世界中の出来事を暴き出すネット上の情報
以前NHKスペシャルだったと思いますが、マレーシア航空の飛行機がウクライナ上空で撃墜された事故に関して興味深い番組を放映した事を覚えています。
飛行機の軌跡を追跡した衛星写真と地上の様々なカメラで取られた写真を丹念に分析する事により、ウクライナで作戦中の親ロシア系武装集団の地対空ミサイルが関与した事を明らかにしていました。
この番組を観ていて驚いたのは、ウクライナの民間人が撮った膨大な数の写真がネットで取得可能な事でした。
現在、地球上には夥しい数のカメラが設置されており、衛星写真と組み合わせると、世界で何が起きているか仔細に理解できる様になっています。
オープンソース インテリジェンス(OSINT)と呼ばれるネット上の情報を使った分析は急速に進歩していますが、その社会に与える影響について英誌Economistが「The promise of open-source intelligence - It is a welcome threat to malefactors and governments with something to hide」(オープンソースインテリジェンスが約束するもの - 何かを隠そうとする悪意のある人々や政府にとって脅威となる)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
1990年代と2000年代の大きな期待は、インターネットが開放性と自由の力になることでした。
しかし現実は そうなりませんでした。
悪い情報はしばしば良いものを追い出しました。
権威主義国家は、彼らのグリップを強めるためその技術を採用しました。
情報は戦争の武器として使用されました。
この失望の中で、1つの技術が新たな希望を提供します。
それはオープンソースインテリジェンス(OSINT)です。
ドライブレコーダーから電磁スペクトル全体を見ることができる衛星まで、新しいセンサーがこれまでにないレベルで惑星とそこに住む人々を調べています。
その様なセンサーが収集する情報は安くなっています。
衛星画像は20年前には数千ドルの費用がかかりましたが、今日では無料で提供されることが多く、比類のない高品質です。
地球上のあらゆる場所において、被災したタンカー、都市で走るジョガーがたどったルートまで数回クリックするだけで写真を入手できます。
また、オンラインコミュニティや、Slackなどのコラボレーションツールを使用すると、愛好家や専門家はこの情報の宝庫を使用して、難問を解決したり、驚異的なスピードで悪行を暴いたりすることができます。
人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは、ミャンマーの民族浄化を記録するために衛星画像を分析しました。
超小型衛星は、違法に漁業を行っている船舶にタグを付けます。
アマチュアの探偵は、欧州連合の警察機関であるEuropolが、写真の背景にある地理的な手がかりを特定することにより、児童の性的被害を調査するのに役立っています。
ヘッジファンドでさえ、合併や買収を予測するために、世界中のアマチュアのウェブによって追跡されているプライベートジェットでの会社の幹部の動きを定期的に確認しています。
したがって、OSINTは市民社会を強化し、法執行を強化し、市場をより効率的にします。
また、世界で最も強力な国のいくつかに真実を突きつけるともできます。
ロシア政府からの激しい否定に直面して、調査グループのベリングキャットは、2014年のマレーシア航空MH17便に対してウクライナ上空でロシアが果たした役割を、ほんの一握りの写真、衛星画像を使用して綿密に示しました。
さらに、2018年にイギリスで元ロシアのスパイであるセルゲイ・スクリパルを暗殺しようとしたロシアのエージェントを特定しました。
ここ数週間、衛星画像を調べている研究者たちは、中国が砂漠に何百もの核ミサイルサイロを建設しているのを発見しました。
このような情報の解放が、大きな影響を与えることは間違いありません。
OSINTの分散型で平等主義的な性質は、真実と虚偽をねじまげようとする政府とそのスパイや兵士の力を弱めます。
弊誌の様に、権力者が秘密を簡単に悪用できると信じている人は、OSINTを歓迎します。
真実が明らかになる可能性は、政府の不正行為のコストを上昇させます。
OSINTは、ロシアがウクライナに侵入したり、中国に強制収容所を構築することを妨げないかもしれませんが、彼らの嘘をあばき出します。
ベリングキャットの創設者であるEliotHigginsは、彼の組織を「人々のための諜報機関」と表現しているのは正しいことです。
自由民主主義もより正直に保たれるでしょう。
市民はもはや政府を信頼する必要はありません。
報道機関は、それらを説明するための新しい手段を持っています。
今日のオープンソースと方法は、イラクが化学兵器、生物兵器、核兵器を開発していたという2003年のブッシュ政権の指摘を正しく非難できていたでしょう。
それはイラク戦争を未然に防いだかもしれません。
研究者が兵士のフィットネストラッカーからのデータを使用して、CIAの前哨基地やレーダー衛星を明らかにする可能性があるとして、OSINTが国家安全保障を脅かすと警告する人もいます。
しかし、OSINTがそのようなことを世界に伝えることができるなら、敵はすでにそれらを知っているはずです。
他の人は、OSINTが間違っている可能性があると指摘するでしょう。
2013年のボストンマラソン爆破事件の後、インターネットユーザーは犯罪現場を精査し、数人の容疑者を特定しました。
全員が無実の傍観者でした。
またOSINTは、誤った情報や陰謀説を広めるために悪意のある人物によって使用される可能性があります。
ただし、すべての情報源には誤りの可能性があり、画像とデータの精査はそれらのほとんどよりも経験的です。
したがって、OSINTが間違っていたり、悪意を持っている場合は、競合するOSINTが情報を訂正する最良の方法であることがよくあります。
そして、時間の経過とともに、研究者や研究者は、健全な分析、適切な判断で評判を築き、人々が信頼できる情報源と山師を簡単に区別できるようになります。
最大の懸念は、オープンソース調査の背後にあるデータの爆発的増加が個人のプライバシーを脅かすことです。
電話で生成され、ブローカーによって販売されたデータにより、ベリングキャットは昨年、野党党首であるアレクセイ・ナワルニーを毒殺したロシアのスパイを特定することができました。
デジタル時代の個人のプライバシーにはトレードオフが伴います。しかし、国や組織のレベルでは、OSINTは善のためになることを約束します。
それは誰も止められません。
多くのアメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシアの衛星会社が画像の販売を争う世界は、相互監視された世界です。
この様な開かれた社会を受け入れるのが賢明な未来です。
ミサイルサイロを発掘し、スパイを明らかにすることができるツールとコミュニティは、世界の神秘性を減らし、危険を減らします。
情報は依然として無料でありたいと望んでおり、OSINTはそれを解放する使命を帯びています。
開かれた社会を加速させるオープンソースインテリジェンス
情報社会の進化は想像を上回るスピードで進んでいる様です。
ヘッジファンドが大企業の幹部の移動をプライベートジェットの軌跡を分析する事によって追跡しているとは知りませんでした。
私もオープンソースインテリジェンスによって開かれた社会が広がる事に基本的に賛成です。
しかし、一抹の不安があるのは、ありとあらゆる場所にセンサーがついている事から、いつも誰かに見張られている様な気がする点です。
アマゾンが販売しているEchoというデバイスがあります。
アレクサと呼びかけるとすぐに応答するこのデバイスを最近使っていません。
というのもすぐに応答するという事は常に私たちの会話を聞いているという事だからです。
その気になればプライベートな会話をアマゾンは分析するのみならず、第三者に販売する事も可能です。
お茶の間の会話に価値があるとは思えませんが、他人に覗き見されているのは気持ち悪いですね。
どこまで情報をオープンにすべきか今後議論が必要と思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。