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ブレグジットによって英国が直面する意外な問題

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交渉期限が迫るブレグジット

ブレグジットの交渉はかなり難航している様です。

来年1月1日に予定されるブレグジットまでに交渉がまとまらなければ、税関での物資の停滞など大きな混乱が予想されます。

世界の金融街であるシティも大きな影響が予想されています。

英国にとって金融業は年間18兆円もの売り上げをもたらす主要産業ですから、英国経済に激震が走ると言っても良いでしょう。

影響は金融業に止まりません。他の産業においても懸念が広がっている様です。

この点について英誌Economistが「What a grand chemistry experiment reveals about Brexit」化学分野の壮大な実験がブレグジットについて明らかにする事)と題して記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

アンドリュー クラーク氏は、業界では「黄色13」として知られている卵黄色のインクのレシピを厳重に保管しています。

しかし、プロセスは単純です。

粉末状の顔料は、溶剤など海外から輸入された多くの物質と混合され、光沢のある製品になります。

ヨークシャーにある彼の工場は、コーティングの特注注文を専門としています。

1月1日に完全に発効するブレグジットはクラーク氏を憂慮させています。

欧州の化学品市場は細分化されています。

彼は、コーティングに独特の品質を与える物質が英国市場から徐々に消え、劣った代替品に依存せざるを得ないではないかと恐れています。

「EUの競合他社は、顧客の目にははるかに優れている最先端の原材料を使用する可能性があります」と彼は語ります。

ジョンソン首相は、化学物質を含む全ての商品の関税を撤廃する貿易協定を望んでいます。

しかし、彼がこれを手に入れたとしても、EUを離れることから生じる頭痛を和らげることはできません。

EUの規制システムから離脱することを約束したブレグジットは、代わりにテムズ川河畔にブリュッセル(EU本部)のミニチュアを複製します。

化学会社、外国の航空会社、弁護士、インターネット会社など、英国でビジネスを続けたいと思うなら、すべてが新たな負担に直面するでしょう。

 

根本的に大きな誤解があります。

EU離脱派は、EUの単一市場は単なるルールブックであり、英国は単にそれらの規則を国内法にコピーすれば良いと考えます。

しかし、単一市場であるEUは規則を定め、その執行を監視するエコシステムとしてよく考えられています。

各国政府はEU本部に依存すれば、不要な監視を行う必要がなく、商品やサービスは国境を越えて自由に流通します。

 

化学物質を管理するEUのシステムであるREACHは、特に厳格です。

ヨーロッパで化学品を販売する企業は、製品がどのように製造されたかを詳述した膨大な書類を提出し、問題が発生した場合に備えて、代理人を任命する必要があります。

このシステムは、600人のスタッフと1億ユーロ(120億円)以上の予算を持つヘルシンキの欧州化学機関(ECHA)によって監督されています。

その施行は、リバプールに本拠を置く英国の健康安全局(HSE)などの国家機関のネットワークによって行われます。

その結果、膨大な情報データベースに支えられた、クラーク氏と彼の競合各社が選択できる23,000の化学物質の自由流通プールが生まれました。

ジョンソン氏の前任者であるメイ前首相は、離脱から得られるものはほとんどない事を確信して、REACHに残留する様求めました。

しかし、これは「チェリーピッキング(いいとこ取り)」と呼ばれ、EUに拒否されました。

そのため、英国は「UK REACH」という名称で、国内で同様の体制を再現しようとしています。

最も難しい作業は、ECHAのデータベースを複製することです。

英国閣僚は当初、単にコピーして貼り付けることができると主張しました。

しかし、それは商業的に敏感な知的財産であふれており、EUはこれまで、化学物質データ共有を求める英国の要求を拒否してきました。

代わりに、英国政府はクラーク氏のサプライヤーにデータを提出するよう要求します。

しかし、多くの書類は多国間の企業コンソーシアムによって作成されており、フランスの企業が英国のライバルを救済する理由はほとんどありません。

ドイツの大手化学会社であるBASFは、UK REACHに登録すると、7,000万ポンド(94億円)の費用がかかると考えています。

大陸のサプライヤーが利用するある英国の流通業者は、英国に輸入したすべての物質に関するデータを提出しなければならない場合、年間売上高1,500万ポンドで、登録料として100万ポンドが必要と試算し、「一週間で破産するでしょう。」と語りました。

これだけ高い登録料がかかるとなると、製造業者は少量の製品の登録は不可能であると結論付け、その物質が英国市場で流通しなくなります。

結果として、組立ラインの様な様々な物質を取り揃える必要があるビジネスにとって、英国は魅力的でなくなるでしょう。

ブレグジットが当初約束した事は、英国が独自に規制を決められる様になり、必要に応じてEUよりも機敏にまたは厳格に行動することでした。

しかし現実はそうではありません。

ブレグジット後の英国の将来

Economistの記事を読んでいると、英国の将来が心配になってきます。

ここに書かれている問題は氷山の一角で、様々な業界で難問が続出する事でしょう。

英国人は、あまり原理原則にとらわれず、結果さえ良ければ過程についてはうるさくない国民だと言われています。

良く「ウィンブルドン現象」と言われますが、英国の選手が何十年も勝利していないテニス大会の運営を嬉々として続けています。

彼らにしてみれば、自国の選手が勝たなくても、世界中の有名選手が集まり、英国にお金が落ちればいいんだという割り切りがあります。

そんな英国がEU離脱を決めたのは、意外な結果でした。

ブレグジットを決めた国民投票の際の離脱派のスローガンは「Take back control」でした。それだけEU本部(ブリュッセル)の官僚にコントロールされるのが嫌だったのでしょう。

ブレグジットは英国経済に当面マイナスの影響をもたらすと思いますが、このまま英国がおめおめと引き下がる事はないと思います。

注目されるのは移民政策です。

これまでは、EU内の優秀な若い人材(特に中東欧から)がロンドンに集まってきていました。今後も世界中から優秀な人材が集まる様であれば、英国は安泰と思います。

英国には、まだ「英語」と「優れた高等教育機関」という切り札があります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。