ジョンソン首相の演出
先日、英国のジョンソン首相はウクライナのゼレンスキー大統領を招待(勿論バーチャルですが)して、大統領に英国議会で演説を行わせました。
その演説が終わると、首相を含む議員がスタンディングオベーションで称えた様ですが、このジョンソン首相の派手な演出に白々しさを感じたのは私だけではなかったと思います。
英国のウクライナ対応に関して、英誌Economistが「The British government’s response to Ukrainian refugees is sadly typical」(ウクライナからの難民に対する英国政府の対応は悲しいことにこの政府の典型的なパターンである)と題する記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ウクライナ人がロシアの攻撃を避けようと考えた時、「もちろん、私たちは難民を受け入れるつもりです」と、ボリス・ジョンソン首相は約束しました。
「ウクライナを喜んで支援するという点で、我々は最前線にいます。」とも付け加えました。
しかし、これまでのところ、英国によるウクライナ難民の扱いは、誠実でも正直でもありません。
それは悲しいことにこの政府の典型的パターンです。
侵略が始まると、EU諸国は、すべてのウクライナ人がビザなしで入国でき、少なくとも一年間は生活し、働き、福祉を受けることにすぐに同意しました。
対照的に、ジョンソン氏が「グローバル・ブリテン」と呼んでいる国は、EU外の国(ウクライナなど)とのより緊密な関係を追求するために、官僚的なEUを離れた筈ですが、想像できる最も卑劣な提案を思いつきました。
パテル内務大臣は、ウクライナ人に英国に親しい家族がいる場合、受け入れられる可能性があると述べました。
しかし、彼らは入国前にビザを取得する必要があります。
ウクライナから避難した人々はどこでビザを取得できますか?
英国の最も近い港であるカレーにはビザを発行できる施設がありません。
パテル女史はそこで申請書を処理することを望みませんでした。
彼女は議会に、「難民急増」が起こらないようにと説明しました。
カレーにやって来たウクライナ人は、ポテトチップスのパックを受け取り、オンラインで申し込み、パリ、ブリュッセル、またはリールで1週間後の面談を予約する様にと言われました。
オフィスは人員が少なく、しばしば閉鎖されています。
保守党の議員たちは、この政府の対応を「ロボット」と呼んでいますが、少なくともロボットはもっと効率的です。
英国が彼らを助けることを約束する一方で、絶望に瀕している人々を冷淡に扱ったのはこれが初めてではありません。
昨年、パテル女史は、タリバンがアフガニスタンを乗っ取った後、「恐怖の中で生きている」アフガニスタン人を捨てないことを約束しました。
1月に英国のビザ制度が開始されたとき、初年度の5,000人ほどのスロットの多くは、すでに英国に住んでいるアフガニスタン人によって埋められることになりました。
政府の行動の一つの言い訳は、英国人が気まぐれであるということです。
世論調査は国民が彼らの指導者よりはるかに寛大であることを示していますが、ウクライナ人、またはウクライナ人になりすました誰かが英国で犯罪を犯した場合、国民は政府を非難するでしょう。
しかし、この言い訳は根拠が薄弱です。
他のヨーロッパ諸国も、同じ様に外国人嫌いの国民を抱えていますが、彼らの指導者たちは、戦争が激化する間、避難所を提供し、生じうる混乱は後で処理することを正しく決定しました。
英国だけが事務処理優先の方針に従っています。
英国はその気になれば、外国人を寛大に扱うことができます。
過去1年間で約10万人の香港人に移住を許可し、500万人余りのEU市民に大きな混乱なく市民権を与えました。
しかし、急速に変化する危機に直面したとき、政府は、狭量な対応に陥ります。
それは根本的に不誠実な人々によって率いられた根本的に不誠実な政府です。
しかし、人事異動以上のものが必要です。
内務省は、その広大な役割もあって、長い間英国で最悪の機関の1つでした。
それは移民と犯罪者の両方を扱うので、移民を潜在的な犯罪者と見なす傾向があります。
無能なパテル女史に辞めてもらうだけではなく、この機関を二つに分割する必要があります。
対岸の火事を見守る英国
英国のウクライナ難民の扱いがこれほどひどいとは知りませんでした。
確かに香港の住民に英国パスポートを与えるというジョンソン首相の判断も、香港の優秀な中国系人材を金融ハブのロンドンに引き込もうとの思惑があったのかも知れません。
中東から欧州に流れ込んだ難民の受け入れに積極的だったのはドイツで、これら難民の受け入れを嫌った事が、英国のEU離脱の一因となりました。
英国は自国に役立つ人材だけを選択的に受け入れようという方針だと思いますが、これではグローバルブリテンという看板が泣きますね。
今回のウクライナ危機において、英国はドーバー海峡の向こうから対岸の火事を遠くから見物している様に見えてなりません。
過去に何度も国際的な紛争を調停してきた英国の知恵と経験が今こそ求められています。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。