米国の威信が揺らいだ一日
先日のトランプ大統領支持者による国会乱入には驚きました。
神聖なる国会議事堂を踏みにじった暴徒の振る舞いにも驚きましたが、それを阻止すべき警官隊が機能不全に陥っていた事や、この乱入そのものが、法と秩序を守るべき現職の大統領によって扇動された事も信じがたい事実でした。
米国は民主主義国のリーダーでした。
ベトナム戦争などその歴史を傷つける幾つかの出来事はありましたが、自由民主主義国のモデルとして尊敬されてきましたが、今やその権威は大きく揺らいでいます。
もはやイランの大統領からも欧米の民主主義というのはこの程度のものかと馬鹿にされる始末です。
米国の識者は今回の事件をどう見ているのでしょうか。
米誌Foreign Affairsが「Present at the Destruction - Trump’s Final Act Has Accelerated the Onset of a Post-American World」(破壊に立ち会う - トランプの最後の行動は、ポストアメリカン世界の始まりを加速させた)と題した論文を記載しました。
筆者は米外交問題評議会の議長であるハース氏です。この評議会は1921年に設立された超党派の組織であり、米国外交政策に大きな影響力を持つとされています。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs論文要旨
当初から、トランプ氏の外交政策の本質は、4分の3世紀の間、米国に大いに役立った取り決めと政策を混乱させた事でした。
トランプ大統領の長年の協定や組織からの突然の撤退、同盟国への攻撃、権威主義的支配者の受け入れと人権侵害の無視、協議なしにツイッターで政策変更を発表する彼のやり方、これらすべては、米国の影響力を著しく低下させ、気候変動、感染症、核拡散、サイバー脅威に対処するための世界的な取り組みを損なうことになりました。
しかし、1月6日のワシントンでの出来事、つまり国会議事堂での無法と暴力、そしてトランプと数十人の共和党議員による11月の大統領選挙の結果の受け入れ拒否は米国の受ける損害を更に大きくするでしょう。
この影響はアメリカに止まりません。
米国の優位性が失われたポストアメリカの世界は、自らが行った行為により、予想されるよりも早く訪れるでしょう。
世界は長い間、米国での出来事に細心の注意を払ってきました。
1950年代と1960年代の市民権運動とベトナム戦争への抗議、ウォーターゲート、2008年の金融危機、そしてジョージフロイドの殺害 、および新型コロナ感染に対する米国の失策などです。
しかし、1月6日の国会議事堂の包囲と占領は、決定的でした。
米国大統領は、多くの支持者とともに、米国の民主主義を破壊する目的で暴力を扇動しました。 (法執行機関の失策もあり、基本的なアメリカの能力についての疑問が提起されました。)
これらの画像は、米国で何か大きな間違いが生じていると仲間の民主主義国に感じさせました。
彼らの恐れは、トランプが大統領執務室を去った後も、彼は政界にとどまり、アメリカの政治に影響を与え、しばらくの間共和党を支配するだろうというものです。
バイデンとハリスの下でのより伝統的なアメリカの行動への回復は、限られた一時的な休息を証明するだけです。
その結果、同盟国は彼らの安全を米国に委ねるという彼らの決定に疑問を呈するしか選択肢がありません。
オバマ政権下で、そしてトランプの下でさらに多くの行動の結果として、この面ですでに疑問が提示されていました。(同盟国を攻撃し、独裁者を容認し、一方的にそして予測できない行動をとる)。
そのような疑念は、他の国々が米国の懇願を無視し、強力な隣人の力を借りる、または彼ら自身の軍事力を使用することによって、政策問題を自分たちの手に委ねる傾向が大きいことを意味します。
この兆候は、中東、ヨーロッパ、アジアですでに明らかです。
イエメンでのサウジアラビア戦争、トルコのシリアへの関与、ナゴルノカラバフでのアゼルバイジャンへの支援、欧州連合の中国との投資協定、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの結果、政治的および経済的に開かれた世界が縮小し、米国は重要ではあるが支配的な影響力や権力を保持しなくなります。
