エルドアン大統領自らガス田発見を発表
トルコのエルドアン大統領は、21日黒海で大型のガス田が見つかったと発表し、次の様に報道陣に語りました。
「トルコはその歴史上最大のガス田を黒海で発見した。
我々は9つの掘削を行ったが、採掘船『Fatih』が行った最後の掘削により、3,200億立方メートルのガス田が見つかった。」
この3,200億立方メートルという量は、トルコのガス需要量の10年分にも満たないのですが、エルドアン大統領は「これまで入手したデータから、更に大きなガス田が見つかる可能性が高い。」と述べています。
更に、エルドアン大統領は「トルコ共和国建国100周年にあたる2023年にもガスの採掘を開始できるだろう。トルコは将来エネルギーの純輸出国になるであろう。」と語っています。
アルバイラック財務大臣も「今回の歴史的な発見により、トルコの財政赤字の問題は解消されるだろう。」と語りました。
ロシア、イランに依存するトルコのエネルギー安全保障問題
エルドアン大統領自らが発表に加わるほど、トルコ政府が興奮するのも無理はありません。
トルコはエネルギー資源が無く、毎年400億ドル(4兆円)を超えるエネルギー資源を外国から輸入しているからです。
トルコが経済成長すればするほど、エネルギー資源への需要も高まりますので、トルコは巨額のエネルギー資源輸入による慢性的な貿易収支の赤字に悩まされてきたのです。
もし、この黒海のガス田が採掘可能になり、トルコがエネルギー資源輸入から解き放たれれば、トルコにとってこれほど幸運な事はありません。
トルコがガスを輸入しているのは、ロシア、イラン、アゼルバイジャンと言った国々ですが、兄弟国のアゼルバイジャンは別として、ロシアもイランも歴史上何度も戦火を交えた国です。
そんな国からエネルギーを輸入しないといけいないというのは、トルコのエネルギー安全保障上望ましい状態ではありません。
自国のガスでまかなえる様になれば、ロシアやイランに首根っこを抑えられているという状況からも開放されるのです。
プロジェクトの難易度高い
しかし、ぬか喜びはまだ早そうです。
欧米のメディアはかなり辛口の論調で、今回のトルコ政府の発表を伝えています。
ロイターは「ガスが使用可能になるまでに10年はかかるであろう。黒海の深さは採掘を困難にし、高価なものにする。おそらく数十億ドルのコストがかかるであろう。しかもタイミングの悪い事に、市場は供給過剰で、エネルギー価格は大きく値下がりしている。」
フランスの経済紙「Les Echos」は更に厳しく「現時点では、トルコ政府の発表は政治的な意味合いしか持たない。」と断じ、専門家の意見として、Wood Mackenzie社の次の様なコメントを引用しています。
「2023年の運転開始というのは余りに大胆な目標設定でしょう。
更なる調査がこのプロジェクト開発には必要です。
深海でのガス田開発はいかなる環境でも困難が伴います。
黒海にはその上、ロジスティック上の問題があります。
今回ガス田が見つかった場所から100 kmも離れていない地点でガス開発を試みたルーマニアのプロジェクトは頓挫しました。
トルコはガス田開発に関して、全く経験がありません。
トルコのエネルギー開発公社TPAOは外国のパートナーと組まざるを得ないでしょう。」
トルコのドンメズ・エネルギー相はガス田が水深2,100メートルに位置していると説明。採掘は海底から1400メートルに達したとし、「さらに1,000メートル掘る。データによると、そこでもガスが見つかる」と語りました。
黒海というのは意外に水深が深い事で知られています。2,000メートルを超える水深での採掘作業は難易度が高そうです。
以前、ロシアからトルコ向けにガスを供給するブルーストリームという海底パイプラインプロジェクトが実現されましたが、2,000メートルを超える海底に敷設するパイプは信頼性が重視され、日本の鉄鋼メーカーの特殊なパイプが使用されました。
この推進の深さはプロジェクトの難易度を高め、コストを押し上げます。ガスが市場に余っている状態で、プロジェクトの採算性が確保されるのか心配されます。
トルコの狙い
このガス田発見が、トルコ経済に好影響をもたらす事を大いに期待したいところですが、今回の政府発表には隠れた狙いもありそうです。
最近のトルコリラの下落を食い止めたいとのトルコ政府の思惑があると推測されます。
下のグラフをご覧ください。
コロナの影響を受けて、新興国通貨であるブラジルレアル、南アランドなどが暴落していますが、トルコリラも7月末より大きく下落しています。
トルコ政府も自国通貨防衛の為に、ドル売り介入を続けた様ですが、保有外貨にも限界がありますので、防衛に苦労している様です。
トルコ政府は、自国のガス田開発が、トルコリラ安の主たる原因であるエネルギー資源の輸入を抑える事が可能になると、市場並びに国民に発信したかったのではないかと思います。
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