国を持たない最大の民族クルド
クルド人という民族をご存知でしょうか。
クルド人は自分の国を持たない最大の民族と言われています。その数は4千万人を上回り、トルコ、イラン、イラク、シリアに多く居住しています。
私の住んでいたトルコにも1500万人ものクルド人が住んでいるのですが、誰がクルド人か見た目ではわかりません。
完全にトルコに同化しているのです。
経済担当の副首相だったシムシェック氏は日本で行われた講演で、自らがクルド人である事を明かしましたが、彼に限らず政財界の著名な人物の中にクルド人が相当数存在しています。
これだけ大きな人口を持つクルド人の中には、当然のことながら独立して自分の国を持ちたいと考える人が出てきます。
しかし、この独立運動は各国で厳しく取り締まられてきました。
抑圧された独立運動の中から、過激な分子がPKK(クルディスタン労働者党)を結成し、このPKKは過去に多くのテロ活動を行い、国際的にもテロ組織として認定されるに至りました。
イラクでは北部を中心に相当数のクルド人が住んでおり、既にこの地域にはクルディスタン地域政府(KRG)と呼ばれるクルド人の自治区が存在します。
イラクで猛威を振るったイスラム国(IS)との戦いにおいて、KRGはPKKの力を必要としてきました。
しかしイスラム国は弱体化し。PKKの力は不要となり、KRGはPKKを取締る様になってきた様です。
この辺りの現状を米誌Foreign Policyが「Iraqi Kurds Turn Against the PKK」(イラクのクルド人はPKKに背を向けた)と題する記事で取り上げました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Policy記事要旨
イラクの北部に位置するクルディスタン地域政府(KRG)とクルディスタン労働者党(PKK)の対立は激しさを増しています。
10月8日のクルド国境当局者の暗殺と、11月初旬の主要パイプラインとKRG兵士への攻撃は、KRGとPKKの間の長い緊張関係に火をつけました 。
PKKは、米国、EU、トルコにより長い間テロ組織に指定されてきました。
また、2008年に米国から麻薬密売組織としても指名されています。
KRGとPKKの対立は、長い間続いています。
しかし、2004年当時、イスラム国は、広大なイラク領土を占領し、KRGの首都であるエルビル市も標的としていました。
PKKはイスラム国との戦いにおいては、確かに役立ちました。
しかし、今年に入ってから、イスラム国の脅威が大幅に減少したため、クルディスタン自治政府(KRG)は「イラク北部のPKKに対して行動を起こさなければならない」とイラク中央政府に行動を起こすよう促しました。
クルド人主導の人民防衛隊(YPG)内の多くは、シリアのイスラム国に対する戦いに参加する前に、トルコと対立するPKKの一部として何年も戦ってきました。
このため、シリアのイスラム国に対してYPGと一緒に戦った、西洋人を含む外国のいわゆるボランティアはYPGに同情を感じています。
一方、クルディスタン南東部のPKKに対する伝統的な支持も変化し始めました。
地元の人々は、この地域のティーンエイジャーがPKKによって「誘拐」され、戦闘員として採用されていると報告しています。
いくつかの国際機関は、PKKとその疑惑の「関連会社」(シリア北東部の米国が支援し、クルド人が主導するシリア民主軍(SDF)など)が引き続き少年少女を戦闘員として利用していることを批判しています。
バイデン 氏のクルドへの思い
何十年もPKKに所属し、現在は人民防衛隊(YPG)の最高軍事司令官であるアブディは、11月7日のインタビューで、バイデン政権について楽観的であると語りました。
アブディはPKKリーダーのオジャランの友人であり、バイデン氏は、親クルド人の政治家として広く知られています。
2016年初頭、バイデン氏はPKKを「イスラム国と同様に脅威」であり、「テロリストグループ」であると述べました。
多くの西側のメディアとは異なり、次期大統領は、クルド人の全ての組織が同じ目的を共有しているという間違った考え方に染まっていません。
しかし、バイデン氏はYPGをPKKの一部とは見なしていません。
トランプ大統領がシリア北部のクルド地域から軍隊を撤退させた後、バイデン氏は、「トランプはシリア民主軍であるYPGを裏切った」と述べました。
それでも、YPGの現在の指導者がPKKと数十年を共に過ごしたという事実、そしてその多くの人々がテロ組織に関連していたという事実は、イラクでのPKKの取り締まりがシリア東部のYPGにも影響を与えることを意味します。
問題の本質
PKKやらKRGやらYPGなどと沢山の組織名が出てきて混乱されたかと思いますが、現在の問題の本質は次の様にまとめる事ができます。
- クルド人のテロリスト集団であるPKKは昔から暴力を振るう無法者と嫌われてきましたが、イスラム国に対抗する上でクルディスタン地域政府にとって必要悪であると大目に見られてきました。
- しかしイスラム国の勢力が衰退する中、PKKは用無しと見なされ、掃討作戦がクルディスタン自治政府とイラク中央政府の協力の下、進められています。
- 問題を複雑にしているのは、PKKと関係の深いシリアのYPG(シリアのクルド戦闘組織)を米国政府はイスラム国に対する友軍として支援してきた事です。バイデン 氏はYPGへの支援を公言しています。
- トルコはYPGをPKKと関係の深いテロリスト集団と見なしていますので、今後、米国トルコ両国間の火種となる可能性があります。
クルド人の自分の国を作りたいという願望は、トルコ、イラク、シリア、イランいずれの政府からもNOが突きつけられ、厳しい弾圧を受けてきました。
今後の見通しもかなり厳しいと思いますが、バイデン 氏はイラク三分割論を(北部クルド、中央部スンニ派、南部シーア派)唱えた事があり、この可能性は残っていると思います。
しかし、この案を実現するためにも、テロ組織として広く認知されているPKKを封じ込める必要があるでしょう。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。