化をもたらします。いずれの手も危険です。しかし、何もしないのは最悪です。
リラはとにかく下落し、不況は長引く事でしょう。
トルコ政府の経済実験は束の間の安定をもたらしましたが、銀行システムの奥底に経済の問題を隠し続ける事はできません。
トルコ経済の反発力
海外メディアの記事を読むときには、政治的、宗教的バイアスがかかっている可能性に気をつける必要があると思います。
日露戦争の時に英国は、日本に賭けました。
彼らは日本国債を買い、日本に大量の兵器を売りました。
有名な日本海海戦で主力として戦った旗艦三笠以下主要な軍艦は英国から購入したものです。
多くの日本兵の犠牲の上で、日本はロシアに辛勝しましたが、誰が一番利益をあげたかと言えば、英国です。
彼らは一兵の犠牲もなく、宿敵ロシアに打撃を与え、大量の兵器輸出で儲け、さらには日本国債購入やロシア国債の空売り等で、債権市場で巨万の富を手にしました。
しかし、英国が日本と組んだ理由は決して人道的な理由などではないはずです。
パーマストン元英国首相の「永遠の味方も永遠の味方もない。あるのは永遠の国益だけだ。」という言葉が彼らの考え方を象徴しています。
従い、額面通りに彼らの言っている事を信じるのは危険だと思います。
もちろん、今回の経済危機がかなり深刻なものであることは、事実でしょう。観光業を重要な収入源とするトルコはコロナの影響も大きいと思います。
トルコ政府の経済政策が、ここのところあまり効果を発揮できていない点も気になります。
これまで何度も同じ様な危機を乗り越えてきたトルコの強靭な反発力に期待したいところですが、今回の不況は長く続くかも知れません。
しかし、8千3百万人の若く勤勉な国民を抱えるトルコは、地理的な重要性もあいまって、長い目で見れば、必ず成長していくことと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。