国会議事堂での暴力は、特に、民主主義と法の支配を擁護する米国の能力を弱めるでしょう。
中国のような権威主義政権はすでに自信を見せており、先週の米国での事件は、香港での弾圧や新疆ウイグル自治区での弾圧を批判するとき、彼らのモデルの優位性と米国当局者の偽善の両方を証明していると主張しています。
同様に、世界最大の核兵器を有する最高司令官がその職務にふさわしい人物ではないように見える時、他の国に十分な責任能力がないという理由で核兵器の拡散に反対する議論に耳を傾ける人はいません。
個人の場合と同様に、国の評判は構築するよりも破壊する方が簡単です。
それでも、米国は、被害を修復するために可能な限りのことをする必要があります。
ポストアメリカの世界でさえ、米国の権力と影響力は依然として大きく、安定した、開かれた、効果的な国際秩序を構築するためには、米国の大きな貢献が必要です。
次期バイデン政権は、米国国内がより良い状態になるまで、世界の民主主義の会議を召集するなどという計画は延期するのが賢明でしょう。
先ずは、9/11委員会のような組織を立ち上げて、国会議事堂の事件について調査し、法と秩序の崩壊が恒久的な状態になることは許されないことを世界に知らせることも不可欠です。 。
しかし、必要なものの多くは、より長期的な努力を必要とします。
国は、パンデミックによって引き起こされた不況で大幅に拡大された不平等に、収入と教育へのアクセスの両方で対処しなければなりません。
そのような条件は、欲求不満と、左右のポピュリズムと急進主義を引き起こします。
特定の課題の1つは、共和党の方向性です。アメリカの民主主義は、その主要政党の1つが野党に下ることを拒否した場合、機能しません。
共和党は、党が過激派よりも保守派であるかどうかを決定する必要があります(そして、過半数が後者を選択した場合、保守派は、新しい党を結成するかどうかを決定する必要があります)。
アメリカの政治文化を変えるには、野心的で幅広い対策が必要です。それには、ソーシャルメディアの有害な要素に対抗する必要があります。
ソーシャルメディアは、人々を自分の見解に一致する声や情報に駆り立てる傾向があります。
市民教育への再投資が求められています。
民主主義のDNAは世代から世代へと自動的に伝達されるわけではありません。
そして、それは国家奉仕の概念を再考する必要があります。
米国はますます複雑な国になり、地理、人種、経験、教育、そして政治的傾向によって分断されています。
より多くの若いアメリカ人が他の階層、人種、宗教、背景のアメリカ人と会い、協力しなければなりません。
規範は民主主義の本質的な基盤ですが、トランプは、規範の連続違反者でした。
結局のところ、最も重要なのは、国の指導者と市民がどのように行動するかです。
1月6日は、悪名高く記憶されるでしょう、そして記憶されるべき日です。
ここでは歴史が役に立ちます。
ニューディールに拍車をかけたのは大恐慌の衝撃であり、アメリカの孤立主義を終わらせたのは真珠湾の衝撃でした。
1月6日が集団的共同体の探求と内部改革につながる場合、米国は大国間の競争を管理し、世界的な課題に取り組むために必要なソフトパワーとハードパワーを取り戻し始めることができます。
いつものように、外交政策は国内で始まります。
ポストアメリカの世界は米国によって支配されることはありませんが、それは世界が中国によって主導されたり、混沌によって定義されるという意味ではありません。
米国の再生は可能か
ハース氏が指摘する通り、米国の分断はSNSによって更に悪化した様に思われます。
ツイッターがトランンプ氏のアカウントを永久に封鎖しました。トランプ氏のツイッターによる国民の扇動も責められるべきですが、これから同じ様な事が起きるに違いありません。
意見が過激な方がリツイッター数が増えるというSNS特有の問題を解決しないと、米国の分断は益々広がる様な気がします。
それにしてもトランプ氏は今後どうなるのでしょうか。
一説によれば、既存のマスコミに満足しないトランプ氏は、「トランプ チャンネル」と言ったメディアを立ち上げるそうですが、今後も台風の目になることは間違いありません。
トランプ氏の様なポピュリストが台頭するのは世界的な傾向ですが、あまり喜ばしいことではありません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。