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ビザやマスターカードの牙城を崩せるかフィンテック企業

世界の支払い手段を独占する二社

世界中どの国に行ってもクレジットカードといえばVisaかMasterです。

クレジットカードには様々な保険が組み込まれている上に、マイレージやポイントなどが貯まったりする特典も供与されます。

でもこの様なサービスがただなわけがありません。

これら様々なサービスのコストは最終的に価格に上乗せされ、消費者が払っているのです。

この美味しいサービスを独占してきたクレジットカード界の巨人VisaやMastercardに対して新しい挑戦者が現れてきた様です。

英誌Economistが「Can the Visa-Mastercard duopoly be broken?」(Visa-Mastercard の独占を破ることが出来るか?)と題された記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

多くの小売業者は、銀行やクレジットカード発行会社が加盟店に料金を請求するインターチェンジ システムを嫌っています。

加盟店は毎年 1,380 億ドル(約18兆8千億円)の手数料を支払っています。

ロビー団体である全国小売業連盟によると、これは賃金に次いで 2 番目に大きなコストです。

また、買い物客はこのシステムの存在にほとんど気づいていませんが、商品の価格が高くなる事により苦しんでいます。

 

アメリカは主要経済圏の中で最も高額なインターチェンジフィーの本拠地であり、そのコストはヨーロッパや中国よりも桁違いに大きいです。

これは、米国のクレジットカード取引の 4 分の 3 以上を処理している VisaMastercard の 2 社に大きな恩恵をもたらします。

これにより、昨年の純利益率はそれぞれ 51%46% で、世界で最も収益性の高い 2 つの企業になりました。

昨年、5 年前、そして10 年前の純利益率でランク付けすると、常にトップ 20 に入る企業は 4 つだけでその内2社が MastercardとVisaです。

 

一見すると、彼らの立場は脅かされない様に見えます。

すでに支配的である彼らは、近年、新型コロナによって誘発されたオンラインショッピングの増加によって更に後押しされています。

アメリカの消費者は、2016 年取引の 45% でクレジット カードまたはデビット カードを使用しましたが、2021 年には 57% に達しました。

Mastercard の Craig Vosburg 氏は、現金からカード払いへの移行は「重要かつ長期にわたる追い風」であると述べています。

しかし、2 つの脅威が迫っています。

1つ目は米国政府からのもので、議会は2社の支払いシステムに対する支配を打破することを望んでいます。

2 つ目は新しい技術です。

ブラジル、中国、インドネシアでは、メルカド パゴ、アント グループ、テンセント、グラブなどのハイテク大手による安価で便利なアプリベースのオプションによって、決済が変革されています。

これら新規参入者はアメリカの市場を揺るがす可能性があるように見えます.

 

これは、消費者と小売業者にとって朗報です。

Visa と Mastercard の利益の多くは、最終的に、買い物客がカードを使用して買い物をするときに請求される手数料によってもたらされます。

EU は、クレジット カードの手数料を取引額の 0.3% に制限しています。

中国では競争が激しいため、WeChat と Alipay の料金はわずか 0.1% です。

アメリカでは、クレジットカードの手数料は規制されておらず、高額であり、通常は取引の約 2% に達し、一部のプレミアム特典カードでは 3.5% にまで上昇します。

 

これらの手数料はMastercardとVisaによって設定されますが、銀行によって徴収され、保険や航空マイレージなどの特典に資金を提供して顧客を引き付けます。

銀行は莫大な手数料をカード会社に支払いますが、その結果、消費者が知らない間に小売価格を 1.4% 引き上げています。

貧しいアメリカ人は最悪です。

商品の価格には高い手数料が組み込まれており、貧しい人々が使用する可能性が高いカードまたは現金で支払う場合でも、価格は通常同じです。

「ポイントを獲得していない場合、実質的に他の人に資金を提供していると言うことです」と、ポイントや特典の使用を奨励するビジネスモデルを作り上げたブライアン・ケリーは言います。 

年収が平均で 25,000 ドル (全体の約 4 分の 1) 未満の世帯は、カードから利益を受けることができません。

年収が 135,000 ドルを超える世帯は、支払った料金の約 0.6 パーセントをポイントまたは特典で回収できます。

 

