サイバー攻撃にさらされる米国大統領選
前回の選挙でも物議を醸しましたが、米国大統領選挙をターゲットにしたロシアなど外国勢力のサイバー攻撃は、今回も危惧されています。
今回はコロナ感染の影響もあって、郵便投票が多くの州で行われる予定ですので、不正投票が行われる危険性も高まっています。
郵便投票ですと、投票用紙が不正に入手あるいは偽造されれば、投票結果を左右しかねません。
選挙は民主主義の要である事は言うまでもありません。
しかし、その結果が外国勢力により左右されるとなれば、民主主義そのものが成り立たなくなります。
外国勢力は大統領選挙の結果を左右しようとしているだけではなさそうです。
彼らの標的は社会の分裂の様です。
この点に関して、米誌Foreign Policyが「The Real Hacking Threat」と題して記事を記載しましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreing Policy記事要旨
米国大統領選挙に関して、国家防諜安全保障センターのエヴァニナ所長は、米国のライバル達は「米国の政策を転換し、米国の不和を増大させ、米国民の信頼を損なわせる」ことを試みていると説明しました。
同センターの調べでは、中国はトランプ大統領を、ロシアはバイデン候補にダメージを与えようと動いている様です。。
しかし、1991年の建国以来、ロシアの偽情報キャンペーンとサイバー攻撃に悩まされてきたエストニアの国会議員ミフケルソン氏は「ロシアの干渉は、投票を一方または他方に振り向けることを意図するものではない。」と主張しました。
Facebookのセキュリティ責任者であるStamos氏もこの意見に同意します。
前回の大統領選において、誤解を招くコンテンツをソーシャルメディアに投稿したロシアの諜報機関(IRA)について次のように述べています。
「彼らのコンテンツの90%は候補者とは何の関係もありませんでした。それはアメリカ社会の分裂を促進することでした。」
アメリカの世論がトランプの勝利が公正であるかどうかについて意見が分かれていることに気付いたとき、ロシア人の狙いがが当たっていたことが明白になりました。
英誌エコノミストによる2月の世論調査によると、アメリカ人の大多数は、自国が外国の選挙干渉から身を守ることができるとは考えていません。
したがって、大統領選の結果がどうであれ、敗者の支持者は、外国勢力が投票を妨害したとして、結果の無効性を主張するでしょう。
中国、ロシア、その他の国が実際に投票を左右したかどうかは関係ありません。
重要なのは、有権者が外国勢力がそれをやったと信じているかどうかです。
米国はこの点において対処する必要があります。
米国の選挙ソフトウェアをアップグレードするだけでは不十分で、選挙への介入を図る外国勢力に対して、対価を払わせるなどの措置が必要です。
自由民主主義の国、米国は様々な形の外国の干渉に対して脆弱であることを認識しなければなりません。
一方、表現の自由は、自由民主主義の基盤ですので、この自由を制限することは、敵国の思う壺です。
外国の介入に対して耐性を持つ事が最も重要なのはそのためです。
ソーシャルメディアコンテンツを読んだり共有したりする前にその出所を確認する事や、出所の定かでないコンテンツを除外するソーシャルメディア企業、サイバー攻撃に耐えることができる信頼できる選挙システムなどが重要です。
相手の攻撃に耐えた後は、報復も必要です。
米国は軍事的には報復しません。
その代わり、非軍事的な報復手段をとる事ができます。
たとえば、ロシアや中国の侵入に対して報復するために、米国の大学に子供がいる事や、米国にある銀行口座の数など、これらの国の指導者に関する情報を公開することができます。
今日まで、西側政府は個人資産の凍結を通して、敵国の指導者を罰してきましたが。
しかし、時に名声はお金より重要な場合があります。
この新しい報復手段は個人を対象にしているので効果があります。
欧州連合はこのような罰を初めて採用し、4人のロシアの諜報員と2人の中国のハッカーに欧州への旅行禁止を課しました。
それ以来、中国政府やロシア政府による深刻な攻撃はありませんでした。
自由民主主義のアキレス腱
いやはや、ロシアも中国もそこまでやっているのかと驚きました。
開かれた自由な社会は民主主義の最も誇るべき特性だと思いますが、これはアキレス腱でもあります。
全体主義国家はこのアキレス腱を利用して、民主主義の根幹をなす選挙に対する国民の信頼を失わせようとしているんですね。
自分が支援する候補が選挙で負けた場合、選挙に不正があったのだと思えば、対立候補の勝利を潔く認められません。
昨日、触れた米国最高裁の問題も、この問題に拍車をかけるかも知れません。
選挙結果の判定に最高裁が関与する様な場合、最高裁が国民の信頼を失う可能性もあります。
選挙制度も司法制度も公正ではないと国民が感じ始めたら大変です。
民主主義システムそのものへの不信は社会の対立を激化させます。
それこそが全体主義国家が作り出そうとしている民主主義国家内の分裂です。
アメリカの国内で起きている保守・リベラルの激しい対立はひょっとすると、外国勢力が巧妙に煽って作りあげられたものかも知れません。
SNSというのは困った特性があり、抑えの効いたバランスの良い意見というのは拡散しにくく、怒りや嫌悪を呼ぶ様なニュースが拡散する傾向があります。
炎上するという言葉がありますが、わざと炎上する様な記事を書いてネット上での拡散を狙うブロガーもいます。
全体主義国家の戦略家はこういう民主主義の弱点、SNSの特性などを詳細に分析して、作戦を立ててきますので、民主主義国家は自国の政治システムが持つ弱点を十分認識して、対応する必要があると思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。