ブレグジットの衝撃
ブレグジットは英国に職を得ていた多くのヨーロッパ人の肝を冷やしました。
ご存知の通り、EU域内は、原則、人、もの、金が自由に行き来できる事になっていますが、英国がEUから離脱すれば、この原則も適用されなくなる訳です。
英国に住み着いていたヨーロッパ人は、引き続き英国に住み続ける事を選択するのでしょうか、はたまた母国に帰る事を選択するのでしょうか。
これは英国の将来にも大きな影響を与えます。
何故なら英国はこれまでヨーロッパ特に中東欧の人材を移民として受け入れる事で、自国の経済成長の原動力ににしてきたからです。
この点について、英誌Economistが「Britain is much more European than anybody thought - Some 5m EU citizens want to stay in the UK」(英国は誰もが思っていたよりもはるかにヨーロッパである - 約500万人のEU市民が英国に滞在したいと考えている)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
2016年6月のブレグジット投票の直後、混乱したヨーロッパ人のグループがブリストルのパブに集まりました。
彼らはその場で、英国のEU市民のためにロビー活動を行う組織を設立することを決定しました。
そのグループの重要性を伝えたいと考え、彼らを300万人クラブと自称しました。
現在、「クラブの名前を変更する必要がある」と、創設者の1人であるMaikeBohnは言います。
6月30日は、英国との間を自由に行き来することができたヨーロッパ諸国の市民が、定住資格を申請する期限です。最新の調査では、約500万から560万件の申し込みがありました。
一部の国の移民は、統計学者が考えていたよりもはるかに大きいことが明らかになりました。
ポーランド人に次ぐ英国で2番目に大きいヨーロッパ人のグループであるルーマニア人は、3月末までに918,000件の申請を行いました。
これは、2019年の推定人口の約2倍です。
501,000件の申請を行ったイタリア人も予想の2倍でした。
EU市民と協力している慈善団体は、6月に申請が急増していると述べています
これらの申請をを処理する仕事量は非常に大きいため、問題発生を恐れる人もいます。
特に、多くのヨーロッパ人移民はは、子供に代わって申請しなければならないことを理解していないようです。
7月1日から混乱や問題が生じると思われますが、英国政府も、良く働きました。
怠惰と頑固さで知られる内務省は、大多数の申請を迅速かつ寛大に処理してきました。
5月31日の時点で、申請を拒否されたのは2%のみです。
受け入れられた人々の約半数は、定住権を与えられています。
定住者のステータスを与えられたヨーロッパ人の何人かは、パンデミックの間に去り、戻ってこないかもしれません。
しかし、英国は政府が予想した350万ー410万人よりもはるかに多くのヨーロッパ人移民を抱える事になります。
500万人という数字は、2011年の英国の人口統計では、混血を除く、インド系の150万人、パキスタン系の120万人、黒人190万人を合わせた数字より大きいです。
今のところ、イギリスのヨーロッパ人移民は若々しいです。
英国人の19%が65歳以上ですが、 定住移民申請者の2%のみがその年齢層でした。
彼らは英国のどこにでも住んでいます。
2004年にEUに加盟した東ヨーロッパおよびバルト諸国からの移民はイギリス全土に定住しました。
リトアニアとポーランドの店が開く前は移民をほとんど見たことがなかった小さな町にもです。
対照的に、西ヨーロッパと南ヨーロッパからの移民は都市に集中しており、ブルガリア人とルーマニア人は主に2013年以降に到着しました。
3月末までに定住資格を申請したポーランド人のわずか19%がロンドンに住んでいますが、ルーマニア人は34% 、イタリア人の46%、フランス人は54%が住んでいます。
2020年末までに英国に住んでいたほとんどのヨーロッパの成人は、地方選挙、および北アイルランド、スコットランド、ウェールズの議会への選挙に投票することができます。それは彼らに影響力を与えます。
数年前まで、ヨーロッパ人の移民がイギリス市民になることはめったにありませんでした。
しかし、ブレグジットの結果により、市民権申請が急増しました。
英国市民権の申請は、大人1人あたり1,330ポンド(約20万円)と高額です。
ドイツやリトアニアなどのいくつかのヨーロッパ諸国は、二重国籍に眉をひそめています。
それにもかかわらず、特に子供たちが英国で育った場合、多くの移民は最終的には申請を決断する様になります。
不思議なことに、英国のほどんどの政治家は、この膨大な有権者候補のグループを無視しています。
何百人もの労働党活動家が彼らの指導者であるKeirStarmer卿に手紙を書き、EU市民の権利に対する党のほぼ沈黙を「許しがたい」と非難しました。
コスタ氏はたゆまぬロビー活動を行っていますが、保守党は数年前よりもEU市民グループとの関わりがさらに少なくなっています。
英国の巧みな移民戦略ー日本のモデルとなるか
私も過去に色々な国に住みましたが、イギリスに住んでいた頃、問題は特に感じませんでした。
これは日本人が特に厚遇されているという訳ではなく、いかなる国の国民も同様に英国の心地よさを感じる様です。
そこでは、安全と人権が保障され、アメリカの様なヘイトクライムは稀です。
英国人紳士たちが心の底で外国人を蔑視しているかどうかはわかりませんが、少なくとも表面上は、外国人即ちダイバーシティを尊重する文化があると思います。
フランス人は植民地時代に、死ぬときは母国の土の上で死にたいと感じていた様ですが、英国人は文字通り植民地に骨を埋める覚悟ができていたといいます。
ダイバーシティを許容する社会、言葉として英語が使えるというアドバンテージ、そして金儲けのチャンスがたくさんある英国に魅力を感じる外国人はヨーロッパ人だけではありません。
私がロンドンで働いていた時に、優秀な部下がいましたが、彼はポーランド人でした。
ロンドンは最高の金儲けの機会が転がっている場所であり、英国が彼の様な有能な人材を吸い上げる構図が変わらないのは、今回の定住権申請が予想より多かった事が証明しています。
英国は、EUから若い優秀な人材を取捨選択して受け入れる事により、少子高齢化の問題もうまく解決する事でしょう。
この英国モデルを日本も参考にすべきと思いますが、アジアの有為な人材が日本を目指すという動きは残念ながら見当たりません。
移民にとって金儲けの機会があるかどうかは重要な基準です。
一人当たりの国民所得が韓国にも抜かれかかっている日本、このままでは移民にとって魅力のない国になってしまうのではと心配です。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。