これらの料金は、いくつかの便益に資金を提供しています。

特に、規制当局や立法者が他の場所で提供している種類の消費者保護は重要です。

たとえばヨーロッパでは、規制により、顧客が商品、特に欠陥のある商品を返品できるようになったり、航空会社が遅れた乗客を補償したりできるようになっています。

アメリカのカードネットワークは説明どおりに何かが提供されない場合、消費者は「チャージバック」、つまり決済された支払いの承認を取り消すことができます。

また、カード ネットワークは手数料を使用して、決済システムを安全に保ち、不正行為を防ぎます。

要するに、アメリカ人は消費者を保護するために、法律や規制よりも資本主義と競争に依存しています。

しかし、米国の国会議員は遂にクレジットカードに注目し始め、 7 月 28 日、民主党上院議員であるリチャード ダービンは、クレジット カード競争法 (CCC) を導入しました。

この法律は銀行が加盟店に少なくとも 2 つの異なるカード ネットワークの選択肢を提供する事を強制します。

 

一方、カード界の巨人にとってより大きな脅威が迫っています。

これまでのところ、決済市場への新規参入者は、消費者がカードをオンラインで簡単に使用できるようにすることで、Visa と Mastercard に利益をもたらしてきました。

しかし、新しいフィンテックが影響力を獲得するにつれて、彼らが提供する支払いの新たな選択肢は、カードネットワークを介して移動するお金の量に影響を与える可能性が出てきました。

 

大手決済インフラ企業の Stripe は、小売業者にコストを削減する決済方法を提供するために取り組んでいると述べています。

彼らのオプションには顧客が銀行振込を使用して購入の支払いを行うことができる「buy-now-pay-later」プロバイダーである Klarna が含まれているため、カード ネットワークを回避できます。

一つの例を挙げましょう。

オンライン小売業者のエバーレーンからリネンのズボンを購入したとき、彼女はフィンテック アプリである Catch を使用して支払うように勧められました。

このアプリは、Plaid という別の決済スタートアップを介して彼女の銀行口座にリンクされていました。

カード ネットワークを避けてくれたお礼として、Everlane は取引額の 5% 相当のショップ クレジットを提供しました。

 

これが脅威であることを示す証拠として、Visa による Plaid の買収の試みが挙げられます。

2020年、同社はこの新興企業を53億ドルで買収しようとしましたが、この取引によりVisaが競争上の脅威を排除できるという理由で、反トラスト規制当局によってこの買収は無効となりました。

決済の巨人 2 社が入念に構築した決済手段は手ごわく、長年にわたって使用されてきました。

しかし、それは不滅ではありません。

切り崩されるかカード帝国

それにしてもビザやマスターカードの利益率には驚かされます。

暴利を貪っていると言っても良いレベルですね。

圧倒的な市場プレゼンスを得た彼らにとって新規参入者を排除するのは容易だったでしょう。

しかし、筆者はいずれ彼らの牙城が新しいフィンテックにより切り崩されると思っています。

私がしばしば滞在するトルコでは、クレジットカードで払いたいと言うと店の人から嫌な顔をされます。

特にアメリカンエクスプレスカードは最悪で、手数料が高いので勘弁してくれと言われます。

カードの代わりに現金で払うのであれば割引すると言う店も少なくありません。

先日高額の商品を買った時には、スマホのアプリで店の銀行口座に振り込み、その場で彼らは入金を確認しました。

この銀行振込で5%の割引を得られるのですから、今後、クレジットカードを使う客は少なくなるのではないでしょうか。

クレジットカード巨人衰退のもう一つの理由は、米国の相対的な地位の低下です。

ドル覇権を背景にビザやマスターは伸びてきたのだと思いますが、今後中国やインドなどがのしてくれば、中国やインドのアプリで支払った方がコストも安いので好都合という客が増えてくる様な気がします。

ロシアに対する経済制裁でロシア人がビザとマスターカードが使えなくなったとの報道がありましたが、ロシア人観光客が大挙訪れるトルコの様な国では、即座にロシアのクレジットカードである「ミール」の使用が始まり、ロシア人観光客は不自由なく支払いを行なっています。

世界が二極化していくと、西側ではビザやマスターが、中国やロシアではアリペイやミールが使用される様になると思われます。

米国が経済制裁を政治的手段として使えば使うほど、ビザやマスターの使用人口は減っていく可能性があります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。