日本に供給されるはずの英国製ワクチン
世界保健機関(WHO)によれば、現在170カ国で新型コロナウイルスに対するワクチンの開発が進められているそうです。
コロナ感染を食い止める為に、ワクチンの開発が何よりも重要である事は言うまでもありません。
有効で安全なワクチンが開発されれば、単にコロナ感染者が急減するだけでなく、心理的にポジティブな効果が生まれ、世界経済も一気に上昇に転じる事でしょう。
既にワクチンの開発が最終段階である第三フェーズに入っている企業が何社か現れています、
そんな中、本日見逃せないニュースが飛び込んできました。
BBCはオックスフォード大学と共同で開発を進めている英国の製薬大手アストラゼネカ社が、臨床試験を中断したと報道しました。
臨床試験を行った被験者の一人に「原因不明」の症状が現れた様です。
アストラゼネカ社の開発は既に数週間前から第三フェーズに入り、約3万人の被験者が試験に参加していました。
このニュースが重要なのは、日本が購入を予定しているワクチンの一つがこのアストラゼネカ社のものだからです。
安倍首相は退陣を発表する直前、ワクチンの購入方針を公表しました。
その中で、2021年前半までに全国民に行き渡るだけの量を確保したと説明しています。
そして英アストラゼネカ社と米ファイザー社の2社からそれぞれ1億2千万人分のワクチンを購入できる見通しも発表しています。
アストラゼネカ社と同様にファイザー社の開発に問題が生じる様なことがあれば、来年前半までにワクチンを確保すると言う目論見が崩れることになります。
開発競争でトップを走るのは誰か
現在、ワクチンの開発は急ピッチで進められていますが、ウォールストリートジャーナルの報道によれば、第三フェーズに入っているのは次の各社です。
- オックスフォード大学・英製薬大手アストラゼネカ
- 米製薬大手ファイザー・独バイオ医薬ベンチャーのバイオンテック
- 米バイオテクノロジー新興企業モデルナ
- 中国医薬集団(シノファーム)
- 中国民間企業の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)
- ロシアの国立ガマレヤ研究所
最終段階で安全性や保護の永続性を確認するには数カ月あるいは数年かかる場合もあります。
しかし、第三フェーズで前向きな中間結果が出れば、量産化または供給開始に向けて規制当局の承認を得るプロセスを始められます。
今秋、複数の有力候補の中間結果が出ると予想されています。
この中で、ロシアのワクチンに関しては、通常第三フェーズの結果が出てから、国家承認を得ると言う通常のプロセスを無視して、第三フェーズに入ると同時に国家承認を得ました。
プーチン大統領はこのワクチンを「スプートニク V」と称して自ら宣伝しており、政府肝いりのプロジェクトとして強力に支援している様です。
侮れないロシア
スプートニクはご存知の通り、世界最初に打ち上げられた人工衛星の名前です。
東西冷戦が始まり、米国とソ連の緊張が高まる中、米国に先んじて打ち上げられたスプートニクの成功は、米国に大きなショックを与えました。
もちろん人工衛星を打ち上げられると言う事は、大陸間弾道弾の様な兵器に軍事転用も可能ですので、米国は肝を冷やしました。
スプートニクの打ち上げは、その後、米ソの軍拡競争に発展しました。
プーチン大統領は、欧米に先行してワクチンを開発し、ロシアの科学レベルとの高さを国内外にアピールしたいものと思います。
ロシア人と言うのは、大らかな処は良いのですが、大国意識が高いのが特徴です。
ワクチン開発競争で欧米の鼻を明かしてやれれば、彼らの大国意識は強く刺激されるはずです。
勿論、第三フェーズの結果を出さずして、国家承認を出したロシアに対する批判やロシアワクチンに対する疑いは広がりを見せており、米誌Newsweekは次の様に批判しています。
「ロシアは、ワクチン『スプートニクV』について、最終段階の臨床試験が終了して効果が証明されるのを待たず、接種を開始する計画だ。だが、世界の専門家は、部分的な効果しか持たないワクチンの接種が、ウイルスの有害な変異を促す恐れがあると警告する。」
抗生物質を使い続けると、細菌が耐性を持つ様になりますが、同じ様に、ウイルスも十分な効果を持たなければ、ウイルスが突然変異するきっかけになりかねないと警告しているのです。
私は医学専門家ではありませんので、どちらの言い分が正しいかはわかりません。
しかし、ロシアは乗用車を作ったりする事においては秀でていませんが、基礎科学においては伝統的に優れた業績を上げています。
また、生物兵器の研究においては、米国と並んで世界の最先端を行っており、現在自然界から絶滅した天然痘のウイルスも米国とロシアのバイオセーフティレベル4の研究所のみで保管されています。
彼らの実力を侮るのは危険だと思います。
BBCも次の様に伝えています。
「英医学誌ランセットは4日、ロシアで開発された新型コロナウイルスのワクチンについて、初期の臨床試験で抗体反応がみられたとの試験結果を公表した。
この報告によると、臨床試験でワクチンを投与された全参加者に、新型ウイルスと戦う抗体が生成された。深刻な副作用はみられなかったという。」
プーチン大統領が、自分の娘にも接種させたと言うスプートニクVは、国家の威信を賭けたワクチンと思われます。動機は何であれ、人の命を広く救って欲しいと思います。
最後まで読んで頂き、有難うございました。